婦人部会での営業
カラオケ『シノブ』の看板に灯りが点る。
門松道子(代議士の奥様)主催の定例婦人部部会(キャベツの会)。
本日最後のご挨拶廻りの会場である。
駐車場の隅に漆黒の公用車が控えめに停車している。
車内では先生が、「康正」の文字を丸くプリントした黄色のブルゾンに着替え、鼻糞を丸めながら新聞を見ている。
恋三は車からは外を眺めている。
恋三「・・・奥様、遅いですねえ」
先生「 うん? 壁塗りで手間が掛かってるんだろう」
恋三「カベヌリ?」
先生「・・・」
しばらくすると駐車場に、白い軽ワゴン車が入って来る。
恋三「あッ! 奥様が到着しました」
先生は無関心に、
先生「ふ~ん・・・」
恋三はワゴン車から降りて来る人達を見て先生に知らせる。
恋三「先生」
先生「うん?・・・」
恋三「ヨネさんとお爺さん、あ、博子さんが到着です」
先生「ふ~ん・・・」
恋三「先生、そろそろ」
先生「いい」
恋三「え?」
先生「盛り上がってからで良い。疲れたろう。君も少し寝なさい」
恋三「はあ? ・・・はい」
暫く時間が過ぎる。
突然、
先生「おい! いつまで寝てる。行くぞ」
恋三は飛び起きる。
恋三「えッ? ア! ハイ。すいません」
『カラオケ・しのぶ』の宴会場は大盛り上がりである。
博子が楽しそうに歌っている。
博文はどこかの熟女と踊っている。
道子(奥様)は婦人達の座る席を回って、ビールを注ぎながら愛嬌を振り撒いている。
恋三は後ろのドアーをそっと開けてヨネに手招きする。
ヨネは恋三に気付き、席を立って廊下に出て来た。
恋三「先生が到着しました」
ヨネは調子良く、
ヨネ「アイヨ~」
ヨネは舞台横から中央のステージに行き、博子からマイクを「取り上げる」。
ヨネ「は~い、皆さんお待ちどうさまでしたー。スペシャルゲストが到着しましたよー。拍手でお迎えしましょうかねー」
満場からは拍手と歓声が。
廊下では先生が髪(ウィッグ・鬘)の毛の後ろを恋三に見せて、
先生「立ってないか」
恋三「ハイ! 今の所は」
先生は気合いを入れて、
先生「ヨシッ!」
恋三は上座の引き戸を力強く開ける。
突然、満場の婦人達が、
声 「キャー、先生~、ステキ~ッ!」
声 「待ってたのよ~、何か歌って~」
先生は苦笑いを作り、壇上(舞台)に上がって来る。
おもむろに、
先生「イヤ~、いやいや、お待たせしてすいませんねえ~。 T総理との打ち合わせが長引いちゃって、さっき地元の事務所に着いたんですよお。おまけに東京の秘書の運転じゃ道は間違うし時間は掛かる。ハ~ハハハ。しかし道は良く成りましたねえ~。東京から此処まで二時間ですよ。私が皆さんの為に車の中でカラオケの練習をしていたらもう群馬の事務所ッ!・・・ね~え。この道路は私と皆さんがいつも使っているガソリン代から造られているんです。しかし、このガソリンの値段!・・・上がったり下がったり。ね〜。・・・これは皆さんがご存知の戦争によるホルムズ海峡の封鎖! しかし、この門松が微力ながらガソリンの値段を下げる様に取りまとめ案を作成して、来週からリッターあたり、七円の値下げに成りますよ。予算委員会での T総理の発言に期待して下さい。・・・トランプ大統領によるイランへの先制攻撃! ねえ〜、まるで蜂の巣を突っついた様になりました。油が日本に入って来ないと、・・・肥料代、飼料代、その他、いろんな食品価格が高騰している! 私は真っ向からこの値上げと物価高、低賃金の是正に戦って行きます!・・・ところで、昨今、皆さん方はご存知では無いと思いますが、防衛費の更なる増額と称して消費税をとりあえず二年間一パーセントにして、二年後には現行の十パーセントから更に二パーセント引き上げ、十二パーセントにしようと企んでるバカな議員達が居ます。この『門松康正』は真っ向から反対ッ! むしろ私の個人的意見ですが消費税減税は二年間はゼロ。そしてそれ以降は上げないッ! 所得税も減税ッ! 経済の動静をもわきまえず、何かと言うと国民に負担を強いる悪政! この財務副大臣の目の黒い内は是々非々でも大反対するつもりす。・・・え~、物価高騰下に於ける住宅ローン特別減税措置の件でありますが・・・」
すると先生の前に座るご婦人Aが、
婦人A「先生、やめてよ~。そんな事どうだって良いじゃない。座がシラケちゃうわよ。早く歌って~」
婦人B「そうよ〜、いつもの『五木ひろし』~! 早く~ッ」
ヨネが突然、カラオケのボリューを上げ、「五木ひろし」のイントロを流す。
いよいよ本番のスタートである。
恋三は急いでビールを持ちながらホストのように片膝を突いて、婦人達の間を回って媚びを売る。
恋三「お世話になりま~す」
注がれた婦人Cが恋三を見て、
婦人C「あら~、アンタ良い男〜」
隣りの婦人Dが、
婦人D「肌が綺麗~。ちょっと触らせて」
恋三の頬を触る婦人D。
それを見ていたあちこちの婦人達から、
婦人達「キャ~、ダメよ~。ダメダメ」
恋三はモミクシャである。
・・・ポケットからライターが落ちる。
続く




