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【完結済み】あなたが読むかぎり  作者: 川原 源明
第5章 忘却奇譚 ―語るな、語らせるな―

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第98話 “あった”ことにされる

 ひなたと理久は、教室を離れて廊下を静かに歩いた。

 窓の光は夕暮れに近づき、柔らかなオレンジが壁を染めていたが、ふたりの視線は重く沈んでいた。


「理久……さっきの“誰か”、どう思う?」


 ひなたがつぶやく。


「……ナナミだろうな。最初の“誰も知らない誰か”が、今ここでは“いる”とされようとしてる」


「でも、それって……どういうこと?」


「語られなくても、視認されただけで“語られた存在”になる。写真に写るだけでも、言葉をもってなくても、“あったこと”にされてしまう構造だ」


 廊下には自分たちの影しか映っていないかのようだったが、その陰影はどこか歪んでいた。


 ――あの場所には、確かに“別の誰か”がいた。


 そして今、その誰かが、“誰かを消してでも”居場所を作ろうとしている。


 理久はポケットからスマホを取り出す。

 さきほどのメッセージ通知画面が、不意に再表示された。


「誰かが、私を覚えているなら、“あの場所”に来て欲しい。」


 送信元は相変わらず不明。

 だが、そこに明確な意志が宿っていることは、ふたりにとって紛れもない事実だった。


「……来るって言ってる。呼ばれてるんだ」


「でも、行ったら……」


「語られる側に回ることになる。構文の“注入対象”ってことだ」


 ひなたの足元がふらついた。

 記憶と存在の境界が融解し、彼女自身が“誰だったのか”を揺るがされつつある。


「ねぇ、私……これからどうしたらいいの?」


「わからない。けど……選ぶしかない。語られる前に、語るべき構文を自分で書くか、“語らせる構文”に置かれるか」


「それって……」


「――“語る”という行為そのものが、呪いのトリガーになるか、“語らせる”という更なる感染に巻き込まれるか。でも、語られなかったまま終わるわけにもいかない」


彼女の視線が、そっと理久に向けられた。


「……じゃあ、私たちが、書こう。語るんじゃない。“語らせる前に、自分で語る”構文を、自分たちで設計する」


「“封名術”の上位構造か……語るけど、壊れさせない記述を、自分で書くんだな」


「そう。“あの場所”に行く前に。語りの主体を自分たちで持つんだ」


 ふたりは歩を止め、目を合わせた。

 決意のような沈黙だった。


 ――語られる前に、語る存在になる。

 ――漏れる前に、言葉の器になる。

 その選択は、この構文の最終段階へと突き進む第一歩でもあった。


 スピーカーから、遠くでチャイムの音がかすかに聞こえた。

 夕焼けの影は、教室のドアにまっすぐ伸びていた。


 その先──誰かが待っている。

 「呼ぶ者」と「呼ばれる者」。

 語りの最終幕が、幕を開けようとしている。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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