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【完結済み】あなたが読むかぎり  作者: 川原 源明
第5章 忘却奇譚 ―語るな、語らせるな―

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第89話 語らせる者の構文

 理久は静かに、白紙のノートを閉じた。


「……これはもう、“意味のない記号”なんかじゃないな」


「……うん。“誰か”が、この記号を通して、私たちに名前を求めてる」


 ひなたの声は震えていた。


 冷たい風が図書室の窓を叩くたびに、壁の影がゆらゆらと揺れる。


 彼女の手のひらには、さっき破り捨てたはずのメモが、なぜか戻っていた。


☒ナ・ナ・メ


「理久……これって……もう、ただの記号じゃなくて、“誰かの主張”だよね?」


「ああ。今や“語られない”ことによって、“語らせようとする意志”が生まれてる」


「でもそれって……私たちが、無理やり残したからじゃないの?」


「可能性はある。語られない存在が、“語られたい”という衝動に変わった。つまり、構文の主体が反転したんだ」


 構文の内部にいた“呪い”は、もはやパッシブな脅威ではなかった。


 積極的に言語を探し、誰かに“名前”を語らせようとしている。

 

「この記号を見せられた人が、意味を与えたら?」


「そいつの言語フィールドに侵入される。そいつが“名前”を作った瞬間に、構文が“語り主”を獲得する」


「それって……」


「“語らせる”ってのは、“感染”の変種だよ。情報を取り込むじゃなく、“言わせる”ことで寄生する」


 教室に戻ったふたりを、異様な光景が迎える。


 黒板のすみに、チョークで描かれた☒ナ・ナ・メの記号。


 その周囲に、誰かが勝手に“解釈”を書き始めていた。

 

「これ、誰かの暗号っぽくない?」


「ナナメって名前だったりしてw」


「いや、“ナナメ=斜め”で、視線の構文なんじゃ?」

 

 ひなたが青ざめた。


「……もう、“意味”が与えられ始めてる」


 理久がつぶやく。


「“語り”が始まった……!」

 

 それは、誰かが意図的に広めたのではなかった。


 “意味のない記号”が、観測者の想像を刺激し、“語りたくなる構造”へと成長していた。


 語らせる者の構文は、静かに教室の全員に届きつつあった。

 

 そして──

 また一人、名簿から名前が消えた。

 空欄には、うっすらと“ナナミ”という名前が、打ち消し線とともに浮かんでいた。

 

「理久……あの子、いたよね?」


「いや……もう“語れない”。“語ってはいけない”のじゃない、“語ることができない”んだ」


「……やばい……このままだと、全部“語らせる名”に取り込まれる」


 ふたりは、すぐに封名の記号を紙に戻し、シュレッダーにかけた。


 けれど、焼却装置のログに“そのデータが処理された記録”だけが残った。


処理完了:対象記号『☒ナ・ナ・メ』


 意味を持たないまま、データだけが記録された。


 誰が見ても、“意味のなかった痕跡”が、無名のまま残り続ける。

 

「もう、“名前を与えるな”って段階は過ぎてる」


「じゃあ、どうすれば……?」


 理久は、再び画面に浮かぶ通知を見た。


新規フォロワー:@NoName_Sayer

 

「……名乗る前に、語る者を潰すしかない」


 “語らせる者”は、もう名乗りの段階を越えていた。

 今度は──“誰かの声帯”を通して、直接語ろうとしていた。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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……どうか、次回の更新までご無事で。

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