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【完結済み】あなたが読むかぎり  作者: 川原 源明
第5章 忘却奇譚 ―語るな、語らせるな―

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第85話 忘れられた名を探して

 理久は映像データの画面を凝視した。


 「忘レテ」──フォルダ名でもない。ファイル名でもない。ただ、あらゆるデータが、その一言で上書きされていた。


 映像を開こうとすると、再生バーだけが表示され、中身は真っ暗だった。音声もなし。再生時間も常に「00:00」。


「痕跡だけ残して、実体が消えていく」


 ひなたのメモ帳も、もう三度目の“消去”を迎えていた。書いたはずの内容が、朝にはまた真っ白になっている。


「どうするの、理久。このままじゃ全部──」


「“語るべきだった言葉”を見つける。たぶん、構文の起点になってる“名前”がある」


 そのヒントを探すため、二人は放課後に図書館へ向かった。


 狙いは、市内の古い地誌や伝承資料。近年では電子化されておらず、アナログのまま保管されている資料だ。


「こっち、“失われた地名”って章があるよ」


 ひなたが一冊の分厚い郷土史を開いた。


 中には、既に地図から消えた村、廃村となった集落の名が列挙されていた。


「……“消えた村”ってさ、今の“忘れられた生徒”と似てない?」


「地図上から消える。記憶からも抜け落ちる。“存在”の根幹が書き換わるってことか」

 

 その中に、奇妙な記述があった。


残聲村ざんせいむら──記録に残らぬ村。かつて語り継がれた伝承は、語られた瞬間に消えるとされた】

※当時の住人の名簿・戸籍記録は全て不明。唯一の痕跡は「語ってはならぬ名」が存在したという口伝のみ。


「……これが、元凶?」


「“名前”そのものが記録不能。語った者の記憶すら削る。多分、それが今の構文の中核だ」


「語ることで構文が起動する……でも、語らないと“存在が消える”」


「だから、“正しい語り方”が必要なんだ」


 理久はもう一度、図書室の奥から別の記録を持ってきた。


 手書きの古文書、写真付きの複写。中には「口封じの札」の記述もあった。


【名を語るなかれ。語らば、“それ”はお前の名を奪う】


【名をるは、名を守ること。名を語るは、名を壊すこと】


【名に“意味”を与えることで、“語りの構造”が変わる】


「意味を与える……つまり、俺たちが“語らなければならない名前”を、“壊れない言語構造”に書き換えることができれば」


「それって、どうやるの?」


「“意味が定義されていない記号”で名を構文化する。たとえば、“記号+発音+非言語構文”の組み合わせ……」


 理久の視線が、メモ帳に移る。そこに、ひなたがふざけて書いた落書きがあった。

 「☒ナ・ナ・メ」──


「これ……ひなた。お前が昨日書いたやつだろ?」


「え? うん。なんか、“見ちゃいけない気がした”って……」


「それだ。“名を持たない名”を、“記号”として書き留めたなら……“語りの文法”を欺けるかもしれない」


 翌朝、教室。

 理久は、黒板のすみっこに「☒ナ・ナ・メ」とだけチョークで書いた。


 教師は何も言わない。クラスメイトも反応しない。


 しかし──


 その日以来、「誰かの席」がぽっかりと空いたまま、誰も話題にしなくなった。

 

「……まだ、“名前”がここにいる」


 理久はつぶやいた。


 ひなたは、あらためて思い出そうとする。


「夏川……って、ほんとうに、いたんだよね?」


「いや。たぶん、もう名前ごと“☒ナ・ナ・メ”に上書きされた。あいつは、名もなき“構文”になった」


 だが、“書き換えられた名前”には、まだ対処の余地があった。


 意味を与えない限り、“名前”は固定されない。

 そして、固定されなければ、“完全な侵食”も起きない。


 その夜、ひなたのスマホに一件のメッセージが届く。


「☒ナ・ナ・メ が 忘レタガッテイル」


 送信者不明。履歴にも残っていない。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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……どうか、次回の更新までご無事で。

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