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【完結済み】あなたが読むかぎり  作者: 川原 源明
第4章 ロスト・コール ―最後の応答をあなたに―

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第66話 受信者:不明

「これ、私が……投稿したってこと?」


 ひなたの手がかすかに震えていた。スクリーンに表示された「転送者:朝倉ひなた」の文字。その下には、見慣れた自分のプロフィールアイコンと、見覚えのない波形のアイコンが並んでいた。


「……投稿タイムスタンプは、さっきの音声を聞いてから、わずか十七秒後だ」


 理久がスマホをのぞきこみ、目を細めた。


「しかも操作ログは一切ない。お前、投稿画面開いてすらいなかったよな」


「うん。ほんとに……何もしてない」


「音声が媒介になって、アカウント操作をすっ飛ばして投稿されたってことだ。つまり……」


「“わたしの声”ってやつが、勝手に使われた……?」


「正確には、“お前の声に化けた”ってことかもしれない」


 理久はスマホをスリープにし、深く息を吐いた。


「この呪い……もしかすると、“記憶されない感染型”だな」


「記憶……されない?」


「ああ。音声で感染し、感染者の意識を経由して次の媒体に伝播する。その過程で“自分の意思”を偽装しながら、痕跡を限りなく希薄にする構造。……今回の投稿、見た目はひなたの声だけど、おそらく中身は別物だ」


「別物……でも、受信者は“不明”ってなってるよ?」


 ひなたが問い返すと、理久は静かに首を振った。


「不明、ってのは、“まだ誰も再生してない”か、“誰が再生したか記録できない”場合だ。どちらにせよ、その音声が拡散された瞬間から、次の“受信者”が生まれることになる」


 ひなたは腕を抱えた。夏の終わりとは思えない、寒気が背中を這う。


「もしさ、これ……誰かが再生しちゃったら?」


「その人が“次の転送者”になる」


「……無限ループ、じゃん」


「いや、ループじゃない。“再帰構造”だ。常に少しずつ変化しながら、声が自律的に複製されていく。しかも、話者の輪郭があいまいになっていくから、“誰が語っているか”が途中で崩れる」


 そのとき、ひなたのスマホに、再び通知が届いた。


「再生済み:1」

「受信者:本庄七海」


「ななみ……っ!?」


 ひなたが叫ぶと同時に、着信音が鳴った。画面には“七海”の名が表示されている。


 震える指で応答ボタンを押す。だが、スピーカーから聞こえてきたのは──


「……わたし、声が……変なんだ」


 七海の声だった。けれど、そこに妙な遅延があった。音が後から追いかけてくるような、違和感のある話し方。


「ななみ!? 大丈夫!? どこにいるの?」


「家……だけど、変なの……わたし、話してるのに……もう一人の“わたしの声”が、横から、かぶさってくる……」


「理久!」


「スピーカーにしろ!」


 言われるままに通話を切り替える。七海の声が、スピーカー越しに響いた。


「……誰かが、わたしの言葉を、もう一度、読んでるみたいなの。……でも、ちょっとずつ違うの。……わたしの“中に”……もう一人の私が……いるみたいで……」


「……!」


 理久が口をつぐむ。その顔は、明らかに焦りの色を帯びていた。


「それって、“言語同期”か……? まさか、音声を通して構文が……」


「理久、なにが起きてるの!?」


「たぶん、七海は今、“模倣されてる”。彼女の声帯情報──つまり、“話し方そのもの”が、乗っ取られ始めてる」


 七海の声が、少しずつ歪んでいく。


「ぽ……ぽ……ぽ……ぽぽぽ……」


「ひなた、切れ!」


「でも!」


「いいから切れ!」


 叫ぶように言われ、ひなたは通話を終了させた。画面が暗くなると、教室に静寂が戻る。


「……今のは?」


「音声構文の浸食だ。七海の中に入った“模倣体”が、彼女の声帯を通して別の“声”を再現してる。たぶん、次の感染者を見つけるための“準備”だ」


 ひなたは拳を握った。


「……わたし、七海を巻き込んだってこと?」


「違う。巻き込んだのは、この“声”の構造自体だ。お前は……そのきっかけになっただけ」


「でも、わたしが再生しなかったら、七海は……」


 理久は立ち上がる。


「──行こう。七海の家に。いまなら、まだ“戻せる可能性”がある」


「戻すって、どうやって?」


「“声の主”を探す。“最初の応答者”を突き止めれば、そこから感染構造を逆転できるかもしれない」


 理久の目が鋭く光る。


「そして、その鍵を握ってるのは──最初に“メリー”と呼ばれた誰かだ」



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

もし、あなたの画面にまだ異常が起きていないなら、ページ上部から【ブックマーク】をして『生存確認』の印を残してください。

下部の【☆評価】は、失われた彼らへのせめてもの供養になります。

……どうか、次回の更新までご無事で。

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