第46話 見せられる側へ
翌朝。
ひなたは、自分のノートを開いて、もう一度確認した。
──「次は、あなたが見せる番」
明らかに自分の字ではなかった。
ペンも違う。色も、インクの染み方も、書かれた力のかかり方も。
理久にメッセージを送ったが、すぐには既読がつかなかった。
「“視せる”って……どういうこと?」
呟いた言葉は、部屋の空気に沈むように消えていった。
* * *
登校後、理久はすでに教室にいた。
「見せる番、ね。つまり──次の視点を担う者に“視界の主導権”が移動した、という意味だ」
「え、つまり、私が“トオミサマ”の……」
「そう思わせるための言語誘導かもしれん。だが、その可能性を捨てきれない」
ひなたは席に座りながら、自分の手をじっと見つめた。
まるで自分の目が、誰かのものになったのと同じように──手の感覚も、どこか遠い。
「なあ、ひとつ確認する」
理久が急に真顔になった。
「お前、昨日の夜……“夢”、見たか?」
「……見た。誰かに、見られてた。私じゃない誰かが、私の目を通して、ずっと誰かを視てた」
理久は頷いた。
「夢の中で“見る”ってのは、意識下での視覚共有だ。その映像、覚えてるなら──描け」
「絵に……?」
「ああ。“見せ返す”ためだ。お前が視たものを、他人に伝えれば、視線の伝播構造が再起動する」
ひなたはしばらく躊躇したが、ノートとペンを手に取った。
夢の中で視た“もの”──あの、極端に長い腕、床まで届くほどの白い衣、歪んだ顔。
そして“目”。
それを描き終えた瞬間、スマホのカメラが自動で起動した。
──カメラ越しに、その絵を映す。
その刹那。
画面に“あれ”が写った。
ひなたの描いた絵の背後、教室の黒板の横に、あの長身の影が“立って”いた。
「写った……の?」
「いや、写させられたんだ」
理久がそう言ったとき、教室の隅で誰かが椅子から落ちた。
叫び声。
視た者のうち、一人が気を失ったようだった。
視せる者は、すでにひなたの背後にいた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
もし、あなたの画面にまだ異常が起きていないなら、ページ上部から【ブックマーク】をして『生存確認』の印を残してください。
下部の【☆評価】は、失われた彼らへのせめてもの供養になります。
……どうか、次回の更新までご無事で。




