第45話 共有視界の終端
その夜、ひなたは自室のベッドで天井を見つめていた。
灯りは消しているのに、視界が暗くならない。
閉じたはずのまぶたの裏で、誰かの目が開いている。
「……やっぱり、おかしい」
彼女は立ち上がり、机の上のノートを開いた。
今日一日の出来事を、文字にして確かめたくなったからだ。
けれど──
「……私が、見ていた? それとも……」
書き出した文章が、意味を結ばない。
主語が欠けている。
視線の主体が不在なのだ。
《視界の共有は終了しました──ID:to_mi_023》
スマホにそう表示されたのは、まさにその瞬間だった。
画面を開くと、ログがすべて消去されている。
どのアプリでも、履歴が白紙。まるで、記録自体が初めから存在しなかったように。
「……終わった?」
ひなたはそうつぶやいたが、何の確証もなかった。
数分後、理久から連絡が入った。
《映像のトリガーが断たれた可能性がある。おそらく、接触者側の“記憶視界”が遮断された。》
《でも、どうして? 私はなにも……》
《お前が“見ること”をやめたからだ。書こうとして、“視覚”じゃなく“言語”に変換しようとした。それが“視界の構造”に対する、唯一の対抗手段だったんだ》
──“書く”ことによって、“視る”構造を断ち切る。
理久の仮説は、言語が視覚情報を“捕捉”し、逆に“言語化できない視界”を構造から外す可能性に基づいていた。
「じゃあ、私は……見てたんじゃない。書こうとしてたんだ」
そう口に出したとき、部屋の中がようやく“自分の空間”として戻ってきたような気がした。
だが、最後に──
ひなたの机の上、開いたノートのページ。
そこに、彼女が書いたはずの文字のすぐ脇に、“別の筆跡”でこう記されていた。
「次は、あなたが見せる番」
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