第44話 映像の反転
午後の授業が終わる頃、ひなたは黒板を見ながら、どこか別の映像を見ていた。
──鏡の中から、誰かが自分を見ている。
そんな感覚だった。
視界の隅に、いつも「もう一つの目」がある。
自分の視界を誰かが覗いている、ではなく──自分が、誰かの目を通して“自分”を視ている。
「朝倉さん?」
先生の声が教室に響く。ひなたは、はっとして立ち上がった。
「す、すみません……」
理久が、隣の席でノートを閉じた。
「もう出るぞ。映像室、貸し切ってある」
そのまま、理久の案内で旧校舎の奥へ。
使われなくなった視聴覚室。備え付けのモニターと、理久の持ち込んだ解析機器が並ぶ。
「これ、昨日の録画……“あれ”を視たときのログ」
理久はUSBメモリを差し込み、再生を始めた。
──画面には、屋上での映像。だが今回は違う。
録画ファイルの“画角”が反転している。
撮影者の視界ではなく、まるで“誰かに視られている側”の映像が記録されていた。
「……これって」
「ああ。撮ったはずの本人が“撮られていた”。
つまり、“見る”側がいつのまにか“見られる存在”に書き換えられてる」
ひなたは、モニターの中に映る少女──過去の自分を見つめる。
その視線の奥、画面のさらに奥。
画面の“裏側”に何かがいる。白く長い輪郭──、歪んだ腕、脚、そして“顔がない顔”。
「今、動いた……!」
ひなたが叫んだとき、理久はすぐに再生を止めた。
「ダメだ。これ以上は見るな。
これ……視覚情報がループして、観測者の脳内で再構成されてる。
“あれ”は記録を通じて、視覚そのものを改ざんしてくる」
「じゃあ、どうすればいいの……?」
「このままだと、見るだけで脳が“視せられる器官”に書き換えられる」
モニターが、ふいにノイズを走らせた。
その刹那、画面いっぱいに「目」が映る。
潰れたような、のっぺりとした──それでも、確かに“こちらを見ている”目。
そして、ひなたの瞳の奥で何かが“反応”した。
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