第43話 視界共有
月曜日。
登校中のひなたは、後ろを振り返ってばかりいた。
見られている気がする。
けれど、そこには誰もいない。ただ、道端の標識と、変わり映えのない住宅街。
──視線が、遅れて追ってくる。
「ひなた、挙動が不審だ。見られてるって自意識過剰か?」
理久が前を歩きながら、ため息混じりに言った。
「……ねぇ理久。本当に、視たら感染するの?」
「“あれ”が意図的に見せている存在なら、そもそも“視せる”こと自体が呪術的構造に組み込まれてる。つまり、視界に入った時点で……感染する」
ひなたは小さく息を呑む。
「でも、映像で見ただけだよ? 現実じゃないし……」
「なあ、考えてみろ。“見た”ってどう定義する?」
「目に……入ったこと?」
「それは“光を受け取った”だけ。
でも、“見たと認識した時”が感染のトリガーだとしたら?」
「……じゃあ、脳の側が視たって思った瞬間、もう……」
「視界共有が始まってるってことだな」
その瞬間、ひなたのスマホが震えた。通知は一件。
《視界の共有が始まりました──ID:to_mi_023》
スマホの画面が、暗転する。
次の瞬間、まるで別人の視界が覗き込んでくるような錯覚が走った。
映っているのは、自分の背中──
校門の前で立ち尽くす、朝倉ひなたの後ろ姿。
震える手でスマホを落とす。が、視界は続いている。
理久の顔が、視界の端に入った。
「ひなた……お前、今、俺を見たな?」
理久の声が、ひどく低く、硬質だった。
「……どういう、こと……?」
「まずい。“視線の同期”が始まってる。お前の視界が、外部とつながってる。俺にも、断片が入り込んだ」
「じゃあ、私の目、誰かと共有されてるの……?」
「いや──“誰か”じゃない。“何か”だ」
視られる恐怖ではない。
見ているはずの視界が、すでに誰かのものだったと気づく恐怖。
この日を境に、ひなたは“自分の目”にすら、確信が持てなくなっていく。
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