第41話 視たはずの影
放課後の教室は、光が足りない。
もうすぐ春だというのに、今日はやけに雲が重い。
朝倉ひなたは、鞄にノートをしまいながら、ちらりと窓の外を見た。
灰色の空に、電柱が一本、長く立っている。
──いや、違う。電柱ではない。あれは、誰か……?
「ひなた」
呼びかけに我に返る。九条理久が、教室の前のドアにもたれていた。
「行くぞ」
「あ……うん、ごめん、ちょっと変なもん見てたかも」
理久は返事をせず、ひなたの視線をたどるように窓の外を見る。
「なにもない」
「……だよね。でも……」
「見間違いだ。たぶん」
ひなたは小さく頷いて、鞄を肩にかけた。
理久の視線が、さっきの電柱のほうをじっと見ていたが、すぐに歩き出す。
二人が校門を出たところで、見慣れない女子生徒が立っていた。
髪は肩まで。制服の着こなしもごく普通。でも、どこかぼんやりしている。目の焦点が合っていないようだった。
「あの……朝倉さん、ですよね?」
「え? うん、そうだけど……?」
「これ、預かってもらえませんか」
そう言って差し出されたのは、小さなメモリーデバイスだった。USBでもSDでもない、旧式の録画媒体。
しかも、黒く塗りつぶされたテープが貼ってある。
「これ……なに?」
「映像です。でも、見ないほうがいいです。私、もう転校するんで……ありがとうございました」
ひなたが何か返す前に、その生徒は歩き去っていった。
「……理久、今の子、誰?」
「知らん。少なくとも俺の記録にはないな」
「でも、私の名前、知ってた」
「その映像──見る気か?」
ひなたは無言で頷く。
「……じゃあ、見る前に。自分の視界を確認しろ」
「は?」
「“誰が見ているか”は、見たあとじゃなくて、見る前に決まってる」
理久の言葉に、ひなたは思わず背筋を正す。
映像なんてただの記録だ──そう思っていた。
けれど、手の中の記録装置は、まるで“見られること”を望んでいるような、重さを持っていた。
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