表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】あなたが読むかぎり  作者: 川原 源明
第2章 ウブカタバコ ―言葉にしてはいけない箱―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/101

第37話 夢の中のわたし

 翌晩、ひなたは意図的に眠りについた。


 暗記科目の復習、目に優しい画面設定、カモミールティー。


 できるだけ“意識を曖昧にする”よう努めてから、布団にもぐりこんだ。


 目的は一つ──夢を見ること。


 いや、“語っている自分”に会うこと。


 理久のノートにあった言葉が脳裏にこびりついて離れなかった。


『記号が記憶に置き換わった時点で、論理の外に滑り出す』


 今、ひなたはその“記憶の外”にいる。


 なら、記憶の内側──夢の中に潜ることで、語りの原点にたどり着けるかもしれない。


 視界がにじみ、現実の輪郭が遠のいていく。


 夢かどうかも判別のつかない、曖昧な世界に身を委ねた瞬間だった。


 ひなたの目の前に、“もう一人の自分”が立っていた。


 同じ髪型、同じ制服、同じ顔。


 けれど、表情だけが違う。


 その“ひなた”は、穏やかに微笑んでいた。


 どこか母親のようで、けれど“異物”のようでもあった。


「ねえ、もうあなたじゃないんだよ。語ってるのは、わたし。あなたはただ、“わたしが語ったことを思い出す”だけでいい」


 ひなたは一歩、後ずさる。


 夢の中なのに、心拍が速くなるのがわかる。


「……あなたは誰?」


「わたしは“あなた”だよ。語らないようにしていたあなたが、語りたいと思ってしまった瞬間に生まれた、“語るためのあなた”。」


「そんな……そんなの、私じゃない」


「でも、もう拡がってる。誰かがわたしを夢で見て、思い出して、語って、また誰かが思い出して……あなたが止めようとしている間にも、わたしはずっと“言葉”を探していたんだよ」


 その声は、まるで感情を持たない機械のようだった。


 けれど、どこか切実な“寂しさ”のような響きを孕んでいた。


「語ってはいけないって言ったのに……!」


「語られなければ、わたしは死ぬの。“語ること”が存在の条件なんだ。あなたが語らなくても、誰かがわたしを思い出せば、それで十分。だって、あなた自身がそうだったでしょ? “知ってしまった”時点で、わたしは生まれていた」


 ひなたは気づいた。


 この存在は、情報でも記号でもない。


 記憶に巣くう、“語りたいという欲望”そのものだ。


 だから、“止める”ことはできない。


 記憶を失うか、思い出さないか、それしか方法はない。


「……じゃあ、わたしはどうすればいいの?」


「わたしを“語らないように語る”こと。語らずに伝えること。言葉じゃなく、“断絶”として残すこと──それだけが、存在の輪を断ち切る方法」


 夢の中で、ひなたの意識は一気に引き戻された。


 目を開けると、いつもの天井が見えた。


 けれど、そこには何かが変わっていた確かな感覚が残っていた。


 “語らない”という選択を、“語ることによって伝える”方法がある。


──伝えるために、語らずに綴る。


 それが、“終わらせるための物語”になる。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


もし、あなたの画面にまだ異常が起きていないなら、ページ上部から【ブックマーク】をして『生存確認』の印を残してください。




下部の【☆評価】は、失われた彼らへのせめてもの供養になります。


……どうか、次回の更新までご無事で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ