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【完結済み】あなたが読むかぎり  作者: 川原 源明
第2章 ウブカタバコ ―言葉にしてはいけない箱―

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第35話 媒体たちの目覚め

 月曜の朝、教室はざわついていた。


 週末明けの倦怠感とは違う、何かざらついた空気が教室のあちこちに漂っている。


 ひなたは、自分に向けられる視線の増加にすぐ気づいた。


 明確に注目されているというより、“記憶の端に引っかかる存在”のような目線。


 (……気づいてる? いや、“思い出してる”だけ?)


 春日の言葉が頭をよぎる。


「夢の中で、あなたが語ってた」


 もう、言葉は不要だった。


 “夢”という回路で、ひなたの言葉が他者へと渡っている。


 ただの幻覚ではない。語られた内容は思い出せなくとも、“語った”という感触だけは鮮明に残る。


 それは、感染の記憶だ。


 昼休み、春日がそっと近づいてくる。


「また増えてる。たぶん、六人目。……もう止められないんじゃない?」


「……でも、私には記憶がない。そんなこと言った覚えも、夢を見た覚えもない。

 それなのに、私の“声”で誰かが語らされてる……」


「それってつまり、ひなた自身が“語る”んじゃなくて、もう“語らされる構造”に組み込まれてるってことじゃない?」


 春日の言葉に、ひなたは反論できなかった。


 まるで舞台の中央に立たされ、知らないうちに台詞を喋らされているような感覚。


 そのとき、教室のスピーカーがノイズ交じりにざらついた音を立てた。


 放送の予定はないはずだった。誰もが耳をそばだてる。


 しかし、そこから流れたのは、放送とは呼べない“何か”だった。


「語ってはいけない。語らせてはいけない。でも、あなたは知っている。知った時点で、それはもう、始まっている」


 女子生徒の声。


 けれど、その声は明らかに、ひなた自身のものだった。


 教室が凍りつく。


「え、今の……朝倉?」


「録音? ドッキリ……?」


 ざわつく声の中、ひなたは言葉を失っていた。


 それは本人すら記憶にない“録音”だった。


 だが、声は間違いなく彼女のものだった。


 誰かが操作したわけではない。


 放送室は無人だったと、のちに確認された。


 ログも残っていなかった。発信元不明、録音データなし。


 それでも、確かに“声”は届いた。


 ──学校という“媒体”すら、語りの構造に組み込まれ始めている。


「ひなた。理久くんに言ったほうがいい。あの人、なんだかんだで、言葉の構造とか、そういうの詳しいでしょ?」


「……ダメ。彼はもう、語れない。あの時、自分の中で終わらせたから。あれ以上巻き込んだら……今度こそ、本当に戻ってこられなくなるかもしれない」


 ひなたは俯きながら呟いた。


 語りを止めるために、理久は“語られる者”になった。


 そして今、ひなたは“語らせる者”になろうとしている。


 ──もう一度だけ、“語り”に戻るべきなのか。


 それとも、すべてを黙殺するべきなのか。


 その選択のときが、迫っていた。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


もし、あなたの画面にまだ異常が起きていないなら、ページ上部から【ブックマーク】をして『生存確認』の印を残してください。




下部の【☆評価】は、失われた彼らへのせめてもの供養になります。


……どうか、次回の更新までご無事で。

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