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【完結済み】あなたが読むかぎり  作者: 川原 源明
第2章 ウブカタバコ ―言葉にしてはいけない箱―

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第34話 夢の中の言葉

 春日の言葉は冗談には聞こえなかった。


 いや、冗談であってほしかった。


「……本当に、わたしの声だった?」


「うん。抑揚も、喋り方も。いつも朝倉さんが話してる声そのまま。でも、喋ってる内容は……ぜんぜん思い出せない。夢なのに、怖いくらいリアルで、気づいたら汗びっしょりで起きてて……」


 ひなたはその場に座り込んだ。まるで頭の中に霧がかかったように、思考が追いつかない。


 自分が、誰かの夢に現れて“語っている”。


 本人の自覚とは無関係に、“夢”という媒体で物語が拡張している。


「他にも……いたりする? わたしの声を聞いたって子」


「二人。三年の先輩と、隣のクラスの男子。どっちも、同じこと言ってた。“夢の中で朝倉さんが何かを語っていた。でも内容は覚えてない”って。そしてみんな共通して、目が覚めたときに“箱”の映像が頭に浮かんだって……」


 ひなたはぞっとした。


──夢で“語る”。そして目覚めと同時に“思い出す”。


 その記憶に“言葉”はないのに、“映像”だけが残っている。


 映像と記憶。それが新たな語りのトリガー。


 それはもはや、会話やSNSのような媒体を通す必要がない。


 “見た”という体験だけで、感染は成立するのだ。


「これって、もう理久の言ってた“構文”とか、そういうレベルじゃない……」


 ひなたは口元を手で覆い、呼吸を整えた。


 自分が“語らせている”。


 でも、それは意図的なものじゃない。


 “語ることを禁じられた語り手”が、意図せず別の回路で語りを拡張している。

 その瞬間、スマホが震えた。


 画面を見ると、理久からの通知──ではなかった。


 件名:なし

 差出人:UNKNOWN

 添付:動画ファイル(18秒)

 恐る恐る再生すると、真っ暗な画面に音だけが流れた。


 それは──ひなたの声だった。


「この箱はね、“語ること”そのものが目的なんだよ。誰かに話したくなる。知ってるって言いたくなる。気づくと、口に出してる。 それがこの箱の正体。“誰かを通して語らせる”。 だから、もう止められないの。私たちは、ただの媒体なんだよ」


 その声に、ひなたは崩れ落ちた。


 自分が言った覚えのない言葉。


 でも、紛れもない自分の声。


 そしてその言葉の意味が、まっすぐに心を刺してくる。


 ──私はもう、語らされている。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


もし、あなたの画面にまだ異常が起きていないなら、ページ上部から【ブックマーク】をして『生存確認』の印を残してください。




下部の【☆評価】は、失われた彼らへのせめてもの供養になります。


……どうか、次回の更新までご無事で。

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