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【完結済み】あなたが読むかぎり  作者: 川原 源明
第2章 ウブカタバコ ―言葉にしてはいけない箱―

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第33話 語らせる者

「ねえ、朝倉さん。“あの箱”って、あなたが投稿したんだよね?」


 その声には、確信の色があった。問いというより“断定”に近い。


 ひなたは一瞬、言葉を返せず立ち尽くした。


「……なに、それ」


 反射的に否定する。だが、内心は焦りでいっぱいだった。


 この子──どこかで見た覚えがある。


 同じ学校、たしか……一年のときに同じ委員会だった子。名前は……春日?


「昨日の深夜、見たんだよ。あなたのアカウント、“あれ”をリツイートしてた」


「違う、それは……っ」


 言いかけて、息を飲んだ。


 ──していないはずだ。


 “ウブカタバコ”に関する投稿は、理久と約束していた。語らない。記録しない。


 自分の端末にも、そんな記録はなかった。


 けれど、相手のスマホには、スクリーンショットが残されていた。


“@Hinata_AK 23:41 『もうすぐ、誰かが開けるんだって』”


 そこに貼られた画像は、あの箱。


 闇の中に浮かぶように、節くれだった木目が映っている。


「……これ、加工したんじゃないの?」


「私にそんな技術ないよ。それに、これだけじゃない。他にも何人かが言ってる。あなたのアカウントから、“語り”が始まったって」


 “語らせる”──


 その瞬間、ひなたは気づいた。


 これはただの呪物じゃない。“語る”主体を増やすために、他人の言葉を使う構造がある。


「ねえ……お願い。あれのこと、他の人に言った? “知ってる”って、誰かに話した?」


 春日は首を横に振った。


「話してない。けど、思い出すんだ。毎晩夢の中で、“語らされてる”の。内容は覚えてないのに、“語ってしまった”という感触だけが残る」


 それは明らかに“感染”だった。


 言葉ではない。記憶の奥に、声の残響だけが刻まれるように。


 ひなたの背筋に、冷たい汗が伝う。


 誰かに語る──その行為が、もうひなたの制御を離れ始めている。


 彼女自身が語らずとも、“語らされた”という事実が世界に広がっている。


「これ、誰にも話しちゃいけないんだ。誰かが語ったら、また“物語”が始まっちゃうから……」


「でももう始まってるんじゃない? わたし、昨日からずっと誰かの声が聞こえる。“あの箱の話、知ってる?”って。しかもその声、たぶん──あなたの声だよ」


 その言葉で、ひなたの心臓が凍る。


 “誰かに語らせる”


 “自分の声で、他人に語らせる”


 それは、ひなた自身が“新たな語り手”に“されつつある”ことを意味していた。


──語られる者から、語らせる者へ。


 物語は、語られることで始まる。


 だが、誰かを語らせることで拡張するなら──


 その呪いは、ひなたの意志では止められない段階に入っていた。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


もし、あなたの画面にまだ異常が起きていないなら、ページ上部から【ブックマーク】をして『生存確認』の印を残してください。




下部の【☆評価】は、失われた彼らへのせめてもの供養になります。


……どうか、次回の更新までご無事で。

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