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【完結済み】あなたが読むかぎり  作者: 川原 源明
第2章 ウブカタバコ ―言葉にしてはいけない箱―

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第27話 語ってはいけない

 教室の片隅で、ひなたはスマホの画面を睨みつけていた。

 “@Ubk_Box”という見知らぬアカウントに、自分の撮った画像が自動でタグ付けされている。


「……誰がやったの?」


 小さく呟くと、みなとは怯えたように肩を震わせた。


「わからない。兄のスマホにも同じ通知が届いてた。でも、タグ付け許可も鍵も全部かけてたのに……」


「つまり、そのアカウントは“誰か”じゃない……“何か”ってこと?」


 理久はすでにスマホを取り出し、表示されていたアカウントの詳細を調べていた。


 だが、アカウントの登録情報は空欄。フォロー・フォロワー数もゼロ。そして、投稿は一件のみ。


 > 「ここにいるのは誰?」


 それだけだった。画像もリンクもない。文章も意味不明。


 なのに、まるで「見ている側」を探しているような言葉。


「アカウントの履歴も、IPも、投稿元もなし。タイムスタンプすら正常じゃない。昨日の投稿なのに、データ上は“存在しなかった”ことになってる」


 理久の口調は冷静だったが、言葉の選び方が慎重になっているのがひなたには分かった。


「それ……つまり」


「“語られる前には存在しなかったアカウント”ってことだ。お前が箱の画像を広めたことで、


 “語られた内容”が主体を得て形になった。これは、呪いそのものが“言語”によって生成されてる状態だ」


 みなとは青ざめた顔で、自分のスマホを握りしめている。


「……じゃあ、もう消せないの? このアカウント」


「削除はできない。消すには“語らせない”しかない」


「……え?」


「言うな。書くな。検索するな。見た記憶すら反芻するな。一度でも“再定義”すれば、それがまた別の主体に跳ねる」


 その瞬間、スマホの通知が立て続けに鳴った。


 @Ubk_Box:投稿を開始しました


 画面には、文章だけが並んでいた。


________________________________________

13:41「誰かが見ている」

13:43「おまえの名前、知ってる」

13:44「ひなた」

13:44「ひなた」

13:44「ひなた」

13:44「ひなた」

13:45「──そっちに行くね」

________________________________________


 ひなたは凍りついた。手が勝手に震え、スマホを取り落としかける。


「……なんで、私の名前が……」


 理久の顔から血の気が引いたのを、ひなたは初めて見た気がした。


「もう、“構造”が確定した。お前が“語り手”だ」


 その瞬間、教室の電気がちらついた。


 ブツッ、と蛍光灯が小さく爆ぜたような音がして、周囲のざわめきが遠のく。


 風もないのに、背後のカーテンがひとりでに揺れた。


 「今からは、言うこと全部が危険になる。思っても、書いても、言葉にするだけで──その構造に“つなげる”ことになる」


「……じゃあ、もう誰にも相談できないってこと?」


「そういうことだ。ここからは、“語らずに考える”しかない。


 この呪いは、“語りたがる者”を待ってる。だから──」


「誰かに言いたくなる前に、私たちで終わらせるしかない」



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


もし、あなたの画面にまだ異常が起きていないなら、ページ上部から【ブックマーク】をして『生存確認』の印を残してください。




下部の【☆評価】は、失われた彼らへのせめてもの供養になります。


……どうか、次回の更新までご無事で。

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