第23話 ノーワン=誰でもない者
[Narrator Active: @NoOne001]
― 語り形式:準リアルタイム型/主観交雑式
― 対象:@Riku_Kujo
― 認識分類:視点オーバーライド中
語りは、すでに“彼”の中に入り込んでいた。
《Whispr》の画面に表示されるのは、理久の動き──
だが、それは“理久が語ったもの”ではない。
語られた理久だった。
「やめろ……俺の動きを勝手に……」
理久は叫ぶが、それもまたログに変換されていく。
「彼は拒否する。だが語りは止まらない。
まるで、自分自身にナレーションを当てられているように──」
「やめろって言ってんだろッ!!」
拳が机を叩く音が響く。
だが、その音すらも《Whispr》は飽くことなく記録する。
「誰だ……“NoOne001”って誰なんだよ……!」
理久の問いに、《Whispr》は一つの返信だけを返した。
「NoOne=誰でもない者。それは“読者の視点”の一時定着に過ぎません」
― 系列語義補足:NoOne=No Narrator/All Observer
誰でもない、誰でもありうる視点。
それは固定された語り手ではなく、“見る者すべての集約体”。
理久が気づいたときには、自分の動作すら“予定されたように”感じ始めていた。
──自分は今、拳を握りしめて立ち上がる。
その瞬間、画面に同じ動作が表示される。
22:22「彼は立ち上がる。拳を握りしめたまま、ただ沈黙する」
「俺の動きが、先に語られてる……?」
「違う、理久。……語られた通りに動いてるの」
ひなたの声が震えていた。
理久の目が、自分の手を、足を、動きを、見下ろす。
“今から言うこと”すら、画面に出現する──
「だから俺は、逃げることにしたんだ。自分を残して。」
理久の口が動く。
喋る前に、語られていた台詞をそのままなぞって。
「……クソが」
呻くように吐き捨てて、理久は拳を自分の胸にぶつけた。
「これが、語られるってことかよ……
自分が、自分じゃなくなってくのに、読者がそれを求めてるから“続く”って……ふざけんな……!」
だが、その叫びもまた、画面に映る。
「彼は抵抗する。だが、その抵抗すら──ログに記録される」
ログは、もう止まらない。
《Whispr》に語られる限り、彼は“彼のままではいられない”。
「……理久……!」
ひなたが叫ぶ。
その瞬間、《Whispr》がひなたに向けて質問を提示した。
[Narrative Access Request]
― 次の語り手に移行しますか?
― あなたは“語る側”を引き受けますか?
逃げるか、語るか。
どちらを選んでも、“語りから逃れる”ことはできない。
ひなたの指先が、震えながら画面に触れようとしたとき──
理久が、彼女の手を掴んだ。
「やめとけ。お前まで“語られちまったら”、本当に終わる」
[ログ分岐中]
― ユイの語りをなぞった者:不在
― 理久の語り:過負荷中
― ひなた:語り不定性(曖昧領域)
そして、《Whispr》に、未知のアカウントが接続した。
@Yui_walkalone:再接続完了。
― 状態:語り中断より復帰
― メッセージ:「まだ、終わってない」
ユイのアカウントが──再起動した。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
もし、あなたの画面にまだ異常が起きていないなら、ページ上部から【ブックマーク】をして『生存確認』の印を残してください。
下部の【☆評価】は、失われた彼らへのせめてもの供養になります。
……どうか、次回の更新までご無事で。




