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【完結済み】あなたが読むかぎり  作者: 川原 源明
第1章 Whispr ―語られすぎた物語―

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20/101

第20話 ユイ、未完の語り

 @observer-000-yui。

 画面に表示されたそのアカウントは、消えていなかった。

 「最後の投稿」から数週間が経っているにも関わらず、アクティブ状態。

 だがログは──空白のまま。


「……なにこれ、どういうこと……?」


 ひなたが画面をタップするたび、ページは更新されるが、内容は一切ない。

 フォローも、フォロワーも、0。


「これは“語り手を持たない語り口”だ」


 理久が静かに言う。


 記録はある。

 だが、誰の意志によって語られたのかがわからない。


「ユイが“語り手”だったんじゃないの?」


「違う。“ユイ”という名前の“語り構造”が、《Whispr》上で生まれただけだ。

 だから──アカウントは生きている。中身が死んでもな」


 その瞬間、ふたりの端末に同時通知が届く。


[System Notice: ShadowNarrator00]

― 語り手:@observer-000-yui

― 状態:記憶構造のみ継続中

― 処理:語り主不在のまま、観測者による補完を要求


 “語り手不在の語り”──

 それは、《Whispr》にとってもイレギュラーだった。


 ユイという存在は、すでに“語ることをやめた”。

 なのに、語られた痕跡はネット上に残り続けている。


「このまま放置すると……どうなるの?」


「語りの空白は、“別の何か”が埋める。

 俺たちじゃない、何者かが語りはじめる可能性がある」


 画面がゆっくりと更新される。

 ユイのアカウントに、新たな投稿が一つだけ──現れた。


21:04「またここに来てしまった。誰もいない。あの音だけが──」


「それ、さっき……!」


「投稿されたばかり……誰が……?」


 理久が画面のHTMLソースを開き、ログ生成元を解析する。

 だが、データはすべて**“記憶再生型”**として分類されていた。


「これ……“ユイ”じゃない。“ユイの語り”を“再構成してる”……」


 つまり、

 **すでに存在しない語り手が、“語らせられている”**ということだ。


[System Memo: Whispr Protocol v3.6]

― 記録に基づき“語り手”を仮生成する機能が作動中

― 不在者の語りが、記憶と観測から自動構築される


 ひなたが口元を覆った。

 それは──“語り手の死”を、語りの継続でごまかす仕組みだった。


「これってもう……誰かが死んでも関係ないんだ……

 語りが、勝手に語られていくんだ……」


「そうだ。だから──次に“語り手”になるのは、俺たちじゃない」


[New Log Allocated]

― @Riku_Kujo

― @NoOne001

― observer-linked narrative chain:Active


 語りは続く。誰が語り手かは、もはや重要ではない。


 物語が存在する限り、語り手は生まれ続ける。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

もし、あなたの画面にまだ異常が起きていないなら、ページ上部から【ブックマーク】をして『生存確認』の印を残してください。


下部の【☆評価】は、失われた彼らへのせめてもの供養になります。

……どうか、次回の更新までご無事で。

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