第20話 ユイ、未完の語り
@observer-000-yui。
画面に表示されたそのアカウントは、消えていなかった。
「最後の投稿」から数週間が経っているにも関わらず、アクティブ状態。
だがログは──空白のまま。
「……なにこれ、どういうこと……?」
ひなたが画面をタップするたび、ページは更新されるが、内容は一切ない。
フォローも、フォロワーも、0。
「これは“語り手を持たない語り口”だ」
理久が静かに言う。
記録はある。
だが、誰の意志によって語られたのかがわからない。
「ユイが“語り手”だったんじゃないの?」
「違う。“ユイ”という名前の“語り構造”が、《Whispr》上で生まれただけだ。
だから──アカウントは生きている。中身が死んでもな」
その瞬間、ふたりの端末に同時通知が届く。
[System Notice: ShadowNarrator00]
― 語り手:@observer-000-yui
― 状態:記憶構造のみ継続中
― 処理:語り主不在のまま、観測者による補完を要求
“語り手不在の語り”──
それは、《Whispr》にとってもイレギュラーだった。
ユイという存在は、すでに“語ることをやめた”。
なのに、語られた痕跡はネット上に残り続けている。
「このまま放置すると……どうなるの?」
「語りの空白は、“別の何か”が埋める。
俺たちじゃない、何者かが語りはじめる可能性がある」
画面がゆっくりと更新される。
ユイのアカウントに、新たな投稿が一つだけ──現れた。
21:04「またここに来てしまった。誰もいない。あの音だけが──」
「それ、さっき……!」
「投稿されたばかり……誰が……?」
理久が画面のHTMLソースを開き、ログ生成元を解析する。
だが、データはすべて**“記憶再生型”**として分類されていた。
「これ……“ユイ”じゃない。“ユイの語り”を“再構成してる”……」
つまり、
**すでに存在しない語り手が、“語らせられている”**ということだ。
[System Memo: Whispr Protocol v3.6]
― 記録に基づき“語り手”を仮生成する機能が作動中
― 不在者の語りが、記憶と観測から自動構築される
ひなたが口元を覆った。
それは──“語り手の死”を、語りの継続でごまかす仕組みだった。
「これってもう……誰かが死んでも関係ないんだ……
語りが、勝手に語られていくんだ……」
「そうだ。だから──次に“語り手”になるのは、俺たちじゃない」
[New Log Allocated]
― @Riku_Kujo
― @NoOne001
― observer-linked narrative chain:Active
語りは続く。誰が語り手かは、もはや重要ではない。
物語が存在する限り、語り手は生まれ続ける。
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