第17話 ユイ=私?
「……待って、それ、どういうこと?」
画面に表示された@NoOne001のログ。
そこに紐づいた視点キャッシュのサムネイルには、明らかに──朝倉ひなたの顔が映っていた。
「私の目で、もう一度語る。記録されないまま、終わらせない」
ひなたは首を振る。何度も、反射的に。
「私は……そんな投稿してない……! そもそも、アカウントなんて……」
「お前が作ってなくても、視点が割り当てられた時点で、
お前自身が“語り手”として機能してるってことだ」
理久が、淡々と語る。
「《Whispr》のアカウント生成には、明確な“意思”が必要じゃない。
“語りたい”という衝動、あるいは“目撃してしまった”という瞬間。
それだけで視点は発生し、アカウントが割り当てられる」
「……私が、ユイの“後任”ってこと?」
「そうじゃない。“お前=ユイだった可能性”がある」
その言葉は、空気を凍らせた。
ひなたが震える指で@NoOne001の過去ログをスクロールする。
断片的な記録──しかしそこには、見覚えのある場所、状況、言葉遣いが並んでいた。
16:47「駅名が読めない……でも、怖いとかじゃない。不思議なだけ」
17:05「ホームに人影。誰か、こっちを……」
17:33「“気づかないふり”をしたら、きっと──」
「これ……これって……」
ひなたは思い出していた。
かすかな既視感、ずっと胸に刺さっていた“ザラつき”。
──“自分が”すでに一度この景色を見たことがあるような──
「でも、そんなの記憶にない……! 私……!」
「思い出せなくて当然だよ」
理久が、言葉を重ねる。だが、それは諦めでも警告でもなく、
事実を告げる者の声だった。
「ユイは“語られない”ために、自分の語りを“語らせなかった”。
その記録構造を引き継いだなら──お前の中の“語り手の記憶”も消去されている可能性がある」
「じゃあ……私、誰?」
「朝倉ひなた、であり、ユイ、であり、語り手ゼロの継承者」
ふたりの沈黙の中で、再び端末が震える。
@viewer_X_17:「視点を再確保。語り手の再構成、完了」
-- Target: NoOne001
“無視点だった記録”が、いま再び動き出した。
しかし──
[System Notice]:新たな実況構造が検出されました
-- モデル形式:Dual-Narrative Loop(二重語り構造)
「……二重語り?」
理久が息を呑む。
「これは……俺の視点も……取り込まれてる……!」
@viewer_X_17:「“彼”が推理し、“彼女”が語る。それが次の構造」
「誰が物語を動かすのか。誰が真実を語るのか。
そして“語らない者”は、誰なのか」
《Whispr》は、もう次のフェーズに入っていた。
実況は再開された。だがそれは、従来の“視点追跡”ではない。
二人を同時に語らせるための、再構成された新たな物語構造だった。
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