第101話 だれも語らないなら、わたしが語る
あなたはもう、忘れてしまったかもしれない。
あの夏のことを。
誰かが語って、誰かが語られなくなって、そして、誰かの声だけが残ったあの日々を。
でも、わたしは違う。
わたしは、覚えている。
忘れなかった。
それどころか、忘れないために語ることを選んだ。
──ねぇ、聞いてくれる? これは、わたしの声で語ったもの。
いくつかの“物語”があった。
誰かの声が聞こえて、誰かが消えて、誰かが存在しなかったことになった。
存在の輪郭は、誰かに「語られなければならない」ことで決まる。
でもそれは、とても静かで残酷な仕組みだった。
最初はただの“好奇心”だった。
ネットで見かけた謎の駅、消えた少女。
興味本位で理久を巻き込んで、現地に行った。
だけどそこで気づいた。
語られること、記されること、思い出されること──それらのすべてが、誰かの“存在”をこの世界に残すことなんだって。
語られなくなった人間は、消えていく。
見られなくなったものは、もうこの世に存在しない。
それが、“語りの呪い”だった。
でも同時に、それは“語りのちから”でもあった。
語れば、残る。
語れば、伝わる。
だからわたしは、語ることを選んだ。
理久は、どこかでわたしを笑っているかもしれない。
論理で説明がつかない世界なんて、アイツにとっては不条理でしかなかったはずだ。
でも、それでもいい。
あのとき理久がそばにいてくれたこと、わたしはずっと覚えてる。
それも、語っていく。
この世界には、いくつもの“語ってはいけない話”がある。
でもね、同じ数だけ、“語らなければいけない話”もあるの。
だから、これはそのひとつ。
わたしの中に残った、いくつもの声と、形と、匂いと、記憶。
誰も知らなくなった物語。
誰も語らなくなった呪い。
誰かの中でだけ、かすかに響いていた“あの声”。
それを、わたしが語る。
きっと、誰かがわたしの声を聞く限り、
この物語は、終わらない。
たとえ誰も信じなくても、たとえ誰にも届かなくても、
語られた物語は、この世界に残り続ける。
これは、そういう物語。
そしてこれは、わたしの声で語ったもの。
──聞こえたでしょう?
今、ここで。
あなたに。
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