表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】あなたが読むかぎり  作者: 川原 源明
第1章 Whispr ―語られすぎた物語―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/101

第1話 存在しない駅

挿絵(By みてみん)

「ねぇ、理久。これ、ちょっと見て。絶対に、ヤバいやつ。」


 放課後、帰り支度の音がちらほら聞こえる教室で、朝倉ひなたはスマホの画面を九条理久にぐいっと突き出した。


 理久は無言のまま、椅子の背にもたれて読書を続けている。ページをめくる音だけがやけに静かだ。


「ねぇってば!」

「うっせぇな……」


 理久が本を閉じた。表紙には『言語構造と思考の連鎖』とある。

 ひなたは思わず舌打ちした。こんな難しい本を読んでるくせに、どうして“おかしな投稿”には少しも興味を持たないんだろう。


「都市伝説じゃないよ! これ、ほんとにリアルタイムで投稿されてたの。実況形式で、"知らない駅"に降りちゃったって!」


「で?」


「……“くちばはら駅”って名前だったの。」


 その名前を聞いた瞬間、理久の眉がほんの少しだけ動いた。

 小さなリアクション。でも、ひなたは見逃さない。


「ほら、やっぱり知ってるでしょ! 消える駅、戻れないホーム、電車の音がしないやつ!」

「それがなんだ。どうせ釣りだろ。」

「じゃあ、なんで投稿が途中で消えてるの!?」


 そう言ってひなたはスマホを操作し、キャプチャを表示させた。

 投稿主の名前は“ユイ”。


________________________________________

16:47「今電車乗ってるんだけど、なんか駅名見たことない。怖」

16:51「“きさらぎ”って書いてあった。こんな駅、あったっけ」

16:57「車内アナウンスもないし、人いない。やば」

17:05「ドア開いた。降りてみる」

17:32「出口が見つからない」

17:33「ん? さっきまでいなかったのに、誰か──」



「ほらここ、『ん? さっきまでいなかったのに、誰か──』って……」


 理久は画面をのぞきこみ、指でスクロールした。


 一拍の沈黙。そして──


「……ここ、時間飛んでんな。」


「やっぱ変でしょ!? さっきまで五分おきだったのに、いきなり三十分空いててさ……」


 理久は画面を指先でスクロールしながら、無言のまま目を細めた。


 その目線が、どこか“計算している”ように見えて、ひなたの胸がわずかに高鳴る。


「うん。でも、これリアルタイムで投稿されてたやつで、もう消されてる。まとめサイトに上がってたけど、最初の投稿者はのはもう見れなくて……」


「お前、まさか本気で信じてんのか? こういうの、作り物ばっかだぞ。」


「でもさ、なんか変じゃない? 写真も一枚もなくて、文章だけでずっと続いてて、しかも最後……何かに気づいたみたいな感じで終わってる。」


理久は黙ったまま、スクリーンショットをじっと見つめた。


その目つきが、さっきまで読んでいた哲学本のときと同じ“分析モード”に変わるのを、ひなたは知っている。


「……位置情報は?」


「消されてる。でも投稿時間と位置情報は残ってるってまとめにあった。この辺──残響線の支線、来練駅の近くらしい。」


「ふぅん……」


 理久が息を吐くと、ひなたはすかさず畳みかける。


「ねぇ、行こうよ。現地! 絶対なにかあるって!」


「バカか。そんなもん、行ったところで何が──」


「お願い! 怖いとかじゃなくて、“気になる”の!」


「……うっせぇな。……まあ、暇つぶしにはなるか。」


 学校を出てから、ふたりは特に会話もなく並んで歩いていた。


 ひなたは理久の一歩後ろ、半歩ぶんの距離を取ってついていく。駅へ向かうこの道は、ふたりが中学のころから慣れ親しんだ通学路だが、今日はなんとなく空気が違って感じられた。


 日が沈みかけて、歩道の影がやけに長い。背後に人の気配でもあったら、きっと振り返らずにはいられなかったと思う。


「……で、なんでこんなところに駅があるんだっけ?」


 理久が不意に口を開いた。スマホを片手に、地図アプリを確認している。


「たしか昔、工場団地をつなぐ貨物線だったんだって。でも、十年くらい前に旅客化されて、名前だけ変えてそのまま残ってるらしい」


「“残響線”って名前も、ずいぶんと気取ってるな」


「いい名前じゃん、響きが」


「……皮肉だよ」


 ひなたはむっとしながら、それでも一歩先を歩く理久の背を見つめる。


 この人は、面倒くさそうな顔をしながら、いつだってこうして付き合ってくれる。ひなたが気になることを、笑わずに向き合ってくれる。昔からずっと、そうだった。


 そして、そのたびに彼は、真実を見つけてしまう。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

もし、あなたの画面にまだ異常が起きていないなら、ページ上部から【ブックマーク】をして『生存確認』の印を残してください。


下部の【☆評価】は、失われた彼らへのせめてもの供養になります。

……どうか、次回の更新までご無事で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ