クッキーはミルクにとけた
「ね?貴方の愛しい人と少し話がしたいんだけど、許可してくれる?」
ホームルームが終わり鞄を用意していたら百合川さんにそう言われて瞬き一つ。
「君なら、構わない。」
「あら、ありがとう。じゃいきましょう」
彼女が言い出したなら【いつか】ではなく【今】だろうと鞄を持てば当然のように踵を返した。
彼女は本当に不思議な子だ。
そしてよく【視て】いる。
彼女との出会いはこの学校に来て、乱入してきた暴漢を取り押さえた時。
すごいすごいと褒めそやす周りの中「わざと威圧して向かってこさせるなんて、修羅なのかしら?」と面と向かって言われてからだ。
武術を修めているようには見えない。
観察していて気づいたのは彼女の観察眼的な判断の良さ。
彼女の見た目は深窓の令嬢だ。寄ってくるのもそれなりにいる。表向きは良い顔しているが問題がある奴は絶対に相手しない。
そういう時の眼はすごく冷淡な色をしている。
たまに会話して交流した結果。
彼女からの俺の評価は「気持ち悪い」だった。
獲物が口に入って来ても直ぐに口を閉めずに、なんなら自ら臓腑に落ちるのを待つ捕食者だそうだ。
不思議な例えだが、何故か納得してしまった。
そんな彼女がリュウに興味を持つ理由が気になった。
彼女と並んで校門を目指す。
髪を黒くして整えたリュウはそこまで浮かずにいつもの位置にバイクを停めて待ってくれていた。
リュウがこちらに気づいて、顔が引き攣った。
ここは俺が繋ぐべき、か?
「ごきげんよう。貴方にお話したい事がありますの。お時間、頂けるかしら」
真顔の百合川さん。
それを受けて喧嘩する時みたいなリュウ。
雰囲気が、ピリピリする。
「…公園か喫茶店、どっちが良い?」
とりあえず場所を変えようと提案すれば
「…あまり人目がない方が良いのだけれど、良いとこご存知?」
あー、不思議発言もあるもんな。
「オレの行きつけの茶店なら個室がある」
リュウがバイクのスタンドを外して顎をしゃくる。
「なら、そちらで」
百合川さんはスタスタとリュウの後ろに続く。
着いたのは路地を少し入った雑居ビル。
入り口の横にバイクを停めて階段を登るリュウを追う。
カランとドアベルが鳴り、コーヒーの香りが鼻腔を擽る。アンティーク調の内装はとても落ち着く。
「いらっしゃい、おや?麻木君?」
「ども。個室使えます?」
「ああ。今日は…注文はどうする?」
「オレは一緒でいいけど、こいつらは注文いれる」
こっち、とリュウに案内されて奥のドアを開ける。
8畳ほどだろう部屋にテーブルと椅子が四脚。壁には窓は無く、絵画が一枚掛けられているだけのシンプルな部屋。
リュウが奥の椅子に乱暴に座る。
その真向かいに百合川さんが静かに座る。
…俺はどちらに座るべきだろうか?なんとなくリュウの横の椅子をずらして彼らの垂直の辺に一人で座る。
「メニュー、決めて」
リュウは百合川さんにメニューをテーブルを滑らして渡す。
「…あら。随分と豊富なメニューね…迷うから、マスターのおすすめのコーヒーとケーキをいただくわ。鷹宮君は?」
「…アールグレイとおすすめケーキで」
「ん、ちょっと待ってろ」
リュウは部屋を出ると水とおしぼりを持って戻ってきた。
「…んで?オレに話ってナニ?」
不機嫌そうなリュウを前に百合川さんは微笑む。
「そんな警戒しなくても大丈夫よ?別に鷹宮君を取った、なんて言わないから」
リュウの目が見開き、俺は予想外な言葉にポカンとしてしまった。
「ふふっ。鷹宮君は、あたしとなんて微塵も考えてないから失念してるけど、彼の側にしてみたら横恋慕してる女だと考えるわよ!にしても、アハッ!鷹宮君がそんな人間みたいな色するなんて、恋ってすごいわぁ!」
「…剣護ぉ、こいつ、なんか、怖い」
「ああ、えっと、その、不思議な子だから」
「あら?あらあら?名前呼びに変わったのね?恋人らしくっていいわね!」
「ッ!なんでっ!剣護!コイツにそんな話までしてんの!?」
「…一切!してない」
「以前校門でタカって呼んでたからよ。鷹宮君は独占欲半端ないから、惚気話なんてしないわ。恋人の可愛さは自分だけが知ってればいい、見た奴は殺したい。でしょう?」
ぐっ…図星で何も言えない。
「…」
「え…?剣護?マジ?」
「アハッ!沈黙は肯定よ?…ねぇ?鷹宮君の愛しい人はこんな鷹宮君嫌い?」
「…えっと、まず、『鷹宮君の愛しい人』ってオレを指してんの?」
「そうよ?だって貴方を許可なく名前呼びなんてしたら鷹宮君に殺されちゃうもの!あたし、まだ死にたくないわ!」
「…。け、剣護?」
戸惑ってこちらを見るリュウに居た堪れず
「はあ…。…。『麻木君』なら許可する。」
と顔ごと逸らした。
「えっ!?ちょっ!コイツが言ってんのマジなの!?たかが名前だけで殺意満々なの!?」
「…。度量の狭い奴ですまん…」
「貴方に恋してからこの男、急に人間味増してかなり面倒くさい感じよ?」
「百合川さん?」
「あたししか気づいてないから大丈夫よ!」
「…えっと、なら、ユリ、カワ?は、なんの話で?」
「それはケーキを食べてからでもいいかしら?」
「え?」
コンコンコン!
「はぁい!」
百合川さんがニコニコとドアを開けに行く。
「えっ?足音とか、聞こえなかったよな?」
「ああ。言っただろ?不思議ちゃんだって。」
「いや!不思議ちゃんとか言うレベルじゃないだろ?」
テーブルに並ぶケーキ達。
リュウのは5種類ケーキの盛り合わせにオレンジジュースだった。
「昔は、甘い物、恥ずかしくてここでしか食べれなかったんだよ…」
とモジモジしてた。
「…なら、今度から俺も一緒に来たいな?」
「え?でも、家でいつでも食えるじゃん?」
「麻木君?そいつは貴方の過去も全部自分に塗り替えたいの。貴方の『全て』が欲しいのよ。」
「百合川さん?暴露するのが目的なのかな?」
「んー?あたしはただ、麻木君に、こいつすんげぇ愛情激重野朗だから、あたしと…なんて辺な誤解しないでね?あたしが殺されちゃうから!って言いたかっただけ。んー!このケーキ美味しい!麻木君のお気に入りなだけあるわね!」
…居た堪れない。いや、たしかに愛が重い自覚はあるが、面と向かってバラされると…。
リュウ引いたかな?と伺ったら、耳まで真っ赤にして手で顔を覆ってた。
えっ、なに?どうゆう反応なんだ!?
「わあ、さすが金色だわ!コレを普通にデッカい愛情で捉えられるのねぇ。ホントお似合いだわぁ。」
「…百合川さん?金色って何?どう見えてるのか説明してくれる?俺には散々気味悪いとか捕食者と言ってたけどさ?」
「ん?麻木君?金色の蝶々よ?可愛らしい感じの。金色はピュアな人が多いわ!度量が超デカいの!麻木君と居ると鷹宮君の暗黒が凪ぐのよね。あたし的に居心地最高だわ!二人ともそもそも悪意が無いし!」
ニコニコとケーキを食べ進める百合川さんに釈然としないままリュウを伺う。
リュウは無心でケーキを頬張ってる。ああ、現実逃避した。
じゃ、俺もケーキ食べよう。
「…んと、ユリは、オレと剣護が恋人なの応援してくれるってこと?」
ケーキを平らげて少し落ち着いたリュウが口を開いた。
「ええ!あたしにできる範囲なら協力したげるからずっと仲良くしてて欲しいわ!」
「…そっか、ありがとな?」
「あたしのためでもあるから気にしないで?二人が仲良くしてる空間はホント居心地いいのよ、スピリチュアルな意味で。だから、疲れたら避難させてもらえたら助かるんだけどいいかしら?」
あたしのことは置物扱いでいいからっ!と手を合わされて顔を見合わす。
「…えっと、まあ、オレはかまわないけど、剣護は?」
「分を弁えるなら、同じ空間にいる事は許可する。」
「!ありがとー!鷹宮君の攻撃力と麻木君の癒しがあれば生き延びれるわ!」
「…ユリの世界は大変そだな」
「ああ…まあ、悪い子ではないからいいか。邪念なく祝ってくれるのは彼女くらいだし」
「…剣護?」
「ん?」
「愛情激重らしいけど、オレは…その、嬉しい♡」
「っ!!」




