俺たちの戦いは、これからだ!
本作はエブリスタの新星ファンタジーコンテスト(テーマ:現代ファンタジー)に投稿した作品です。
僕らが呼んだ救急車が山本のじーさんを乗せ、ボロボロの文化住宅の前から発車するのを、僕と神崎さんは見送った。
僕が何か言う前に、神崎さんは鞄を肩に掛け直しながら
「今、全国で急に人格が変わっちまう事件が頻発してる。」
と言った。僕は戸惑って、歩き出した神崎さんを追いかけた。
「そんな話、ネットでもテレビでも聞いたことありません。」
「大抵は性格が丸くなるケースだ、今のところはな。だから問題になりにくいし、報道もされない。」
神崎さんは前を向き、駅に向かいながら答えた。
「神崎さんは、そのために中央から来ているんですか?」
「そうだ。今、厚労省と警察庁を中軸に、この件を調べてる。山本のじーさんの件は、全くの別件から繋がった話だ。」
僕は早足で神崎さんに並び
「丸くなるなら、別に問題ないんじゃないですか?山本のじーさんだって粗暴に戻ってしまってたし。」
神崎さんは、急に足を止め、僕をにらみつけた。
「お前、マジで言ってんのか。元の人格の上に、仮想の人格乗っけられてんだぞ。他人に。人権をなんだと思ってんだ。勘弁できるわけねぇだろ。」
僕は何も言い返せなかった。
「この調査で中央から派遣されるとき、別にどこの部署でもよかった。勝手に動けるからな。でも生活援護課を希望した。何故かわかるか。」
今なぜ生活援護課の話なのか、また、僕には神崎さんがどうして生活援護課を希望したのか、わからなかった。
「希望がなくなるから誰も言わねぇが、大体のことは生まれときに決まってる。勉強も運動もな。優れた才能を持って生まれたやつは人生イージーモードで生きる。足りねぇやつはナイトメアモードだ。一生な。」
神崎さんは、何かに対して、とても怒っていた。
「だから、優れてるやつには義務があるんだよ、そうでないやつに対してな。そうやって公平を実現するんだ。生活援護課は、それを具体化する部署だ。だから希望した。」
その言葉を聞いたとき、僕は懲役3年なんて考えていた自分が恥ずかしくて仕方がなかった。
「他には?もう質問ねぇのか?」
また歩き出した神崎さんは前を見ながら言った。僕が落ち込んだまま
「いえ、大丈夫です。」
そう言うと、神崎さんは僕を振り返り、ごく普通の20代の女性の笑顔で
「優しいんだな。左手のこと、聞かねぇのか。」
と聞いてきた。
「いえ、あの。」
僕がもごもご言っていると神崎さんは、先回りするように言った。
「左手は事故で切断した。今ついてるのは、シナプス・ディリンクってので、無理から乗っけられた記憶や洗脳、仮想人格なんかをひっぺがすことができる機械だ。あんまり長く定着したやつは無理だけどな。派遣される時につけてもらった。」
「あ、はい。」
「何で山田が暗くなるんだよ。左手ねぇのは私だぞ。」
「あ、はい。何かごめんなさい。」
僕は頭を下げてペコペコ謝った。
「何謝ってんだか知らねぇけど、気にしてねぇよ。」
2人の間に気まずい空気が流れる。僕は何か話題を探したが、それより先に神崎さんが話し始めた。
「山本のじーさん以外にも、まだ調査対象者はいる。全国にいくつか同種の変異が集中的に発生している場所がある。若草市も、その1つだ。誰が何のためにやってんのかわからねぇが、必ず見つけ出してしばき倒す。だから手を貸せ。」
神崎さんの目は決意に満ちていた。
きっと、これからも大変なことがたくさん起こる。でも今は、神崎さんに協力できることが、とても誇らしかった。
僕は、胸を張って神崎さんに
「はい!」
答えた。
「あ、でもなぁ、80歳のじじいに殴られかけて、私に助けられてる奴が役に立つかなぁ?」
神崎さんは意地悪そうな顔で僕を見つめた。
「次は役に立ちます。まだコロコロもありますし。そういえば、神崎さんが防御してくれた時、使ったのは『ヴォーグ』でしたね。ヴォーグ、ヴォーグ、ヴォーグ、防具…なんて。」
自分で言っといてなんだけど、クソしょうもない親父ギャグを言ったことで、神崎さんに殺されるかと思ったが、神崎さんは小刻みに震え、大爆笑していた。
神崎さんはゲラだった。
「頼りないけど、お前の笑いのセンスは本物だ!」
これからの戦いに最も不要な要素を神崎さんに絶賛された僕は、なんとも微妙な気持ちだったけど、なぜか、明日からも頑張れる気がした。
調査対象者にあたり、事件の謎を解き、黒幕を突き止めて神崎さんがタコ殴りにする。
神崎さんと僕の戦いは、まだこれからだ!
〈終わり〉
読んでいただきありがとうございます。
皆さんに気に入っていただけたら、続きを書きたいと思います。




