訪問の真実
本作はエブリスタの新星ファンタジーコンテスト(テーマ:現代ファンタジー)に投稿した作品です。
「は、はじめまして。山田星人です。」
「はじめまして?過去に1度、イスカンダル星でお会いしたはずじゃが。」
「ち、地球では、はじめまして。」
「あぁ、なるほど。地球では、はじめまして。いや待てよ、でも、へんじゃな。」
「な、なにが!?」
「山田星人は、語尾に必ず『ピポ』が付くはずじゃのに。」
神崎さんが正座した状態で、僕の脇腹を肘打ちしてきた。
「ち、地球では、は、はじめましてピポ。」
神崎さんはこちらの気も知らず、小刻みに震えている。
「うん、ご無沙汰じゃな。さて、神崎さん。今日はまた、どうしたのじゃな。地球政府からの支援の条件になっている月1回の面談は、昨日、終わったはずじゃが。」
確かに神崎さんは、山本のじーさんの相手は疲れるとぼやいていたので、今日は僕の訓練のために来てくれたのだと思う。
けれど、今日訪問することを、事前に山本のじーさんに伝えていなかったのだろうか?
「実は、今日はケースワークじゃねぇ。大事な話があって来たんだ。じーさん、ここ3ヶ月以内で、誰かに連れ去られた覚えないか?」
「わしが誘拐するのではなく?誘拐されたか?」
山本のじーさんは驚いた顔をしていたが、僕はもっと驚いて目を丸くした。
「ちょっと神崎さん何を言ってるんです…ピポ」
「後で説明してやる。山田星人は黙ってろ。」
神崎さんのあまりの勢いに僕は思わず口をつぐむ。
「山本のじーさん、どうだ?認知症はともかく、あんた、もっと粗暴だったはずだ。それが急に丸くなっちまった。認知症なら前頭葉機能低下で粗暴性は加速するはずだ。何か覚えねぇか?」
神崎さんがそう言葉を向けると、最初は呆然としていた山本のじーさんは、次第に落ち着かない様子になり、頭を抱えて苦しみ始めた。
「そ、そういえば、誰かに、連れていかれたような、あれはどこだ?」
「それがどこかわかるか?」
神崎さんは、さらに鋭く畳み掛ける。
「わ、わからない。あれは、あれは、あれは、あ、頭が痛い、割れそうだ。」
「じーさんよく聞け。誰かがじーさんの記憶の上に、仮想人格を無理やりエンコードして、元の人格と多重インスタンス化した結果、負荷に耐えられず、認知症が加速したんだ。」
山本のじーさんは、なおも苦しみ続けている。
「私ならその苦しみから解放してやれる。同意するか。」
今や山本のじーさんは、ちゃぶ台をひっくり返し、畳の上を転げ回っている。
そんな山本のじーさんが、か細い声で
「た、助けて。」
と言う声が聞こえた。
「よっしゃ。今の同意とみなす。」
神崎さんは、右耳のワイヤレスイヤホンを指で押さえ
「決裁ルート・全承認確認、本人最終同意確認、シナプス・ディリンク起動願います。」
完全に展開についていけず、腰を抜かす僕の前で天井に向かってまっすぐ伸びた神崎さんの左手に、指先から手首のあたりまで青い光が走ると、信じられないことに、神崎さんの左手は、左右に割れ、中から銀色の金属光沢があるプラグのようなものが露出した。
「山田星人、山本のじいさんを押さえろ。山田星人、おい聞いてんのか!!」
茫然自失の僕は、神崎さんの鋭い呼びかけに我を取り戻し、自分でもなぜか全くわからないが、大きな声で雄叫びをあげた。
「ピポォォォーー!!」
僕が全力で山本のじーさんを抑え込むと、神崎さんは、ちゃぶ台を蹴散らし、山本のじーさんの首筋にプラグのようなものを当てた。
その途端、首筋に紫色の電流が走り、山本のじーさんは動かなくなった。
しばらくの沈黙のあと、山本のじーさんは目を覚まして起き上がると、僕と神崎さんを見て
「何だてめぇら?何勝手に上がり込んでやがる、ブチ殺すぞ!!」
そう言って僕に殴りかかった山本のじーさんの拳を神崎さんは『ヴォーグ』で防ぎ、山本のじーさんの手首が折れる音が部屋に響き渡った。




