山田星人
本作はエブリスタの新星ファンタジーコンテスト(テーマ:現代ファンタジー)に投稿した作品です。
山本さんちは、懐かしの番組を紹介するようなYouTubeの動画でしか見たことがないような、昭和臭が漂うボロボロの文化住宅の1階の西端の一室だった。
ドアには押しピンで『山本』と書かれた短冊が止められていた。
僕が呼び鈴を押そうとすると、神崎さんは僕の手を掴み
「鳴らねぇよ、そんなんもん。それより、いいか、中で山本のじーさんが飲み物を出すかもしれないが、絶対飲むなよ。死ぬぞ。」
「な、何が入ってるんですか?」
神崎さんはそれには答えず、ドアをどんどん叩き始めた。それはおよそ、ノックなどという生易しいものではなく、まるで闇金の取り立てのようだった。
「山本さん、いるんでしょう?神崎です。開けて。聞いてる?………おい、山本いるんだろう?さっさと開けろ。おいこら、山本!山本星人!!」
神崎さんが乱暴にドアを叩き続けると、いきなりドアが開いて、80歳くらいの老人が顔を出し、左右を確認すると、僕らを部屋の中に引っ張り込んだ。
「そんなに大きい声だしたら、わしが山本星から来てることがバレるじゃろ!」
僕らの前には、80歳前後の背の低い老人が立っていた。失礼だけど、勝手にもっと小汚い老人を想像していた。
けれど、山本のじーさんは、だいぶイメージと違っていた。
確かに年季は入り、くたびれてはいるが、身なりに不潔な感じはなく、服の綻びも丁寧に補修された跡がある。
部屋の方も、狭くて築古であることは否めないが、きれいに清掃され、家財も片付いている。
およそ僕が想像していた、ゴミ屋敷に住む偏屈で小汚いじーさんとは全く違っていた。
「ごめんごめん、山本のじーさん。」
神崎さんは家に上がり込みながら、山本のじーさんに見えない角度で、耳に装着したワイヤレスイヤホンのスイッチを押した。
これはケースワークをする際、全職員に義務付けられているもので、これだけで、録音及び録画、さらには同時に3箇所まで通信をリアルタイムで繋ぐことができる。
通常は生活援護課と繋ぐが、危険が予期される場合は、所轄の生活安全課ともリンクさせることがある。
「うちの山田が、早く山本のじーさんに会わせろって、急かすからさ。」
僕はいきなり話を振られ、焦って神崎さんを見たが、神崎さんは涼しい顔をしている。
「山田?山田っていうと、あの山田星人か?」
「あの」って、どれ!?と僕が黙っていると、神崎さんが小声で
(適当に話を合わせろ)
と囁いてきた。




