コロコロ
本作はエブリスタの新星ファンタジーコンテスト(テーマ:現代ファンタジー)に投稿した作品です。
翌日、神崎さんからもらったメモの場所に行くと、そこはコンビニエンスストアだった。
中に入ると、朝の商品補充とラッシュが終わり、緩やかな時間が流れていた。
神崎さんは既に来ていて、通りに面した書籍コーナーで立ち読みをしていた。
「おはようございます、神崎さん。」
僕がそう声をかけると、神崎さんは少しだけ本から目を離し、僕を一瞥すると
「ん。」
と言って返事をし、本を読み続けた。
僕は所在無げにその場に立って、神崎さんを待っていたが、5分ほど経っても、神崎さんは立ち読みを止めなかった。
「あ、あの、山本さんちへケースワークに行かないんですか?」
「ん?行くよ。」
神崎さんは相変わらず本から目を離さず答えた。
やがて、神崎さんは本を閉じると、その読んでいた女性向けファッション雑誌を小脇に抱え、僕を見て
「お前も何か本買え。」
と言った。
「え?いや、別に大丈夫です。ここにそんな読みたい本ないし。なぜです?山本さんちまで遠いんですか?」
僕がそう聞くと、神崎さんは
「買いたくなければ別にいい。ちなみに山本さんちは、すぐそこだ。」
なおも、僕が不思議そうな顔していると、神崎さんは続けて
「うちの部署は関係ないが、昔、山本のじーさんは、市役所職員にナイフを振り回したことがあってな。念のため、ナイフで襲ってきたら、私はこの『ヴォーグ』で防ぐ。お前が素手で対応するなら止めはしない。」
僕はあまりの驚きに目を丸くして抗議した。
「ちょっと待ってください。話が違うじゃないですか。昨日は危険性がないって。」
「ないよ。今はな。過去の話だ。その過去の話をどうリスク評価するかってことだ。お前は素手を選んだ。若手の判断は尊重したい。」
「え、えぇ!?ちょっと待ってください。ええと、ええと。」
僕は生まれて初めてコンビニで一気に『コロコロ』を4冊買った。
そしてコンビニのレジで店長さんに在庫はもうないのかと尋ねると、売り切れだと言うので、来月は、もう4冊余分に仕入れるようにお願いした。
コンビニの外に出て鞄にコロコロを詰めると、いい感じにコロコロ4冊が鞄にぴったり収まった。
そんな僕を見て、神崎さんはニヤリと笑い
「いい判断だ。」
と笑って歩き出した。
生活援護課に着任して以来、初めて神崎さんに褒められた瞬間だった。




