山本さん
本作はエブリスタの新星ファンタジーコンテスト(テーマ:現代ファンタジー)に投稿した作品です。
「うん?誰こいつ?」
「あ、神崎さん、こちらは、今日新人研修が終わって配属された、山田さん。」
田中さんの紹介を受けて、僕は慌てて立ち上がり頭を下げ
「本日付で生活援護課に配属になりました。山田康太です。どうぞ、よろしくお願いします。」
「ああ、新しいバディ。よろしくな、神崎だ。」
「よろしくお願いします。」
「ところで、山田はメンタル強いか?」
「どうでしょう、自分ではよくわかりませんが。あの、同じ質問を、課長にも田中さんにも、されました。それは生活援護課でのケースワークが、だいぶ厳しいということでしょうか?」
神崎さんは椅子にどかっと座ると、自分の手で肩を揉みながら首を回して『あぁー』と言いながら、僕を見た。
「まぁ、そうだな。前の子は3日で辞めちまった。」
「み、3日ですか!?」
「おう。だから、そうだな、当面の山田の課題は、毎日元気に来ることだ。こうぺんちゃん方式だな。」
「あ、はい。」
思ったよりも、ずっと厳しそうな生活援護課での仕事に、僕はゲンナリとした。
「そういや、もう一覧表をもらったか?」
「あ、はい、課長からいただきました。」
「その140人は1ヵ月でケースワークを一周するからな、ぼちぼち頑張ろうな。とりあえず、明日は、山田の研修も兼ねて、新件の山本さんちに行こうか。」
「山本さん?」
一覧表は目を通したが、その中に、山本と言う名前はなかったように思うが。
いぶかしげな顔をしていると、田中さんが前の席から
「山本さんは、最近、受給が始まったおじいさんで、その表には載ってないよ。新件の人。」
「あ、そうなんですね。でも、なぜ、その方から始めるんですか?」
田中さんの言葉を聞いて、僕が神崎さんに質問すると、神崎さんは背筋を伸ばし、椅子の背もたれを後ろに思いっきり倒すと、その背もたれが戻る反動を使って前に立ち上がり、僕を見て
「山本さんが宇宙人だからだ。」
そう言った。
「へ!?宇宙人?」
僕があっけに取られていると、また田中さんが前からフォローしてくれた。
「山本さんは高齢者で、認知症で判断能力が減退しているの。それで自己認識が宇宙人なんだけど、認知症状を呈している人には珍しく、攻撃性や易怒性がないの。ただ何度も同じ話を繰り返すだけの友好的な宇宙人なの。君の肩慣らしに、ちょうどいいってこと。」
田中さんの説明に神崎さんはうなづいて
「そういうことだ。というわけで、山田、今日はもう帰れ。生活援護課に来て定時で帰れるのは、おそらく今日が最後だ。かみしめてこい。明日は市役所ではなくて、ここに直接来い。朝9時な。遅れんなよ。」
神崎さんは、そう言うとデカ付箋にメモを書き、僕に手渡した。
「それじゃ、お疲れ。」
神崎さんは席に座ると、パソコンで今日のケースワークの報告書の作成を始めた。
とりつく島のない神崎さんの様子に、僕は少し周囲をキョロキョロ見渡した後、引き出しから鞄を取り出して胸に抱え
「お疲れ様でした。失礼します。」
そう言って、頭をペコリと下げた。
課長と田中さんから同時に
「はい、お疲れちゃん。」
と声をかけられ、僕は生活援護課を後にした。




