配属
本作はエブリスタの新星ファンタジーコンテスト(テーマ:現代ファンタジー)に投稿した作品です。
勉強があまり得意ではなかった僕は、何とか、地方の二流私立大学を出て、その地方の衛星都市、若草市役所への就職が決まった。
4月1日の入庁式、それに続く1週間の新人研修を経て、各新入社員の配属部署が発表された。
僕の希望は政策企画課だったが、実際に配属されたのは生活援護課だった。
つまり僕は生活保護のケースワーカーになった。
生活保護ケースワーカーは、生活保護受給者の生活の相談の窓口となり、主に経済面からその生活のあり方をサポートし、経済的自立に向けて指導や助言を行い、もって人格的生存の確保を目指す崇高な役職であった。
表向きは。
配属先発表後、僕は速やかに市役所2階、他の部署から、かなり離された場所にある生活援護課の扉を叩いた。
しかし行ってみると、課には、ほとんど人がおらず、席に座っていたのは定年間際の課長だけだった。
僕がおずおずと
「4月8日付で生活援護課に着任いたしました。山田康太と申します。不慣れですが、精一杯がんばりますので、どうぞよろしくお願します。」
そう課長に挨拶をすると、課長が立ち上がり笑顔で
「新人研修が終わったんだね。うんうん。生活援護課へようこそ。一緒に頑張ろうね。」
そう言って右手を差し出した。
あ、握手!?
内心、かなり戸惑って握手する僕の肩を、課長はバンバン叩いて、やたらうなずいた。
「山田君はメンタル強い?」
「いや、どうでしょうか。自分では、よくわかりませんが。」
僕は苦笑いをして言葉を濁した。
「ところで、あまり人がいらっしゃらないようですが、皆さんは、今?」
僕が振り返って机を眺めながら、課長に質問すると、課長はまた、うんうんと、うなずきながら
「この時間はみんなケースワークに出てるからね、あまり所内には残ってないんだよ。また、帰ってきたら、みんなにも紹介するから。」
そう言うと、課長も周囲の机を眺め、課の入り口付近にあるホワイトボードを指差した。
そこには、課員の名前と所外へ出る時間と帰ってくる時間などが、一覧表になって記載されていた。
課長は、またゆっくりと席に座り、事務仕事を始めた。
「あの、皆さんが戻ってくるまで、僕は何をしたらよろしいですか?」
僕はそう聞くと、課長が手元の書類から目を離し、天井を見上げ、持っていたボールペンを顎に当て、カチカチと何回かノックした。
「そうだね、そしたら君が担当するケースの一覧を渡すから、ざっと見ててもらっていいかな。個別案件に関しては、またバディから説明があると思うから。」
「バディ?」
「そうか。知らないと思うけど、我が若草市役所生活援護課では、基本的にケースワークするときは、2人1組で行動することを前提としてるんだ。だから、君にも相棒がいるってこと。」
課長はそう言うと、引き出しから、ダブルクリップで止められた一覧表を取り出し、僕に渡すと、また自分の事務仕事に戻っていった。




