三月の朝はひしひしと
森の中でピンク色の桃の花が咲いている。
小さなタヌキくんと、頭に王冠のようなものを乗せた白いおサルさんがいる。
ふたりは三色のひし形のお餅を食べていた。
「んとね。白猿さん。ぼく、三月のひな祭りではひし餅を飾るよね。どういう意味があるんだろう」
「子狸くん。諸説あるけど、もともとは中国の行事で食べられた草餅で、緑色だった。日本に入ってきて、春をイメージした桃色と白が加わったようだ。桃色は魔除け、白は清浄、緑は健康を表すという説もあるぜ」
「そうなんだ。この形には意味があるの?」
「平安時代に皇居で新年に食べられたお餅を模していて、健康祈願で食べられていたものだ。四角形を伸ばしたひし型がどうやってできたかは諸説ある。ひとつの説は、水草のヒシの実の形ってものだ。水草のヒシは繁殖力が強いから、子孫繁栄や長寿の意味もあるみたいだぜ」
「んとね。ヒシの実は、忍者のマキビシのもとになってたと思うの」
「ヒシの実は三角錐の形をしていて、地面に置くとどれかのトゲが上を向く。草履で踏んだら痛いだろうなぁ」
「それを金属で作ったがマキビシなの」
「あまり知られてないが、ヒシの実は食用にもなるぜ。固い皮の中に柔らかい白い実が入っている。アク抜きしてゆでるとクリに似た食感になるそうだ。ヒシの実の粉でひし餅がつくられたこともあるようだ。忍者の非常食に使われた説もあるぜ」