6.異世界転移装置
街をぶらぶら歩いていると、時子がありとあらゆるものに興味を持ち、質問してくる。
「あの動く籠はなんじゃ」
「あれは、車っていうんだよ」
「くるま?どういう仕組みじゃ」
「エンジンという動く金属の塊が載っている」
(この様子じゃあ、博物館にでも連れていく方が早いな)
と染谷は内心思ったが、残念ながら京都に自動車博物館はない。
「ここに来た時に見た、連なって動く巨大な箱は何じゃ」
「あー、それは電車だよ。乗ってみるかい?」
「乗るとは何じゃ?中に入れるのか?」
「そうだよ」
染谷は、阪急電車に乗せてあげることにした。
「茶色の連なる箱!これじゃ!」
時子は興奮気味に電車に近づいてゆく。
仕組みを説明するより、実際見せてあげるほうがいいと思い、一番先頭の車両に連れて行った。乗客達は、後から発車する特急電車に乗る人が多かったので、電車は思いの外空いていた。
「ここが運転席。ここに乗る人が、電車を操縦する。平安時代で言うと籠の持ち手や船頭のようなものだな」
「よくわからんが、すごいでござる!これは移動に非常に便利でござるな」
まもなくすると電車が扉を閉め、ゆっくりと動き出す。暗い地下。時子と染谷の顔が窓に反射する。
「入った洞窟もこのように暗かった。この電車とやらにのれば、元の世に戻れぬ物かのう」
「無理だろうな。電車は単に便利な乗り物であって、異世界転移装置ではないからな」
「いせかいてん・・・?」
「異世界転移装置。いわゆるタイムマシーンだ」
「タイムマシーン?」
「この世界と違う世界を行き来できる便利な乗り物だ」
「この世にはそんなものが存在するのか?」
「いや、厳密に言うと存在はしない。空想が好きな人間が考えた架空の乗り物だ」
「染谷さんにそのタイムマーシーンとやらは作れぬのか?」
染谷は、首を横に振る。
「俺は、しがない漫画家だ。この世界にはそういう分野を得意とする人間もいるが、それでも未だ作られていないのだよ」
電車は、ガタンと小さく揺れ、駅に停車した。
「降りようか。帰りは市バスで帰ろう」