2.転生
気が付けば、その洞の中で眠ってしまっていたらしい。時はとっくに深夜を過ぎているだろう。このままでは母上に叱られて、また家に入れてもらえなくなる。そう思い、慌てて来た道を引き返した。
どのくらい歩いただろう。暗い洞の先に、一筋の明かりが見えてきた。(洞の外に出られなくなるなんて話、やっぱり嘘なのね)時子はそう思った。しかし、いざ洞の外に出ると、景色が明らかに違っていた。地上から煌々と輝く、天まで届きそうなくらい大きな建物がいくつも立ち、川の水は全くなくなり、橋があったと思われる場所には二本の鉄を敷きそれと直立になるように木の板を何枚も敷いた謎の道が出来ていた。時子はあまりにも驚き、しばらくその場を動くことが出来なかった。しばらく動けないでいると、その謎の道には、茶色に輝く巨大な箱が連なり、駆けて通り過ぎてゆくのだった。
(とんでもない場所にきてしまった。ここはどこじゃ)
腰を抜かす時子だったが、この周りには人の姿もない。何が起こったか、どうすればよいかを訊ねることもできない。時子は、夢か現実かもわからないこの状況の中で、いったん冷静になり、この場所を離れる事にした。
土手を這い上がると、黒い砂利が固められたような、固い道が現れる。気温もかなり高い。その黒い道はかなり広大でずっと真っすぐ続いていた。時折、見たこともない箱型の動く籠が、時子の前を通り過ぎて行った。
どれくらい歩いただろうか。時子は栄えた街に出た。しかし、その街は時子が知っているそれとは大きく違っていた。建物はもっとしっかりし、店先には、旗が立っていたり、看板も白い謎の板に様々な色で描かれているものだった。
時子は、喉の渇きを催していた。この暑さにやられての話だ。
字が読めないのが辛かった。看板に書いてある文字もまるで異国の言語だ。時折、漢字が混ぜてあったので、なんと書いてあるかくらいは理解できたが、その意味まで理解することは不可能だった。
時子は、その中から、食べ物や飲み水を提供してくれそうな場所を探した。木の看板に喫茶xxxと書かれている。扉を開けると、チャリンチャリンと鐘の音が鳴った。席に座ると、透明なガラスに入った水が提供された。
「何にするか決まりましたか」
要約するとこのような意味であろう。言語はよくわからなかったが、店主と思われるその年老いた女性はそのように問いてきたと思った。隣に座っていた人と同じ飲み物をと思い、指をさすと、「アイスコーヒーね」とその女性は言い、まもなくそれが運ばれてきた。恐る恐るそれを口に運ぶと、それはそれは苦かった。しかし、喉が渇いていたので、それを一気に飲み干した。