18.病院
どれくらい経っただろうか。車が止まり、後方の扉が開かれる。濃紺の袖の短い服を着た男女が待っていた。ここは実際に医術を施す、
なれ果てでは病院と呼ばれている場所だろう。
「ここどこかわかりますか」
その者らは、激しい剣幕をしていて、とても必死そうであった。
「府立医大病院ね」と市江さんが答える。
その濃紺の服を着た者らのうち一人には、時子も見覚えがあった。
(喫茶マロウドによくコーヒーを飲みに来る男だ!)
その男が市江さんに話しかける。
「市江さん、澤田です。転倒した時頭は打ってないですか」
「澤田君。こんなところでお会いするとは嫌だわね。打ってないわ。反射的に腕から落ちたらこの通りよ」
市江さんは、痛いのを我慢して、その男に対して健気に振舞っている。市江さんもこの男の事は知っているようだった。
「お連れの方はこちらでお待ちください」
濃紺の服を着ている女の方が、さらりとそう告げた。その間に、市江さんは別の部屋へと運ばれて行った。時子は長椅子に座った。この様子だとしばらくその場で待たされる様である。しかし、さっきの男は何者であろう。この様子だと、平安京でいうところの「医師」だろうか。
しばらく待っているとさっきの澤田と名乗る男が、市江さんを収容した部屋から出てきた。
「マロウドの従業員の方ですね。医師の澤田と申します」
その男は「いし」と発音したが、胸元の名前が書いてある札を見ると「医師」と書かれている。平安京の「くすし」と役割は同じようだ。澤田は、渋い顔をしてこう告げた。
「おわかりかと思いますが、腕の骨が完全に折れていて、手術が必要な状態です。手術しても元の状態に完全に回復するかは、わかりません」
澤田が写真を持って説明を始めた。
写真は、所謂レントゲン写真で、時子は初めて見る腕の骨に感動した。写真は細部まで鮮明に映し出していて、時子ですら、それが折れている事は見てすぐわかった。澤田の説明の中で、先程から「手術」という言葉が出てきていたが、その言葉の意味がわからなかった。とにかく、市江さんがすぐにマロウドに戻って来れないというのは理解できた。
時子は、染谷に電話をかけると、すぐにつながった。
『時子ちゃん、どうした』
『市江さんは、しばらく戻らないそうだ』
『入院といって、病院でしばらく治療するんだ』
『そんなことができるのか。それから、手術という言葉が出てきたんだが、その意味がわからなくてな』
『実際に、身体を切り開いて治す治療法の事だ。麻酔という薬を使うから痛くないんだよ』
『実際に身体を開く!痛そうじゃ、考えるだけでおぞましい』
『現代ではそれが出来るんだよ』
腰をぬかしそうになる時子であったが、医師がそれが正しい治療法だと認めているからそうなった訳で、ここは一旦、認めることにした。




