夕方の路地裏で甘味再燃 ドキドキが結ぶ仲間の輪
こうして始まった“仲良し少年グループ+私”のミニ甘味めぐり。通り沿いにはいくつかの屋台が並び、魔法でふんわりしたパンケーキや、冷やしたゼリー菓子など、見ただけで心が踊るスイーツが揃っている。少年たちも目を輝かせて、「こっちのフルーツパイが最高!」「いや、あっちのカステラがふわふわなんだって!」と互いに意見をぶつけ合う。
私は思わず鼻をクンクンさせながら、「この匂い……前に食べた屋台っぽいかも!」とテンションが上がる。少年が「おっ、そうか? じゃ、さっそく買いに行こうぜ!」と腕を引っ張ってくれる。私が足を踏み出すとき、ズボンがややキツい感触を伝えてくるのが少し気になった。ああ、やっぱり成長期ってすごい……でも、気にしてても仕方ないよね。私は軽く笑って誤魔化す。そんな微妙なズレより、いまはこのスイーツ巡りを楽しむほうが大事だ。
まず訪れたのは、大きな鉄板で“パンケーキ”を焼き、ふわふわのクリームを載せる屋台。表面が香ばしく、中は魔法で空気を含ませたように軽いという評判だ。店先には中年の女性が「いらっしゃい、いま焼きたてがあるよ!」と声をかけてくる。少年の一人が「うわっ、美味そう……」と垂涎状態。私も近づくと、むわっと甘いバターの香りが鼻孔をくすぐり、口の中が唾液で満たされてしまう。
「す、すごい……これ、どんな味なんだろう」
私が上ずった声を出すと、隣の少年が「お前、ほんと甘いもの好きだよな!」と嬉しそうに笑う。私は思わず「え、えへへ……」と笑い返してしまう。心の中で“ああ、やっぱり変な話だな……”と複雑になるけれど、昔もそんなに甘い物嫌いではなかったから、案外自然に対応できている。
店の人が「ほら、焼きたてだから熱いよ?」と紙皿に載せて渡してくれる。私は指先が燃えそうなくらい熱いパンケーキをどうにか受け取り、クリームとシロップを上からかけて頬張る。口に広がるバターの芳醇さとクリームの甘み――思わず頰が緩んで、「んん……美味しい!」と感嘆の声が漏れる。そんな私を見て、少年たちが「こいつ、ほんと幸せそうな顔すんな!」とニヤニヤからかってくる。自分でも気づかないうちに“女の子っぽいリアクション”をしてるんじゃ……とヒヤッとするが、彼らは何も疑わない様子。むしろ「お前らしいよな!」と笑い合っている。
内心でホッとする。まさに、男装してるけど中身は少女、でも前世の男の感覚もある――そんなごちゃ混ぜの自分を、こういう場所でなら許せる気がする。何とも言えない不思議な開放感だ。
さらに屋台を何軒か回って、フルーツゼリーや魔法で凍らせたアイス菓子などを次々とつまむ。少年たちが「これ、ヤバイくらい美味い!」と口角を上げて幸せそうに食べるので、私もつい負けじと買い食いしてしまう。気づけば両手に紙皿やカップを抱えている状態。ここでちょっとしたトラブル――バランスを崩し、転びそうになる。
「わっ、あぶな……!」
思わず前のめりに足をつんのめらせた瞬間、リーダー格のフューゴがサッと腕を伸ばして私の肩を支えてくれた。「ほら、気をつけろって、リオン。両手がふさがってるなら……」と言いかけて、私の腰あたりをぐっと掴まれる。そのとき、私の体は少年とは違う“女の子”の骨格だからか、一瞬だけ“あ、やばい”と意識が警報を鳴らす。腰やお尻まわりのラインが彼の手に伝わるんじゃないかと……。
(ドキッ……。いまバレたらどうしよう……)
私が固まっていると、フューゴは「ん、なんだよ。ちゃんとバランスとれたか?」と首を傾げる。どうやら彼は全く疑問に思っていないようで、「ほんと、甘い物好きならもっと落ち着けって!前もこんなことあったな!」と笑って腕を離す。私はすぐに「ご、ごめん……ありがとう」と上ずった声で応じるが、胸がバクバクして止まらない。
周りの少年たちも大笑いしながら「こいつ、はしゃぎすぎなんだよ!」なんてからかってきて、私は内心ホッとする。バレなかったみたい。でも何だろう、この“男の子に助けられて、変にドキドキする”という感覚は……いまさら少し恥ずかしい。ただ、無事に転倒は免れたし、紙皿も落とさずに済んだからセーフ。
そんなこんなで、少年グループの輪にすっかり溶け込んでしまった私。彼らの馬鹿笑いに付き合いつつ、甘い物を次々と試し、軽口や冗談を飛ばし合って楽しむ。途中、「おいリオン、男ならもうちょい辛口とか好きなんじゃねえの?」と冷やかされる瞬間もあるが、そこは「いいじゃん、甘いもの好きだって!」と開き直って乗り切る。前世男だったとはいえ、いまや甘いもの大好きな身体だし、実際、美味しいんだからしょうがない。
“男っぽいのに可愛いリアクション”みたいな扱いを受けても、もう慣れた。あえて中途半端な男らしさを求めるより、彼らが気にしないならそれでいいや、と達観してしまった自分がいる。
そうこうしているうちに、夕方が近づいてきて、空気の温度が少し下がり始める。少年たちが「今日はこんなところかな」「お腹パンパンだし、帰るか~」と解散ムードになる。私もさすがに食べ過ぎて苦しい。両手に抱えていた紙皿やカップを片づけ、ごみ箱へ捨てに行った。
一日があっという間に過ぎてしまった気がする。短い時間だったけれど、大満足だ。暗殺の恐れもなく平和に過ごせる日常の大切さを改めて噛みしめる。
「リオン、今日はありがとな! お前、ほんと甘いもん大好きだよなあ。また近いうちに一緒に回ろうぜ!」
フューゴが大きく手を挙げ、仲間も「じゃあねー」「今度は俺ん家の近所の店も行こうな!」と声をかけてくれる。私も笑って手を振り返す。
(だましているみたいで、いや、実際にだましているのだけれども、彼らには悪いなあ。いや、前世じゃ男だったし、今は女の子なんだけど、見た目は少年……わけがわからないよね……)
そんな混乱を胸の奥で抱えながらも、私は「じゃあ、またね!」と声を張り上げる。少年同士の軽い別れの挨拶みたいに、ガッと拳を突き合わせる子もいて、私はぎこちなく拳を当て返す。変に胸がくすぐったい。でも嫌いじゃない、このノリ。先日の王都でのやり取りを思えば、こういう平和な交流がいとおしく感じられる。
仲間と別れたあと、私はそっと路地を抜けて大通りへ戻る。護衛の騎士たちが離れた場所から寄ってきて、「大丈夫でしたか? 特に怪しい動きはありませんでした」と報告してくれる。私は「うん、ありがとう。助かったよ」と笑顔で返す。穏やかな町の雰囲気が広がっていて、私も一日を気楽に過ごせた。
夕闇が迫るころ、男装姿で領主館に戻る道すがら、私は一瞬だけ足を止めて遠くの空を見上げた。オレンジ色の夕焼けに沈む雲が幻想的で、どこかせつない。暗殺者の影やラグレン家の策略がいつ迫ってくるか分からないけれど、こうして日常を享受できる時間があるだけで救われる思いがするんだ……。
護衛が「どうかしましたか?」と声をかけてきて、私は「ううん、なんでもないよ。さ、帰ろうか」と歩き出す。頭の中には、先ほどの“少年グループとの笑顔”が焼き付いている。私の正体に気づくことなく、彼らは本当に仲間として受け入れてくれてるのが嬉しい……。でも少し罪悪感もある。
同時に、前回よりも体つきが変わってしまい、危うい瞬間があったことも事実。いつまで“少年スタイル”が通用するんだろう……そんな疑問もこみ上げる。そこには微妙に女の子の体であることを複雑に思う私がいる。前世が男だったからこそ、男装に抵抗は薄いはずなのに、今はなんだか不思議と引っかかる。
だけど、今日一日は楽しかった。美味しいスイーツもたくさん食べられたし、仲間との会話で笑えた。これが何より大切。私は自然と口元がほころび、足取りも軽くなるのを感じる。
「やっぱり、こういう日も必要だよね……王都での交渉で疲れたし……」
私は小さくつぶやき、背伸びをする。男の子みたいに振る舞いながら、大きく伸びをしてみると、少しだけ胸が苦しくなる。少し肉がついてきたせいで、動くと固く締めてる部分が圧迫されるんだ。これも含めて成長の証拠かもしれない。
まあ、いいか。いずれその日が来るとしても、今日は何の問題もなく過ごせた。それだけで御の字だ。心地よい疲労感を抱えながら、私は夕闇の町を後にし、屋敷への帰路へと足を進める。すぐにエミーとローザが“どうだった? 楽しかった?”と詰め寄ってくるのが目に浮かぶけれど、その光景さえも今は微笑ましく思える。
(大丈夫――ラグレン家との闘いはこれからも続くけれど、私は日常を楽しむ余裕を持ちたい。暗殺リスクがあっても、男装で街歩きするくらいの余裕をね。そうじゃないと、この世界で生きていけないよ……)
心の中で強く誓いながら、私はそっと帽子を押し上げ、視界に広がる町の夕景に見とれた。焼けるような空が人々の影を長く伸ばし、そこには護衛の騎士たちが私を守るように寄り添っている。どこか幻想的で温かい――そんな風景を胸に刻みつつ、小さな私の世界は、今日も続いていくのだと思う。
人混みにまぎれ、甘い香りに包まれて、私はもう一度“少年”になってみる。矛盾だらけの私だけれど、それが私の人生。少しずつ、でも確かに前を向いて歩いていくのだ。
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