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疑い、抱えて──少年姿の当主が裁判所モドキを覗く理由

ここ最近、非常に多くの方にお読みいただけて、本当にうれしいです!

「いいね!」、「ブックマーク」、評価の星を付けてくださった方々、本当にありがとうございます。

これからも、リアンナの奮闘を応援してやってください!

 朝の光が薄いカーテンをすり抜けるころ、私はいつもより少し早めに目を覚ました。というのも、今日は特別な日。裁配人の仕事ぶり――つまり“この世界の司法っぽい仕組み”――を見学する約束を取り付けていたからだ。昨晩からワクワクしていたせいか、寝起きの頭の重さもほとんどない。むしろ胸の高揚感がふわふわと身体を包んでいる。


 「おはよう、リア。今日はえらく早いわね?」


 同室で寝起きする侍女のエミーが、まだ寝ぼけ眼をこすりながら声をかけてきた。私が毒を盛られた暗殺未遂事件以来、こうして二人――エミーとローザ――は私の部屋で一緒に暮らしているわけだが、最近はもうそこまで緊迫した警戒感はない。とはいえ、「もしものとき即応できるように」ということで暗黙のルールになっている。子どもとはいえ、私は一応伯爵家の当主だから、安全面を強化するのは仕方ない。だが、そのぶん“朝の着替えなどで気まずい瞬間”が多いのも正直言って辛いところだ。


 実際この朝も、私が布団から抜け出そうとすると、軽く寝返りを打ったローザが「あ、もう起きるんだね……?」なんてむにゃむにゃ言いながら起き上がってくる。私は「うん、今日、例の見学の日だから。早めに支度したいし」と声を弾ませた。裁判所――とまではいかなくても、“裁配人”という役人たちのいる“裁配人室”を訪れるのだ。前世の弁護士の記憶を持つ私としては、こういう“司法手続き”がこの世界でどうなっているか、ずっと気になっていた。


 「なら早速、着替えしよ。朝ご飯の前に用意したいんだよね?」

 エミーが小さく伸びをしながら近づいてきて、私が「う、うん……」と答える。このときが、微妙に落ち着かない。女の子の身体である私は、ドレスやワンピースが基本だが、今日は“変装”――いや、男っぽい服で外出することが前提だ。暗殺の脅威を警戒しながらの外出では、そのほうが都合がいいし、何より男装(?)は動きやすく、安全上も重宝されている。とはいえ、寝巻きから着替えるのを他人に見られるのは、前世が男だった私にとっていまだ慣れない。彼女たちが侍女とはいえ、なるべく見られたくないのだ。


 「ね、ローザ、エミー……今日も、着替えはなるべく自分でやるから、あとで細かい部分だけ手伝ってもらえる?」

 私が苦笑いを浮かべてそう言うと、ローザは「はいはい、わかったわ」と笑顔を見せながらタンスの前へ。エミーは「じゃあその“男の子スタイル”の服、どこにしまってあったかな……」とクローゼットを探り始める。


 今回用いるのは、以前にマルグリットに仕立ててもらったズボンとジャケットのセット。数か月ぶりだから、もしかしたら成長期の私に合わなくなっているかもしれない。エミーがそれを見て「ほら、少し丈が短いかも? 見た目はまだ着られそうだけど、近いうちに直したほうがいいね。リア、最近また伸びてるし」と指摘してくる。ローザも「たしかに。裾がちょっとギリギリかも……。でも、今日はとりあえず大丈夫かしら? あとでマルグリットさんに頼んで直してもらおうね」と笑う。


 (そうか……こないだもドレスの丈が短く感じたし、やっぱり私、また背が伸びてるんだ……、早く大人になりたいな……)


 そんな心の声を飲み込みつつ、私は寝巻きを脱ぎかけて「じゃ、ちょっと……自分で頑張るから……」と二人に距離をとるようお願いする。彼女たちは「はいはい、じゃあ細かいところだけあとで見るわね」と小さく笑ってくれた。助かる。


 なんとか自力で脱ぎ着して、ズボンを腰まで通す。この感覚が、妙にしっくりくるのだから不思議だ。前世で男だった意識が、女の子のドレスよりもこういう服を好むのは仕方ないのかもしれない。ジャケットを羽織ると、そっと鏡に映った自分はやはり“中性的な美少年”にしか見えない。エミーとローザが後ろから「おお、やっぱりかっこいいわね!」「でもちょっと女の子らしさも残ってる? そこがまた可愛いんだけど!」と盛り上がる。私は「もう、その“可愛い”は余計だよ……」と視線をそらした。男の子風に見られたい気持ちがあるのに、“可愛い”と言われるのはなんだか複雑。ほんのわずかに安堵する部分もあるけど、単純に手放しで喜べない。


 「でも、その服、本当に似合ってる。しかも前よりも体がしっかりしてきたんじゃない? 最近、食べ過ぎ……?」

 ローザが茶化してくるので、私は「あ、あんまり言わないで。ちょっと太ったかなって自分でも思うんだから……」と苦笑いする。たしかに、甘味めぐりでスイーツを食べまくったし、夜食も増えたせいか、わずかに丸くなってきた気はする。まだ子どもだからそこまで顕著ではないが、本人としては気になる。女の子の体つきがふんわりしてくるのとは違う意味で複雑だ。前世の男意識があるせいか、太るのも微妙に嫌。でも今は体力が必要とされるし……なんとも言えない気分だ。


 「まあ、気にしないで。10歳だし、成長期だから仕方ないよ。さ、行こ? まずは朝食だわ」

 エミーがあっさり言ってくれて、私も「そうだね」と肩をすくめる。どのみち、今日は裁配人のところへ行くのだから、多少体型を気にしても仕方ない。動きやすい服、それとも男の子の服を着ているだけでテンションがあがるし、細かい不安は忘れてしまおう。


 朝食はいつものパンとスープだが、男装姿の私がダイニングに入ると、一瞬だけ使用人が「……」と無言になることがある。彼らはもう驚き慣れているとはいえ、やっぱり伯爵家の女当主が「少年風」の格好をしていると、二度見してしまうのかもしれない。私は苦笑しつつ、テーブルで軽く食事を取り、すぐに出発の準備に移る。


 そして館の裏口から出発。いつものパターンだが、表玄関を使うと目立つし、暗殺の脅威も完全には拭えないため、裏口こそが安全策なのだ。護衛が何人か同行するが、距離を取ってさりげなくカバーしてくれる形だ。エミーとローザも、私と一緒に歩く感じ。私は心をわくわくさせながら、「いよいよ裁配人室だね」とつぶやく。


 州都――マルディネールの首都――というだけあって、領主館の周辺には公共の建物が多い。その中心に“合同庁舎”という大きな石造りの建物があり、そこにさまざまな役所が入っているらしい。税務を扱う部署や、警備隊を指揮する部署、商業関係の許可を発行する部署などなど……そして、今回見学する“裁配人室”も、同じ建物の一角にあると聞いている。


 「なんだか、前世の日本で言う“合同庁舎”みたいな印象だな……」と心の中でつぶやきながら、私は石畳の道を歩く。周囲を見回すと、朝の町は静かで空気が冷たい。店や露店の準備をしている人がちらほらいるものの、まだ大きな喧噪はない。護衛たちが距離を取りつつ警戒してくれているので、私も安心して街の景色を楽しめる。男装のおかげで“伯爵家のお嬢様”とは思われないのも楽だ。


 しばらく歩くと、見えてきたのは灰色の大きな建物。通り沿いに正面玄関があり、そこには威厳のある看板が掲げられている。「マルディネール合同庁舎」と刻まれていて、玄関には数人の衛士が立っているようだ。この世界でも公共施設にはそれなりの警備があるのだろう。


 近づくにつれ、私は自然と足取りを慎重にする。万が一、暗殺者が紛れ込んでいたら嫌だが、エミーとローザが「だいじょうぶ、護衛もいるし堂々としてていいよ」と励ましてくれる。表面上は“貴族の子弟が研修で来ました”という設定だから、身元を多少は確認されるだろう。書簡で事前に連絡を入れてあり、今日の訪問は一応“公式”として通してもらっている。私がエミーやローザと一緒に歩み寄ると、衛士たちは軽く目を細めながら「今日はどういったご用件で?」と声をかけてきた。


 「研修中の貴族の息子が、裁配人室を見学したいと連絡しました……」

 ローザがさりげなく書簡を差し出す。衛士がそれに目を通し、「あ、はい、こちらの連絡はいただいております。ではお通りください」と穏やかに頭を下げてくれた。意外とあっさりしている。内部に更なる受付があるらしいので、そのまま建物の中へ足を踏み入れると、冷たい空気が漂う広いエントランスが目に入った。石柱が並び、床はしっかりと磨き上げられていて、そこかしこに掲示板や案内標識が立っている。


 「うわー、思ったよりちゃんとしてるんだな……」と感想を漏らす。前世なら役所っぽい場所には書類であふれた事務机が並んでいるイメージがあるが、この世界の庁舎も似たような雰囲気を出しているかもしれない。けれど、魔法の力なのか空気が澄んでおり、幾何学模様の装飾が天井を彩っていて、独特の荘厳さがある。


 案内板にはいろいろな部署名が記載されている。「税徴室」「兵務室」「商公室」「裁配人室」などなど、確かに合同庁舎というだけあって多くの役所が詰まっているようだ。ローザが「裁配人室は、二階の東側ね。受付で聞いてみよう」と言ってくれたので、エミーとともに私を誘導してくれた。


 受付にはやや年配の男性がいて、「ああ、君たちが例の研修の子だね? 裁配人室ならあちらの階段を上がってすぐ左にあるよ」と、親切に教えてくれた。私は短くお礼を言って、背筋を少し伸ばして階段を昇る。男の子姿のままの私は、心の中で“こういうときこそ姿勢が崩れないようにしないと”と気を遣う。マナー講座の影響が早くも出ているのかもしれない。


 階段を昇りきった先、左手にまっすぐ進むと、木の扉に「裁配人室」と大きく書かれたプレートが貼ってあるのが見えた。私は心拍数が少し上がるのを感じながら、エミーとローザを振り返って「よし、ここだね」と小声で確認。侍女二人がうなずき、護衛たちも周囲を遠巻きに見回してくれているので安全だろう。私は扉を控えめにノックした。


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