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ドレスとは違う装いで、スイーツ尽くしの街を笑顔で疾走!

 石畳が大きく広がる広場へと続く道を、私は弾むような足取りで歩いていた。ここはマルディネールの州都の中心部。つい先ほどまで少し雲がかかっていた空が、いつの間にか陽ざしをきらきらと落としはじめ、広場の赤茶けた石畳を優しく照らしている。そこに並ぶのは、いかにも美味しそうな甘い香りを漂わせる屋台や出店の数々――そう、きょうは“甘味めぐり”のお祭りが開かれているのだ。私と侍女のエミー、ローザがやって来た理由は言うまでもない。“少年”に扮した私は、思いきりこの甘味フェスを満喫するつもりだった。


 前世でいう日本の縁日や、海外で行われる洋菓子フェアを思い出すかのような、カラフルで賑やかな雰囲気。魔法が発達しているこの世界では、冷却技術を使って新鮮な食材を保つのはもちろん、温度管理が難しいチョコレート製品もお手のもの。そんな世界だからこそ、どこを見渡しても想像以上にバラエティ豊かな甘い香りに包まれる。私ことリアンナ・クラリオン――外から見れば短髪の少年“リオン”として振る舞っている――は、すでに目をキラキラさせていて、心の中は「早くあれもこれも食べてみたい!」でいっぱいだ。


 「ほら、あれ見て!」

 私が指さした先には、氷のように透き通った大きなブロックを魔法で維持している屋台があった。どうやらそこでは、フルーツシロップをかき氷状に仕立てた冷たいお菓子が売られているらしい。赤や黄色、紫など色とりどりのシロップが並び、魔法の効果でブロックの温度を低いまま保っている。「アイス屋台」というわけだが、見た目が涼しげで、暑い日の体を癒やしてくれそう。


 私が目を輝かせて屋台を覗こうとすると、ローザがクスリと笑った。

 「ね、リア……じゃなくて、“リオン”? さっそく冷たいもの食べるつもり?」

 「うん、これ美味しそうだし……氷を砕いてフルーツシロップをかけるなんて、前世のかき氷みたい……」


 ここで“前世”という単語を思わず口にしかけて慌てて止める。もちろんエミーとローザは私が“転生してきた”とか、“前世で男だった”とか“この世界と違う法律を学んでいた”なんてことを知るはずがない。ただ、そういう話はもう脳裏で普通に浮かんでしまう。私が焦って視線をそらすと、エミーが不思議そうに「ん? 何か言った?」と首をかしげる。私は「い、いえいえなんでも!」とごまかし、屋台へ駆け寄った。


 屋台では小柄なおばさんが「はい、いらっしゃい、冷たい氷はいかがー」と呼びかけている。前世の日本のかき氷みたいなものか。いかにも慣れた手つきで、白く削った氷を器に盛り、色とりどりのシロップをかけて渡してくれるのだが、魔法のせいか普通の氷よりシャリシャリ感が強く、しかも溶けにくいらしい。そのせいで、長時間かけてゆっくり楽しめるという。私は早くも「食べたい!」と両目を輝かせる。


 「お、兄ちゃん、どれにする? 甘い苺シロップもあるし、柑橘系のさっぱり系もあるよ? どれでも一杯二百コインだよ!」

 屋台の人が私を“兄ちゃん”と呼んだのは、もちろん私が男の子に見えるからだ。心の中に変なこそばゆさとうれしさを感じつつも、「あ、じゃあ……苺系のやつでお願いします!」と自然に応じる。女の子の姿のままだったら「お嬢様……」と堅苦しくされがちだけれど、少年スタイルだとこんなふうに気さくに声をかけられるのが新鮮だった。

 うん、やっぱりいい!


 注文してから待つこと数秒。ふんわりと削られた氷に、濃厚な赤いシロップがとろりとかかったかき氷が私の手に渡る。スプーンでひとすくい口に入れると、シャクっとした氷が舌の上で溶け、苺の甘酸っぱさがひろがる。

 「わ……美味しい! 冷たくて甘くて最高……」

 私が溜息混じりに感嘆を漏らすと、エミーとローザも「じゃあ私たちも食べようかしら」と続々と注文していく。最初から飛ばしすぎかもと思いながら、でも祭りなんだから気にしなくてもいいだろう、と私は先を急いだ。


 広場のほうへさらに進むと、今度は異世界らしい果物を練り込んだ菓子を売るお店が見えてきた。金色に輝く皮を持つ“ルクナ”とかいう果物を練り込んだ団子のような菓子が、木の串に刺されてずらりと並んでいる。ハチミツベースの甘いタレが光っていて、匂いだけで楽しめそうだ。ほかにも赤い実をすりつぶしてペースト状にしたものに、砂糖や香辛料を混ぜて固めた“練り菓子”も種類豊富に置かれている。


 店先に大きな試食用トレイがあるのを発見すると、私の胸はドキドキ。日本のスーパーで試食をもらって回る時の感覚に似ている。男装している私は、周囲からどう見ても年相応の少年にしか見えず、店の人にも「はい、お兄ちゃん、試してみてね」と気軽に声をかけてもらった。


 「ほら、これをこうやって口に入れると、最初は甘み、そのあとにほんの少しピリッと辛味がくるんだよー。魔法で香辛料を調整してるからね!」

 店員さんの説明に半信半疑で口に入れると、おお……本当に最初は優しい甘味なのに、あとからジワッと舌先にスパイシーな刺激がくる。「変わってる……でも美味しい!」とつい声が漏れてしまう。エミーとローザも同じものを試し、「うわ、ほんとに面白い味!」と盛り上がっている。前世の縁日では見かけなかった、一風変わった菓子に心を奪われ、早くも両手がいっぱいになりそうだった。


 「ねえねえ、そっちのチョコレートは?」

 私が見つけたのは、さらにその先にある“魔法で温度管理した”というチョコレート製品の専門屋台だ。チョコ細工やコーティングされた果物、さらにはキラキラと虹色に光る“宝石チョコ”も並んでいる。この世界だと温度が高い日も多いし、魔法を使わないとチョコがすぐ溶けてしまうらしい。しかし魔法のおかげでチョコを理想の温度に保ち、様々な風味や形に加工できるそうで、私が前世でイメージしていたよりもはるかに凝ったチョコが見られる。

 (いや、本当に都合良すぎないか。こんなに豊かなのに、これで、紛争の火種とか、社会不安さえなければ最高なのに)


 「ちょっと……これ、綺麗すぎて食べられない……」

 エミーが苦笑するほど美しく飾られたチョコの細工物がショーケースに並んでいる。花や動物を形どった立体チョコは、軽く光を反射して、陶器のオブジェのようにも見える。中にはグラデーションがかったチョコレートを使って、夜空や海をイメージした作品まで……。「芸術品じゃないのこれ?」と私が感嘆するのも無理はない。売り子さんによれば「食べてももちろん美味しいですよー」と笑顔で勧めてくるが、値段が結構張るらしい。


 私は思わず端の安めのチョコをひとくち買いしてみる。濃厚なカカオの風味と甘さ、そして口どけを魔法で改良しているとか。実際に食べてみると、言葉にならないほどまろやかで香り高い。前世で見かけた高級チョコにも似ているが、それ以上に魔法独特の“とろける感”があり、思わず目を閉じてしまうほどだ。


 (すごい……これが異世界のチョコ……! 魔法でここまでチョコを洗練させるなんて、すごいなあ。前世の高級品にも劣らない……むしろ勝ってる?)


 そんなふうに陶酔していると、周囲の人々の声が耳に入ってきた。どうやら私が“少年”に見えるおかげで、「そっちの坊ちゃん、いいチョイスだねぇ」とか、「お兄さん、どれが美味しかった?」などと気さくに声をかけられるのだ。私はいつも“お嬢様”扱いで距離を置かれがちだから、このフランクな接し方に嬉しさを感じる。正直、女の子の姿だとどうしても周りが遠慮するか、過剰に丁寧になるせいで、こういう友好的な混ざり方はしにくい。


 そんなとき、近くにいた少年グループが私に声をかけてきた。「おーい、一人で来てんの? 俺たちと一緒に回らね?」という感じの軽い口調だった。少し年上に見える少年が声をかけてきて、あとのメンバー(たぶん全部で三、四人)は「お、いいじゃん、仲間増えるの嬉しいし」みたいに楽しそう。私が戸惑うと、少年たちは「ほら、俺たちも甘い物好きだから、変に思わないでくれよ。甘い物好きとか、男らしくないとか言うやつもいるけど、気にしないし!」と笑う。


 私としてはドキリとする。“女の子としては”“甘い物好き”なんて普通かもしれないが、彼らから見れば「少年で甘いものに目がないヤツ」ってイメージなのだろう。微妙に嬉しいような複雑な気持ちになるが、こういう気さくさは女の子姿じゃあまり経験できない。自然と笑みがこぼれ、「うん、よろしく……」と頷いてしまった。


 するとエミーとローザが横から「リア? どうするの?」と少し焦った声で聞いてきたが、少年たちは「え、この子の姉ちゃんたち? 一緒に回ればいいじゃん」と気軽に言うものだから、流れで「じゃ、よろしくお願いします……」という感じに落ち着いてしまった。護衛たちは周囲を警戒してくれてるから、たぶん大丈夫だろう。何か怪しい人に囲まれたら、すぐ知らせてくれるはず。そんな安心感もあって、私は少年グループの輪に入り、にぎやかに祭りを回ることになった。


 それからの時間は、まるで“縁日を仲間と楽しむ前世の小中学生”のような感覚がよみがえり、私はテンションが上がりっぱなしだった。少年たちが屋台を次々と見つけ、「お、ここのフルーツタルト超うまそう!」「そっちは魔法でふわふわになったカステラって……なんだそれ、すげー!」と目を輝かせるたび、私も「ほんとだ、すごい……!」と興奮を共有する。年齢も近い彼らだからこそ気兼ねなく盛り上がれるのが心地いい。女の子姿だったら、どうしても壁があっただろうし、当主としての立場も考えなきゃならない。


 私たちはまず“色とりどりのフルーツタルト”を売っている屋台へ立ち寄った。上には紫色やオレンジ色、半透明の青い果物などがぎっしり並んでいて、まるで宝石箱のように見える。魔法で果汁をゼリー化してあるらしく、噛むとプルッと弾けて甘い果汁が広がるのだとか。少年の一人が「おい……これ、男子っぽくないけど、うまそーだな……俺、食べたい……」と呟くと、他の子が「俺も! 一緒に食べれば恥ずかしくない!」と笑っている。それがまた面白くて、私までくすりと笑ってしまう。前世の日本でも、男だけでスイーツ巡りをすると「女子っぽい」と言われがちだったのを思い出す。なんだか懐かしい。


 タルトを買って口に運んだら、想像以上の味で驚嘆した。カスタードのようなクリームが魔法でふわとろに仕上がっているのか、舌ざわりが軽やかで、そこに異世界フルーツの甘みと酸味が絡んでくる。前世で食べた高級なフルーツタルトにも劣らない美味しさに、私も少年たちも「うま……!」「これはすげぇや……」と感動。エミーとローザも「こんなに美味しいタルト、食べたことない……」としみじみ言っていた。


 さらに、魔法でふんわり仕上げたカステラ風ケーキがある屋台にも足を運ぶ。そこでは大きな四角いケーキを切り分けて売っていて、外はすこししっかりした焼き色がついているが、中は驚くほど空気を含んだような弾力をもっている。店の人に聞くと、食材を混ぜる段階で魔法を使い、空気をベストな形で封じ込めるらしい。結果、ふわっと軽くて、口の中で泡のように消えていく独特の食感に仕上がるのだとか。甘みも控えめなので、いくらでも食べられそうだ。


 「前世で言う“台湾カステラ”に近いな……おいしい……!」などと心でつぶやきつつ、私はいくつも買い食いしてしまう。少年たちも「すげーふわふわ!」と盛り上がっていて、「お前、ほんと甘い物好きなんだな!」と私のほうを指差して笑う。男同士のノリが心地よい半面、私は(えへへ、女だけどね……)と複雑な胸の内だ。前世が男ゆえに不自然さはあまり感じないが、現実は女の子という意識が時折ギュッと胸を掴む。でも、まぁ、こうして仲良く祭りを回れるなら、それも悪くないと思うのだ。


 アルコールで香り付けした大人向けシュークリームも見逃せない。クリームの中にほんのり苦味のあるリキュールが入っているらしく、舌の奥でかすかな刺激を感じる。さすがに子どもはあまり買わないらしいが、“少年”の私は好奇心に負けて購入。“一応10歳だけど?”という心の声を振り切り、「兄ちゃん、ほんとに大丈夫?」と店主に疑われながらも、「大丈夫です!」と押し通してしまった。口に入れると一瞬むせそうになるが、ふわっとした生地の甘さとリキュールの香ばしさが絶妙で、こんな大人な味、前世でもそうそう食べなかった。周囲からは「お前、やるねえ!」とツッコミが飛んでくるが、それすらも楽しい。


 少年たちのうち一人が、「お前、ほんと甘いもの好きなんだな! 正直、男っぽくないって言われてへこんでたけど、こうやって好きな奴がいて嬉しいよ」と笑ってきた。私は心の中で“ごめん、実は女の子だし、男っぽいも何も……”と思いつつも、「そ、そうだよ。男の子でも甘いもの好きでいいじゃん!」と返して笑う。気さくに打ち解けられるのは、男装しているからこそ。もし私が「伯爵家のリアンナ」として来ていたら、こんな会話はできなかっただろうなと思うと、なんとも言えない胸の高まりを覚える。


 エミーとローザは少し離れた位置で微笑みをたたえながら私の様子を見守っている。おそらく護衛的な人たちもこっそり付いているのだろう。暗殺の恐れを考えれば、あまり無防備に動き回るのは危険だが、祭りの警戒や私の変装もあって、今のところは問題なさそうだ。


 「あれ、兄ちゃん名前は?」

 少年グループの一人が問いかける。「あ、リオンっていいます……」と即座に口をついて出る。こうやって自然に受け答えできるようになった自分に驚く。“リアンナ・クラリオン”という正体を隠して出歩くなんて、最初はすごく後ろめたかったのに、今では“リオン”と名乗るのがちょっと板についている感じだ。これも男装生活の慣れかもしれない。でも、その分、“本当の私は女の子なのに”という違和感が増す瞬間もないではない。


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