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男の子の仮面でドキドキ甘味巡回!?――転生少女は今日も変装中!

 朝の光がカーテンをこぼれるように突き破って、あたりをほんのりと照らし始めたころ。私はふと目を開け、その光にゆっくり視線を合わせる。まだ眠気は残っているのに、どうしてだろう、胸がドキドキして止まらない。それもそのはず――今日は待ちに待った“大イベント”の日なのだ。


 「おはよう、リア。ずいぶん早起きね?」


 隣で微睡んでいた侍女のエミーが、顔をあげて微笑む。茶色の髪をやわらかくまとめていて、彼女特有の穏やかな声が耳に心地いい。その向こうには、もう一人の侍女ローザが簡素なベッドの上で丸くなっている姿が見える。二人とも私と同じ部屋で寝起きしており、暗殺事件の警戒が始まってからというもの、ずっとこんな生活が当たり前になった。この部屋は伯爵家当主である私の寝室だけれど、そこに侍女たちの簡素な寝台が二台並んでいるのだ。


 「うん……なんか目が勝手に覚めちゃった。だって今日は“甘味めぐり”でしょ? どうしてもワクワクして……」


 私が布団を抜け出そうとすると、エミーは小さく笑みをこぼして「はいはい、わかるわ。そんなに楽しみなのね。じゃあ、早速支度しちゃいましょうか?」と声をかける。まだ寝ぼけ眼のローザも「んん……甘味、かあ……。美味しいのかな。わたしも寝てる場合じゃないね……」と、むにゃむにゃ言いながら毛布を払いのける。


 今日は特別なお祭り――“甘味めぐり”。マルディネールでは、魔法技術の発展に伴い、物流や商業がますます活発になっている。結果として、定期的にいろんなテーマの祭りが開かれるようになったそうだ。以前はもっと小規模だったらしいけれど、今や少し大きな町なら何かしらの祭りがスケジュールされているらしい。そして、今日は私たちの住む“州都”――領主館のある町――で、菓子作りの職人たちや果物農家などが集まる盛大な祭典が行われるのだ。


 私が胸を弾ませる理由は言うまでもない。前世から甘いものは嫌いではなかったし、この世界へ転生してからもその嗜好は変わらない。むしろ、お酒が飲めない分、甘い物がもっと好きになった(刑務所でも、そういうことがあると聞いたことがある。)。何かと苦労の多い“伯爵家の少女”生活において、甘味は癒やしの一つでもあった。しかも今回はフェスティバルのように、いろんな出店が並び、珍しい果物や、前世からは想像できない魔法技術で加工されたお菓子が堪能できるらしい。想像だけで涎が出そうだ。


 「いよいよ今日か……」


 私は寝巻きのまま背伸びをしつつ、部屋の隅に置いてある大きな姿見をちらっと眺める。そこには小柄な少女――つまり、今の私“リアンナ・クラリオン”の姿が映っている。幼いころに毒を盛られた後遺症か、身体はまだ細いが、最近は体力も回復してきた。だけど、こうして女の子の格好をしていると、どこかむずがゆいというか、ちょっと精神的にソワソワしてしまう。前世が男だった記憶があるせいか、女の子の衣装は今でもしっくりこない部分があるのだ。


 とはいえ、今日は“女の子の衣装”で出かけるわけではない。暗殺を警戒されている私が外に出るために、“少年スタイル”を纏うことになる。もともと動きやすい服を着たい、フリフリドレスとか、フリルいっぱいは嫌だ、というところから始まったが、「男の子みたいな格好をすれば、リアンナだとわからないので、外出しても安全なのでは?」ということで、これを大義名分にして、少年のような服を着ることになったのだ。


 「さー、リア、まずは顔を洗いましょうか。ほらほら、そんなぼんやりしてると、あっという間にお昼になっちゃうわよ?」


 エミーがテキパキと部屋の支度を始める。ローザも起き上がって「うん、甘味めぐりなんだもん、早く行きたいよねー。準備完了したら朝ご飯すませて、男の子スタイルに着替えなきゃ」と笑う。二人とも、私の外出に協力的だ。最初は危険だとか、貴族令嬢がそんな男みたいな格好をするのはとんでもない、と、大反対されたこともあったけど、今では“私のやる気を尊重しつつ護衛や暗殺対策をしっかり行う”のが当たり前のようになっている。


 「あ、そうだ、男の子服……この前のやつでいいのかな? ちょっと丈詰めたのがあるけど……」


 ローザがクローゼットを開け、ずらりと並んだドレスやワンピースの中から“例のズボンスタイル”を取り出す。一時期、マルグリットに特注して作ったお気に入りだ。ホコリが被らないように保管してあったから、まだ綺麗な状態。ジャケットは地味めの色だけど質のいい生地で、上品さもそこそこある。


 「うん、それがいいかな。あんまり豪華すぎると逆に浮いちゃうし……短めのズボンと、薄い上着で……」

 私はワクワクを隠しきれず、ドキドキしながら布を触る。男の子用のズボンに手を通す瞬間は、女の子としての自分を少しだけ裏切るような気持ちもあるが、前世男だった意識には“こっちのほうが自然かも”と思う部分もあって複雑だ。


 「じゃあ……うわー、すでに楽しみ……早く会場に行きたい……」


 朝食を急いで済ませながら、私は何度も「甘味めぐり」について思いを巡らせる。どうやら中央広場にたくさんの露店が集まり、果物を使った菓子や、魔法技術で作られたユニークなお菓子などが並ぶらしい。前世の縁日や屋台を思い出させる光景だろう。私はそういう“祭りの雰囲気”が大好きだし、この世界の人々にとっても、大きな娯楽のひとつなのだろう。


 「リア、朝からすっごい食べるね? だいじょうぶ? お祭りでもたくさん食べるんでしょ?」

 エミーがクスクス笑う。パンやスープを急いで口に運んでいる私が可笑しいらしい。確かに、少し落ち着いたほうがいいかもしれない。でも、足がうずうずするほど期待に胸が高鳴っているのは仕方ない。前世でも食フェスや縁日は大好物だったから、ここでも同じように満喫したいのだ。


 朝食後、いよいよ支度の時間。部屋に戻ると、ローザが「まず、体をさっぱりさせましょうか?」なんて言い出し、簡単にタオルで体を拭いてくれる。私は「ちょ、そんなの自分でできるから」と照れながらも、結局は二人にお任せ状態。いつもなら少し抵抗するが、今日は時間を無駄にしたくないし、エミーたちも慣れっこで手際がいい。


 そして、いよいよ男の子スタイルのズボンを履き、シャツとジャケットを重ねる。髪を後ろでまとめ、帽子をかぶれば、そこには立派な少年が誕生する――前回の外出でもそうだったが、今日もばっちり決まったようだ。


 「わー、リア、ほんと美少年! 女の子がほっとかないんじゃないの?」

 ローザがからかってくる。エミーも「ねえ、本当に可愛いのに、男の子みたいにキリッと見える。不思議だわ」と感心気味。私は「もう、やめてよ……でも、ありがと……」と頬を染めつつ鏡を覗く。そこには、10歳の男の子にしか見えない姿が映っているけど、中身は女の子……いや、前世が男だからややこしい。ともあれ、違和感と同時に妙な心地よさを覚えてしまう。いや、いまさら女の子にモテても、

仕方がないのだけど。


 「よし、これなら大丈夫! あとは裏門から出て、ゆっくり歩いていきましょう。護衛の人も一定の距離を取ってついてくれるからね」

 エミーが背伸びをして言う。私は「うん!」と元気よく返事をして、荷物を最小限持ち、いざ出発。ボリスさんが心配そうに見送ってくれるが、私としては警戒しつつも、今日だけはめいっぱい楽しみたい気持ちが勝っていた。


 裏門を抜けると、まだ朝の空気が冷んやりしている。日射しは柔らかく、適度な風が頬を撫でて心地いい。男の子スタイルだと裾を気にしなくていいし、足が軽いこと軽いこと。こういう身軽さは女の子のドレスでは味わえない。


 「わあ、もう少し行くと町の中心に出るわね。甘味めぐりの旗が見えるよ」

 ローザが指さす先に、カラフルな旗が何本もはためいているのが見える。そこが祭りの会場になっている中央広場らしく、いまはまだ人出がそこまで多くないように見えるが、時間が進めばきっと混雑してくるだろう。


 「楽しみすぎる……。果物とかお菓子とか、変わったものいっぱいあるのかな……」

 私がつぶやくと、エミーは「魔法で新種の果物を育てたり、特別な調味料を使ったりしてるって噂よ。きっとリアなら全部試したくなるんじゃない?」と笑う。前世でいう“スイーツフェス”にも似た興奮がこみ上げ、私は思わずスキップしそうになった。


 道なりに進むにつれ、音楽や人々のざわめきが聞こえてきた。まだ遠目だが、たくさんの屋台のようなものが見え、カラフルな看板や旗が並んでいて、お祭りムード満点。私は思わず「やばい、楽しみ……!」と声をあげる。少し緊張もあるけど、今はそれより期待が大きい。暗殺だって、男装しているならきっと大丈夫……そう自分に言い聞かせる。


 「ほら、あそこ……!」


 視界が開けた先に、町の中心部へ続く石畳の通りがある。すでに幾つかの露店が軒を連ねており、果物や甘い香りを漂わせた焼き菓子などが見え隠れする。エミーとローザは「あら、いい匂い。あっちに行けばもっと屋台があるわね」とキョロキョロし始め、私も心拍数が上がっていく。


 「ああ……あれが中央広場……。露店がたくさん……!」


 まさに縁日みたいな光景が広がっている。魔法技術の発展で物流が盛んになり、各地からいろんな食材や加工品が集まっているんだとか。ここの人々はそれをお祭り形式で楽しむのが定着してきたらしい。私は胸を高鳴らせつつ、エミーとローザを振り返る。護衛の姿は数十メートル後方にちらりと見えるが、目立たないように間隔を空けてついてきてくれるらしい。


 「よし、ここから先は思い切り楽しむんだよね……? でも、あまりはしゃぎすぎず、暗殺に気をつけないと……」

 私が自分に言い聞かせるように声を出すと、エミーは「わかってるわよ。警戒は怠らずに……でも、せっかくだから楽しもう?」とウインクする。ローザも「大丈夫よ。あなたの変装、ばっちり男の子に見えるもの。誰も“伯爵家の女の子”だなんて思わないわ」と肩をすくめて言う。


 私は深呼吸してから、小さく拳を握りしめる。男の子スタイルの服は動きやすく、ヒラヒラドレスと違って走っても転びにくい。この身体で“少年”を装うのは多少の違和感もあるけど、前世の自分に近い姿でもあるし、気分は悪くない。


 「じゃあ……行こっか! お菓子の匂いがもうたまらない……!」


 そして私たちは一歩踏み出す。中央広場がもう目と鼻の先で、無数の露店がズラリと並び、人々の笑顔があふれているのが見える。魔法を使ったパフォーマンスや装飾もあり、祭りの高揚感が空気に溢れていて、私のテンションは最高潮に達しようとしていた。


 「甘味めぐり、はじまる……!」


 心のなかで声を上げる。前世では都市の“スイーツフェス”みたいなものに行ったことはあるが、ここは異世界で魔法も絡む。どんな珍しい菓子や果物が待ち受けているのかと思うと、足が自然と速まる。エミーとローザが「ちょっと、落ち着いてよ?」と笑うが、顔は私と同じようにウキウキしている。


 この広場に並ぶ甘い香りと鮮やかな屋台の色彩が、私を遠い前世の記憶へと少し連れ戻してくれるような気がする。


 私の視線の先には、焼き菓子や果物飴の看板がちらちら見えている。華やかな魔法のエフェクトを用いたデコレーションが通りにきらめき、お祭りの活気がこちらにまで伝わってくる。胸がドキドキして止まらない――甘味の世界に突入する、この瞬間。


 もうすぐ中央広場だ。私はゴクリと唾を飲み込み、エミーとローザの腕を軽く引く。彼女たちもにやりと笑い、「さあ、リア……じゃなくて、リオン? 今日は思い切り楽しもうよ!」と悪戯っぽく言う。私は「うん!」と元気に答えながら、祭りの喧噪のなかへと一歩を踏み出した。


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