ついに10歳!フリルとコルセットがつらくても、グルメは背信しません!
朝の光がカーテンの向こうから差し込み、部屋の中を淡く照らしている。いつもなら、もう少し寝ていたい時間だけれど、今日はそうはいかない。なにしろ“10歳”になった特別な朝だ。私――リアンナ・クラリオンは、ベッドの中で目を開けると同時に、「今日から2ケタか……」と思わず心でつぶやいた。
(10歳って……この世界では“一区切り”の歳らしいんだよね。前世でも、小学校4年生くらい? そろそろ“子ども”として通用しなくなる部分もあるのかな。)
軽く伸びをしてから身体を起こす。もう9歳とは違って、さらに一歩“大人”に近づいたはずなのに、まだまだ周りからは子ども扱いされる予感がある。そりゃ、毒混入事件のトラウマや暗殺の恐れがあるから周囲も過保護にならざるを得ないけれど……それでも、気持ちの上ではもっと動きたくて仕方がない。実際の身体は10歳の女の子――とはいえ、前世で男性だったころの記憶はまだ鮮明に残っているから、やはりどこか“ギャップ”を抱えたままだ。
ドアをノックする音が聞こえ、エミーとローザの声が重なった。「リア、おはよう! 今日は大事な日なんだから、早く起きてねー」。私は「はーい」と返事しながらベッドを出て、軽く寝巻きを整える。扉が開き、二人がにこやかに入ってきた。
「10歳のお誕生日、おめでとう!」
「リア、もう2ケタだね! 今日はお祝いをするから、しっかり朝ご飯食べてから日課をこなしましょう。」
そう言いながら、エミーがいつも以上に柔らかな笑顔を向ける。ローザは「ほら、朝食終わったら勉強もあるし、でも今日は夕方に“パーティ”が待ってるよ。張り切っていこー!」とテンション高めだ。
(そっか、パーティーもあるのか……。ご馳走食べられるのは嬉しいけど……)
私は胸の奥で小さくため息をつく。正直、周囲に祝われるのはありがたいが、“女の子の誕生日パーティー”はどうにも落ち着かないところがある。今の身体が女の子である以上、仕方ないのは分かるけど、ドレスを着せられて「可愛い!」とチヤホヤされる光景が目に浮かぶ。そこに微妙な違和感を感じる自分がいる。それでも黙って笑っていないといけないのだろうか――と、ほんの少し憂鬱になりそうだ。
しかし、エミーとローザは嬉しそう。せっかくの祝宴を台無しにするわけにはいかないし、私もそれなりに心を切り替えようと思う。何より美味しい料理を食べられるのは魅力的だ。暗殺の恐れや、当主としての務めを考えると、こういう機会は貴重かもしれないし……。
というわけで、さっそく朝食へ。ダイニングに行くと、テーブルには暖かいスープとパン、それから果物やハーブティーがいつもより多めに並んでいる。特別メニューというほどではないが、なんとなく贅沢感がある。エミーとローザが私の席を用意してくれて、ボリスさんやベアトリーチェも「おめでとうございます」と控えめに挨拶。まだ朝だから、ここで大騒ぎするわけではないが、ちょっとした温かい空気が流れる。
「ありがとう……えへへ。」
照れくさくて笑ってしまう。例え女の子扱いに戸惑う部分があっても、誰かに祝われるのは悪い気がしない。特にボリスは「お嬢様ももう10歳ですか。時の流れは早いものですね……しみじみ」としんみりしているし、ベアトリーチェは「大人としての学びも本格化しますね。楽しみですわ」と微笑む。私としては“ああ、がんばらなきゃ”と気が引き締まると同時に、“自由になりたい”気持ちも強まるのだが。
朝食を終えると、いつも通りの勉強が始まる。ベアトリーチェから領地の歴史や統治システムについて新たな教科書を渡され、「誕生日から区切りよく、新しい単元に入りますよ」と言われる。なるほど、10歳はこの世界で“子どもから少し成長した段階”として扱われるのかもしれない。さらに、社会制度の基礎についても、少し深掘りした内容を学ぶことになった。
「魔法と社会の関わり、社会制度、税の徴収システム……ふむ、難しそうだね。」
私は資料をめくりながらぼやくが、ベアトリーチェは「リアンナ様は、もうずいぶん難しいことも理解されていますし、これからは大人に近い目線で学んでもらいます。頑張ってくださいね」と微笑む。確かに、前世で法律をかじっていた身としては、ここでの“封建+魔法”的システムは興味深いし、学ぶ価値が大きいのは分かっている。ただ、本格化するってことは負担も増えそう……。
(やれやれ、せっかく誕生日なのに、やっぱり勉強からは逃げられないんだな……。)
でも、暗殺や今後の革命の可能性を考えれば、しっかり理解しておかないと危うい。そんな思いで午前中の学習に励み、ひたすら書き取って頭に詰め込み続ける。「魔法技術の独占と拡散」「既存産業への魔法への影響」「魔法とはなにか」「税制のはじまり」など、興味深いトピックが多いが、全部を覚えるのは大変だ。メモをたくさん取って、あとで自分なりに整理しようと決める。
昼食を挟んで、午後も多少の課題を片づけたり、短い時間で庭を回ったりしているうちに、あっという間に夕方が近づいてきた。エミーとローザが部屋へ来て、「リア、そろそろお祝いの準備よ!」と張り切った声をあげる。
「えっ……もうそんな時間? パーティーって、どんな感じになるの?」
私が尋ねると、ローザが「大広間で皆と一緒にごはんを食べる形よ。お誕生日パーティーね」と嬉しそうに言う。エミーも「お料理もいつもより豪華みたいで、楽しみだよ。あ、それから……着替えね、準備してるから!」とさっそくクローゼットを物色し始める。
(あ、そうだった……パーティーだからドレスを着せられるんだよね……。)
頭を抱えたくなる予感がする。案の定、エミーが大きな布袋からゴソゴソと何やら取り出す。レースがたっぷり、フリフリの袖、そして腰部分のコルセット……見るだけで息苦しくなりそうな道具が次々と並べられていく。加えて、パニエ(スカートのボリュームを出す下着)らしきふわふわの物体まで……。
「うわー、なんか凄いの出てきた……。本気モードじゃん……」
私が軽く後ずさると、エミーが「当たり前でしょ? もう10歳だし、伯爵家の女の子としてのお祝いなんだから、しっかりおしゃれしましょう!」と目を輝かせる。ローザも「ほら、せっかくの誕生日。苦労するかもしれないけど、楽しんじゃおう?」と悪魔の微笑み。正直、私は「めんどー……」と心でつぶやくが、逃げ場はない。
「そ、それじゃあ……よろしく……。」
覚悟を決めて言うと、二人は「うん、まかせて!」と張り切って私を連行する。まずは下着を着け替えて、コルセットを巻き、パニエを履く。10歳児だというのに、「形を整えるため」との名目でしっかりギュッと締められる。
「う、うう……これキツイよ……苦しいし、腰痛くなりそう……。」
「大丈夫よ、慣れよ慣れ。昔の人はもっと厳しいコルセットだったんだから!」
エミーの励まし(?)も空しく、私は息苦しさに顔をしかめる。スカート部分も何枚ものレースが重なっていて、裾をバサバサさせるたびに甘い香りまで漂うような気がして、どうにも落ち着かない。前世が男だった感覚を思うと、こういう“フリフリ”装いには大きな違和感を抱いてしまう。
しかし、ローザが「でも可愛いわよ、リア!」と目を輝かせて言う。「ほんっとに10歳になって、少しずつ女の子らしさが出てきたって感じ。」
(ああ……“女の子らしさ”か……やっぱりそういうことになるんだよね……。)
私は微妙に胸をざわつかせながら、唇を曲げてぎこちなく微笑む。エミーも仕上げに髪を丁寧にまとめ上げ、軽く髪飾りをつけてくれる。
「よーし、完成! 鏡見てごらん?」
言われるがままに鏡を見ると、そこには華やかなドレスに包まれた少女が映っている。白とパステルカラーのフリル、レースの重なりがまるで花束のように盛られ、腰には大きなリボン。確かに“可愛い”と言えるかもしれないが、個人的にはモヤッとする。私は前世の男としての日常を思い出し、どう振る舞えばいいか分からなくなるが、とりあえず笑顔をつくってみる。
「すごい……、もうお腹いっぱいって感じ……。」
思わず本音が口をつくが、エミーとローザはクスクス笑い合って「リアったら、もう~」とからかうように言う。苦笑いするしかない私。普段は“リオン”として男装で自由に動ける時もあるのに、やはり公のパーティーではこうなるのか……と思うと、仕方ないのかもしれないけど、少ししんどい。とはいえ、10歳の誕生日は特別なのだから、このぐらいは我慢しないといけないだろう。
そして迎えたパーティー。大広間に足を運ぶと、そこにはボリス、ベアトリーチェをはじめ、屋敷の使用人たちや護衛の人々、侍女たち、そしてほんの少しだけ領内の関係者が集まっている。いわゆる“盛大な晩餐会”ではないが、温かい雰囲気が広がる。テーブルには食事や飲み物が並び、気のいい音楽が控えめに流れているらしい。
「おお、リアンナ様、今日の装いはいつも以上に華やかですね……!」
「可愛い……! さすが10歳の誕生日!」
使用人たちからそんな声が挙がり、私は恥ずかしさで顔が赤くなる。「きれい」「かわいい」という言葉が飛び交うなか、エミーとローザが嬉しそうに頷いていて、私はさらに気恥ずかしさを覚える。でもみんなが心から祝福してくれているのは分かるし、表面上は「えへへ、ありがとう……」と控えめに返す。
やがてボリスが乾杯の音頭を取ろうとしたが、せっかくなら私に挨拶をさせたいようで、視線を送ってくる。ベアトリーチェもうなずきながら「リアンナ様、ひと言どうぞ」と微笑む。
「え……私が挨拶? いや、みんなの前で……。」
戸惑いつつも、仕方ない。私はお腹のあたりをギュッとコルセットで締められているせいか、うまく息が吸えない状態で、どうにか前へ進む。周囲が静まって私に注目している。よし、ここは女の子らしく(?)簡単にまとめよう……と思いながら口を開く。
「えっと……今日は、私の10歳の誕生日をこんなに温かく祝ってくれて、ありがとうございます。みなさんのおかげで、私は無事にここまで……。これからも、クラリオン家にとって“一人前の当主”になるべく、がんばります。あと、領民のみんなにとっても役に立つ存在になりたいです……よろしくお願いします!」
想定よりも短めのコメントだけれど、“自分としては当主としての成長を目指す”ことをちゃんと伝えたつもりだ。拍手が自然に沸き起こり、私はほっと息を吐く。でもコルセットが苦しくて、思いきり息が吸えず、「う、うえっ……」と内心で苦笑い。とにかく場は温かい拍手で包まれ、誰もが笑顔だ。暗殺騒ぎや革命の不安など、この場では遠い話のように思えてくる。
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