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実録自転車一人旅

作者: おーるぼん

そうだ、自転車で旅に出よう。


九月の初頭、一切の前触れも無しにふとそう思い立った私は、突如として現れた近年稀に見る程の高い行動力を伴い上司の元を訪れると。


なんと、当日のうちに長期休暇の約束を取り付けてしまうのだった。


正直この時は我が事ながら、かなり驚いていた記憶がある……




それから少し経ち、とうとう長期休暇が始まりを告げた九月九日の夜半。


旅支度を済ませた私は普段よりも大分重い荷物を背に、自転車の前に佇んでいた。


現在時刻は午前0時丁度。

思いの外準備に手間取ってしまい、出発がこんな時間となってしまった。


だが、これはこれで良いように思う。

旅の始まりを、新しい日と共に迎えられるのだから。


さて、それじゃあ行こうか。


そうして私は自転車に跨り。

遂に自転車での一人旅をスタートさせたのであった。


ちなみに、全くの無計画である。

唯一ある取り決めは『とりあえず遠くまで行く』とかそれくらいだ。


ただし、私は『旅行にはアクシデントがつきものであり、またそのために計画など無意味である』と思っており、なおかつ無計画での旅行も好きなタイプなので問題はない。




謎の行動力と大きな荷物を背に、始まった私の自転車一人旅。


初日は実に順調なものであった。


すぐに東京を抜けて神奈川県に入り(言い忘れていたが私は東京在住である)、朝日が昇るのとほぼ同時に厚木市へと到着した。


が、それだけに留まらず。

七時頃には秦野市に。そして、何とそのままの勢いで十一時には静岡県との県境にまで辿り着いたのだ。


移動時間は約十三〜四時間。

しかもその殆どが上り坂だった。


流石に疲れた私は、山を越えた先にあった御殿場市で宿を取り一日目の移動を終了した。




二日目……もまた順調だった。

少し尻が痛い事を除けば。


今日は御殿場市から出発し、静岡駅付近で終了。

本日の移動時間は前日よりかは少ないが、それでも十時間は超えていたように思う。




だが、三日目…………

ここで早くも、なかなか手痛い問題が起こった。


主に物理的な方面でだ。


尻が痛い、痛過ぎるのだ。


ゆっくりとペダルを漕ぐのにさえも苦痛を感じる程に。どうやらおケツに無理をさせ過ぎてしまったらしい。


そこで仕方なく、私は付近にあった自転車屋でサドルクッションを購入した。


また、そこからは徒歩の時間も増やした。


これならば何とか旅は続けられるはず……




そう思っていたのだが。

泣き面に蜂とはこの事なのか、再び困難が私の前に立ちはだかった。


それは静岡駅のある葵区から出発し、そろそろ焼津市。といった時のことだ。


私は焼津市へと続く国道一号、そしてその途中にある宇津ノ谷トンネルが自転車通行不可であることを知り。


そこで仕方なく山を登り、藤枝 静岡線トンネル(明治のトンネルとも言うそうだ……多分そうだった気がする)を抜けて県道208号へと向かうために自転車を走らせていたのだが。


何と、それが崩落のために全面通行止めとなっていたのである。




頭が真っ白になった。


これではもう、旅は中止するしかないであろう。


しかし、たったの三日でか……本当にそれで良いのか?


でもそうせざるを得ないよなぁ。


何せ、進むための道が無いのだから。




だが、私は諦めなかった。


まだまだ休日はあるのだし。

それに何より、私が好きで始めた旅だ。


もう少し。

いや、限界まで行ってみたい。


そう思ったからだ。


そうして何とか、自身を鼓舞してやる気を取り戻した私は、一度民家のある辺りにまで引き返し(当時は午前三〜四時程であり、トンネル付近の闇が、有象無象が……正直に言えば怖かったからだ)、スマートフォンで他のルートを必死に探し続けた。


そして数分後、希望の光を発見した。


現在地からやや南下した所にある、間近に海が見えるくらいの位置にある道路。


それは県道416号であり、そこはスマートフォンで確認した所自転車でも通行は可能だという。


……ならば行くしかないな。


さて、そうと決まればすぐに出発しよう。

私は自転車に跨り、移動を再開した。


今の私にとっては天より垂れる蜘蛛の糸のような存在である、県道416号へと向けて。




『やや南下』とは言ったがそれは地図上での話であり。

実際に自分で、しかも自転車だとなかなかの時間が掛かってしまった。


が、何とか県道416号に辿り着いた私は安堵し。


無事心地よい海風と共に焼津市へと。

そして、その先へと向けての再出発を始めることが出来た。


……かと思ったのも束の間。


希望の光に見えた県道416号。


何と、それまでもが通行止めとなっていたのだ……




私は絶望し、通行止めの看板脇に止めた自転車を横目に棒立ちしていた。


国道1号は言わずもがな、しかし頼みの綱であった県道416号も通行不可ということで……


『どう足掻いてもこの旅はここで終わり』というのが確定となってしまったからだ。


またこの時、私は自分自身を少々憎らしくも思っていた。


確かに、今までの旅を思い返してみれば……


この時以上に『冒険している』と感じた事はなく。


初めて飛び込みでホテルに入る、というのも経験し、またそれが案外悪くないことも知り。


そして漫画喫茶にも泊まったのだが。

漫画やアニメ等の娯楽に気を取られ過ぎて睡眠時間が確保できなくなりそうになってしまった……が、裏を返せばそれだけ満足できた訳で。


つまりは二つの意味で満喫できたのだ。

いや、やっぱり何でもない。


……等々。

上記したように決して悪いことばかりではなかったのだが。


少々、いやかなり。


自分の考えは甘過ぎるものであったと。

無計画にも程があると。

無計画どころか無鉄砲だと。


そう思い、憎悪していたのだ。


というかむしろ、そうしなければこのやり場のない感情をどうすることもできなかった。


こんな結末を迎えるとは、夢にも思わなかったのだから。




とはいえ、だからといってずっとそうしている訳にもいかず。


私は仕方なしに自転車に跨り。

元来た道を戻るため漕ぎ出した。


受ける朝日に目を細めながら。


こうして、私の自転車一人旅は終了したのである。




だが、実は。


旅自体はもう少しだけ続くのである。


ちなみにその理由は、このままだと気持ちの収まりがつかないからだ。


自転車は連泊の可能な駐輪場へと預け。

そうして自由の身になった私は新幹線に乗り大阪へと向かった。


そこから奈良、京都。

駐輪場のある静岡駅付近へと戻るついでに浜松。


最後は少し寄り道をして、某アニメの聖地である身延町へ。


……とまあ、身軽となった私の旅路はなかなかに快適で、そしてこれもまた非常に楽しいものであった。


そしてその時、私はある事を学んだ。


『旅は電車や新幹線、公共交通機関で行った方が遥かに移動も精神的にも楽なものである』と。


また、こうも思った。


次にもし旅をすることがあれば。

それは電車か新幹線に乗って行こう、と……


別に何も、自転車の旅が悪いものであるなどとは決して言わないが。


だがそれでも、疲労の度合いが段違いなのだからこればかりは仕方がない。




そうして数日後。

何とか帰路に着き、私の旅は本当に終わった。


自転車万歳。

一人旅万歳。

そして公共交通機関、万歳。

お読みいただきありがとうございます✨

また次の作品でお会いしましょう(*´ω`*)マタネ

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― 新着の感想 ―
オチそこに着地するんかいwww 次回は輪行で新幹線に自転車を積んで旅に出よう。 電車旅だと行きにくい観光スポットに行けて一挙両得です。 関東の人なら房総半島一周も楽しいですよ。
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