好きな人との記憶を無くした俺の元に恋人を名乗る好きな人が現れたんだが
「……」
僕の名前は康正。現在入院している中学三年生(もうすぐ高校一年になる)だ。
トラックにはねられて病院に搬送された。轢かれる前後のことはあまり良く覚えていない。
でも自分から轢かれに行くなんてことはしない。誰かを助けるために行動したのだけど……誰かを助けたのか覚えてない。
そしてはねられて病院へ。
今現在入院してから3か4ヶ月くらい経過した。
もう少しで退院かな。
俺は自力でベッドから立ち上がり歩いてみる。
病院の服装にも慣れた。薄着だから冬は寒いが慣れてしまえばこっちのもんだ。
そうして俺は迷惑のかからないようにテチテチと歩いてみた。骨折ももう問題ないかな。
「おーもう歩けるようになったのか早いのぉ」
「いやいや、もう何ヶ月もいるので歩けるようにならないと困りますよ」
「若いってはええのぉー。わしも若い頃は……」
「元気いっぱい、アン○ンマンだったっていう話してますよね。もう何回も聞きましたよ」
「違うぞ、アン○ンマンではない」
「分かった分かった」
俺に話しかけてきたのはおじいちゃん(骨折入院)。
暇なのか良く話しかけてくる。正直話のレパートリーが少ないのか同じ話をしてくる。
迷惑じゃないけど、聞き慣れてるから飽きてくる。
「よっと」
病院のベッドは眠り心地が悪い訳じゃない。
まぁ最初は慣れなくて苦しかったけど。家のベッドには劣るけどね……。
ガラガラ
その時扉が横へスライドされ、二人の女性が部屋へ入ってきた。
一人はマイマザー。良く目元が似てるって言われるけどよくわかんない。
もう一人は……見覚えがない。もしかしたら、ママ友かと思ったが、そんな年齢に見えない。
錆利休のような髪はハーフアップになっている。
同級生ならば信じられない体型だ。ボン!って胸だ。
そしてブレザーの上からでも分かる程、腰はスリムだ。
王侯学園のブレザーを着ている。同級生……だとしたら忘れてるのは申し訳ないな。
「もう一人で歩けるなら退院ね」
「ね、だけどさ学校めんどくさいな」
「はい、そういうこと言わないの苦労して入学したんだから」
「ああ、あとこの子。覚えるてるわよね?」
そう言って隣の女の子が一歩前へと出た。
遠目から見て分かりにくかったが近くに来ると見目麗しい。
目は髪色より濃い。
一言で表すならば美人だろうか。平均値を大きく上回る容姿だ。
それより………
「見覚えはない、かな」
「この子あなたが庇った同級生よ?」
「え?記憶にないけど」
「ちょっ、ちょっと待って……」
そう言って母は部屋を出ていった。
きっと医者に何か言うのだろう。そうして俺とその子が残された。
「あの、名前なんていうの?」
「麗奈、木川麗奈だけど……」
「俺と接点あったっけ?」
「えぇ……同じクラスだったから」
こんな子いたっけか?いやこの子が嘘ついてる。なんてことは無いか。
こんな場面で嘘つくなんてそんなことはありえないからな。
「俺とどんな仲だった?」
「えっ……?彼女……だけど」
「はぇ?か、彼女?」
情けない声が出たと思う。だけどそれ以上に彼女を覚えていない自分に驚いた。
そんなクズ見たいな人間だったのか……?
事故が起こるニ日前…………
「ふあぁぁぁーあ、ねえ麗奈」
「なに?用件は短くして」
「なんで俺たちって学校に通うの?」
「……人それぞれだからよ、ていうかネクタイズレてる。みっともないわ」
「んん?ほんとだ」
中高一貫校に通う俺は普通に通う中学生だった。
落ちこぼれでもないし、何かが優れてる訳じゃない。
「あと、あなたが私に話す理由はなんなの?」
「暇だから」
「そんな理由で私に話すから私たち付き合ってるとか言われるのよ」
「そうなの?別に違うからいいでしょ」
「私が嫌なの」
そう言って手元の単語帳に目線を落とした。
まぁ、今度英検2級受けるらしいし頑張ってほしいな。
「ていうか……なんでこんなに早く学校に来たの?」
「え?暇だからだけど?」
「あなた、暇だからって行動するの?」
「うん、そうだけど?だってすることないじゃん」
「そう、じゃあ私トイレに行くから」
そう言って麗奈はトイレへ歩き出した。
麗奈視点ーーー
その頃麗奈は同じ階のトイレの1番奥の個室へ入っていた。
「なんなのよ!もう!」
暇?暇だから学校に早く来るって何?
暇で行動するから私たちカップルとか言われるのよ!
『暇だから来た』
……ま、まぁ別に?私は嫌いじゃないけど……?
私木川麗奈は実は廣田康正が気になっていたりする。
たまにヨシヨシしたくなったり……?違う!
みっともないないわ!
「落ち着いて私……二人きりだからって何も無いわ。あんなヘタレに何もされないわ。
それはそれで腹立つわね……」
そうして私はトイレを出て教室へ向かった。すると壁にかけてある時計が目に入った。
今は7時10分。
この学校は7時に解錠される。
私はいつも7時に学校へ行く、ま、まあ?彼に会うことは期待してないし。たまに早く来るから二人きりが好きな訳じゃないし……。
そう思いながら進むと教室の扉の前についていた。
扉を開けた瞬間、目に入った光景に目を疑った。
「……え?」
なんと康正くんが私の机に伏して寝ていたのだ。
そんなことを予想できる訳もなく私は呆気に取られていた。
寝てる……彼が、私の机に……………え?
何してるのよ……全く。
私は起こさないように慎重に教室内を歩き彼の頭側へ屈んだ。
「……zZ」
(寝顔、可愛い………)
「ペンペン………ふふふっ」
そう寝言を言った直後、彼は私の頭をポンポンと叩いた。
そしてそのまま私の頭の上に手を乗せて再び眠った。
(……///?!な、何するのよ!?)
その状態のまま顔を見ると相変わらず気持ちよさそうに寝ている。
私は何を思ったのかその頭に手を乗せ、ヨシヨシと頭を撫でた。
「ふふふ、ほんとに可愛いわね……」
「んぁ……?」
ヨシヨシしていると目を覚ました。
私はとっさに距離を取った。
「あ、おはよ」
「おはよ、じゃないでしょ?私の席に座らないでくれる?」
「………無理」
「はぁ?!ど、どいてよ!私の席よ!」
「ここ窓側の角だから良く日が当たるんだよね。席なら隣の席に座って貰って」
「あ、あなたの席じゃない」
「そ、だからそっちに座っても良いよって」
「あのね、こんな所見られたらもっと誤解されるわよ」
「別にいいら……俺は麗奈のこと嫌いじゃないし」
「……え?」
今、さりげなく告白のようなものを言われた気が……。
わ、私も嫌い、じゃないし。
私はあえてその気持ちを抑え、言う。
「わ、私が嫌なの、さぁどいてちょうだい」
「じゃあ、ほら、手、貸して」
そう言って手を伸ばした。
私はその意味が分からなかった。だから手を貸してしまった。
「ほい」
私が手を伸ばした途端イスに乗せられた。しかもその隣にはもちろん彼がいる。
私は何が起きてるか理解出来なかった
「な、なにするの?!」
「ほら、これで解決。じゃあ寝るから……」
そう言って再び席に伏して寝てしまった。
私はしばらくボケっとしていた。
(あ、あれ?私たち今、くっついてる………)
「……zZ」
そしてなんと、彼は手を伸ばし私の肩へと回し自分の方へと寄せた。それにより密着感がより高まった。
きっと私は今顔が赤い。体はとても暑いし………。
「も、もう!」
私は我慢できずに思いっきり力任せに振り切った。
それにより起きてしまったが、私はそれどころじゃなかった。
「私はあなたの彼女じゃないの!」
「はいはい、じゃあ席あげるよー」
「あのね、今の見られてたら終わってたわよ」
「まぁ、そうなったら別の高校に逃げるからおけー」
「何も良くないわよ、私はどうするのよ」
「え?一緒についてくればいいじゃん?」
そう言って再び告白のようなシチュエーションになってしまった。
なので私は聞いてみた。
「それ、告白してるの?」
「してないよ?えー?勘違い?自意識過剰?」
「う、うるさい!もう!なんなのよ!」
私はポカポカと彼を殴った。
力は入っていないから痛くないんだけど、きっと眠気は飛んでいくと思った。
そうしてその日はなんとか誰にも見られることはなく終わった。
ちょっとハラハラしたけれど、彼は全く平気そうな顔をしていた。全く………でも、楽しかった。
翌日ーーー
「………流石にいないわね」
昨日のようにはいかなかった。最近は早く来ていたから今日も………なんてことは無かったわね……残念じゃないから!
そうして教室を歩き、自分の席へと歩き出す。
荷物を置きいつものように勉強……ではなく、昨日のことを思い出しながら考える。
『好き』多分、これは好きなのかもしれない。
会う度に、話す度に少し心拍数が上がり、ドキドキする。
次は何を話そうか。その次。その次と。
いや、彼は鈍感なのかもしれない。だからきっと私の気持ちには………。
「もう!鈍感!」
思わず席を立ち上がってしまった。
だけど教室には誰もいない。はずだった。
教室の扉、その前に誰か立っている。その表情は少し驚いている。
「……!」
「どうしたの?高血圧?ストレスなら休憩しないと」
そう廣田康正。いつの間にかそこにいた。
しかも少しづつこっち歩きだしている。
いつものような鈍感みはあまり感じない。
「ち、違うわよ!」
「へぇーほんとにぃ?」
「ほんとよ、どっかの誰かさんが鈍感で困ってるの」
「あらら、それは大変ですね」
(あなたのことよ……全く)
そうして今日は「自分の」席へと座った。
そうして再び今日も机に伏して睡眠へと入った。
この人………普段何してるのかな。
「あなた、毎日眠そうにしてるけど何してるの?」
「え?いつも?うーん最近は、動画見てるか、寝てるか食べてるかどれかかな。」
「勉強しないの?」
「しないよ、めんどくさいもん。高校に入れる成績あるし必要最低限あれば問題ないでしょ?」
「私とはソリが合わないわね」
私は普段勉強しかしていない。
勉強が好きなわけでもないし、親から強制されてるわけでもない。
自分の好きでやってる。
「ねぇ、あなた恋愛とかしないの?」
私はとっさに聞いてしまった。話す内容はいくらでもあったのに……。
少し、気になるけど……。でもとっさに聞いてしまった。
「恋愛?だってこんなの好きになる人の方がおかしいよ」
「こ、こんなの?!」
そう言って思わず立ち上がってしまった。
私も彼も驚きの表情をしている。私は慌てて座る。
少し取り乱してしまったわね………。落ち着いて私……。
「どうした?事実でしょ?」
「あのね、あなたもっと自分を大切にしなさい」
「べっつにー?だって、仲良くしてくれる人がいるし」
そう言って指を私の方向に指した。
私は自分の後ろを見てみるが後ろ、もちろん左右にもだれもいない。
「わ、私?」
「え?違う?だってかまちょみたいだから」
「か、かまちょ?」
私が?かまってちゃん?!
い、言ってくれるじゃない!私がねそうなことするのはねあなたしかいないからね!ほんとに………。
「まぁ、とりあえずさ落ち着いてって高血圧は体に悪いよ」
「あなたが鈍感だからよ……ボソッ」
「え?」
「え?」
あ、く、口に出して………。
これじゃあ好きバレしちゃうかもしれないわね………だから気をつけないと。
「ほら、今だって顔赤いけど」
そう言って私の頬へ指を伸ばした。
そしてそのままぷにっと私の頬が凹んだ。
「お、女の子に簡単に触ったら怒られるわよ……///」
「え?でも麗奈怒ってないじゃん」
あ………た、確かに。
むしろ少し嬉しい……違う!そんなことない!
「ち、違うもん!そんなとこないし!」
「えー?ほんとかなー?」
「ほ、ほんとよ!早く離して!」
そう言って私は振りほどいた。
「あ、そういえばさ今日国語のノート忘れたから後で見せて」
「………取りに帰りなさいよ」
全く、どうして早く来るのかしら。
忘れ物するくらい焦って来ても何も無いのに……。
「えぇー?めんどくさいからさ見せてよ」
「また?あなたねぇ」
「どうしたの?一緒に見るの嬉しいの?」
っ!私はその時ドキッとした。
もしかしたらそうなのかもしれない……って思ってしまった。
でも違うから!違うからね!誤解しないでよ。
「あなた変態よね」
「は……?変態……だと、俺は変態じゃないから!」
「ムキになって、そんなに悔しいの?」
「べ、別にー?」
こうやってからかうのも楽しいわね……。
そんなにムキになって可愛い………///
「あらー可愛いわねヨシヨシ」
「な、やめろよ!」
私はひたすらに頭をヨシヨシと撫でた。
暖かい。まだ外で当たった太陽の温度が伝わる。
彼は抵抗したが私はそれでもヨシヨシと頭を撫で続けた。
私が撫で続けると彼の抵抗が少しずつ強くなった。
「あーヨシヨシ、あっ!」
その時私の手がグッと彼の方へ寄せられた。その拍子に私が彼に覆い被さる感じになり倒れた。
距離がグッと縮まり、互いの息遣いがハッキリと聞こえる。
それと同時に自分の心臓の鼓動が聞こえてくる。
「あんまり、からかうなよ……?」
「……っ、別にからかってないわよ、真実……じゃない」
「ふーんじゃあ、俺もからかってないからね」
そう言って私の手を握っていない方の手を、私の腰へと回した。
何よこれ………やっぱり変態……!
「変態!」
バチン!!!!
「ぐぶぉ!!!!!」
私は彼の顔に思いっきりビンタをかました。
そして立ち上がり急いで教室から離れていく。
誰もいない校舎を走りながら頭の中で考える。
(何よ何よ!あんなの!ほんとに変態じゃない!昨日も女の子に気安く触らないでって言ったのに!)
放課後ーーー
「はぁ………」
あれから私たちは特に話していない。
周りからカップルのように思われてる私たちが話していないのが意外だったのか、コソコソと何か話していた。
少し気になったけれど、私たちはそれどころじゃない。
(でも、ずっとこうしてるわけにはいかないよね。仲直り……しないと。でも……どうやって………。)
そうやって悩みに悩んでいた時だった。
私は信号を見ずに横断歩道を歩いていた。
考えていたから、気がつけなかった。
プーーーーー!
迫り来るトラックに気がつくことができなかった。
「おい!麗奈!」
「え?」
背中に強い衝撃が伝わった。
後ろから誰かに押され私はトラックに当たらずに避けることができた。
そしてガラスが割れる音とともにあたりから悲鳴が聞こえた。
放心状態の私はその悲鳴を聞きようやく我に帰った。
そして後ろを振り返った。
そこには私を庇って轢かれたであろう康正の姿があった。
そして病院でーーー
「彼女……みたいな……?」
「えぇー俺と君が?」
どうも信じられないな。俺とこの人が釣り合ってはいないと思うんだけどな……。
ていうか、彼女じゃないんかい。
「先生!早く!」
その時部屋を出ていた母が先生を連れて戻ってきた。
その顔はとても焦っている。先生も同様だ。
「康正くん!来てください!」
そうして俺は麗奈を部屋に残し、検査室へと案内された。
きっと脳の検査を行うのだろう。
そう思っていたら案の定脳の検査をされた。
そうして検査が終わり待機していると麗奈が近づいてきた。
「うーん、思い出せないな。」
「ほんとに?よく朝早く学校に来て話してたじゃない」
ほんとに分からんな。
どうしたらいいのか……何か繋がること、麗奈と関係のあることは………何かないか、何か………無いな。
「こっち来て」
と言われ、手を引っ張られ俺は結果を知ることなくどこかの部屋へと連れ込まれた。
そして部屋に入るやいなや俺はベッドに押し倒された。
その上に麗奈が乗っかってきていた。
「ほら………あなたが私にやったこと」
「………?」
『変態!』
その時俺は強烈なビンタをもらった気がした。
頬に手を当ててみるがジンジンとした痛みはないし、された感覚がない。
『女の子に触ったら怒られるわよ』
俺はそう言われサッと離れようとしたが離れられない。
ていうか、言われて……ない?
「あれ?麗奈?」
「なによ……」
あぁ、そうだ麗奈だ。
そうだなんで忘れてたんだろ。麗奈だよ。
俺が好きな人だ。忘れるなんて……馬鹿だな。
「思い出したよ」
「………良かった………グス」
堪えていたことがあったのだろう。麗奈はその場で大泣きした。
俺はその背中をヨシヨシと撫でて落ち着かせてあげた。
思い出したよ。
数分後ーーー
「ねぇ抱きしめてよ……///」
「あいあい」
俺が記憶を取り戻してから麗奈は格段に甘えん坊に変身した。
はぁ………こんな姿見られたらマジで付き合ってるって思われるよ。
「あったかいわね……」
「心があったかいんだよ」
そう言って俺たちはしばらく抱き合っていた。
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