序章 第七話 奥義
用語説明w
三大基本作用力
魂と霊体、肉体、精神を引き付ける、霊力、魔力、精力のこと
「し、死ぬかと思った…」
まさか真後ろに、あんなに深い崖があるとは思っていなかった
鍾乳洞のような洞窟の壁が崩落して出来たような谷になっているため、高台の途中に突然の崖が形成されていた
全く気が付かなかった
これだからフィールドでの戦闘は怖い
「やっちまった…」
思わず口から後悔がこぼれる
セフィ姉のとんでもない斬撃に見とれての痛恨のミス
自爆特攻に巻き込まれて孤立しちまった
早く戻らなければ
セフィ姉達が探してくれているのだろうが、迷惑をかけてしまう
「さてと…」
俺は空を見上げる
切り立った崖が両側にそびえる
鍾乳洞特有の尖った石筍がちらほら残り、手を切ってしまいそうだ
普通なら登れない
そう思うだろう
だが、俺にはこれがある
ヒュオォォーーーーッ
俺は、輪力を風属性として使用
周囲の空気を集めて空気の殻を作り上げる
続けて、魔力を風属性に変換し、空気の層に動きを与える
風が俺の周囲を回り出す
この状態を卵の殻に見立て、ドラゴンエッグと命名された俺のオリジナル技だ
崖を落ちて助かったのは、このドラゴンエッグによって風を噴出
同時に崖面に思いっきり剣を突き立てて、スピードを殺したからだ
よし、風の噴出の勢いで一気に上がってしまおう
ブオォォーーーーッ!
俺は、垂直に近い岸壁を一気に駆け上がる
「ふぅ…」
しかし、集められる風も無限じゃない
途中で風の殻を使い切り、掴める場所で小休止だ
ここでまたドラゴンエッグを発動
これを繰り返せば上まで上がれる
早くセフィ姉達と合流しよう
モンスターと遭遇したら危険だ
「…っ!?」
ゾクッッ!!
突然の寒気
何かに襲われる恐怖
ここにいてはいけない、そんな危機感に襲われる
「…! …!?」
周囲を見ても何もない
俺は慌ててドラゴンエッグを発動、崖を駆けあがる
その瞬間
「…うわぁぁぁぁぁっ!!」
また恐怖が襲って来た
姿の見えない恐怖
ただ、感情だけが暴走する不自然さ
「ひっ…!」
な、なんだこれは!
精神属性による精神干渉!?
精神属性畏れの魔法のように、周囲の生物に恐怖効果を押し付ける魔法が存在する
姿は見えないにもかかわらず、やべー存在の予感
騎士学園の経験で、正体不明の相手からは逃げるべきだと学んでいる
「早く…! ここを離れろ…!」
一刻も早くここから離れる
ここには何かがいる気がする
正体不明の恐怖の原因が
俺は何とか崖から這い上がり、すぐに全力疾走
まずは離れることが最優先だ
「おい、ラーズ!」
「えっ、あっ!」
全力で走っていると、前の方から声をかけられる
斥候タイプの騎士、コリントさんだった
「探していたんだ。この先の崖に落ちたんじゃなかったのか?」
「落ちました…。風属性の技能が有ったので、這い上がって…はぁ……はぁ……」
「そうだったのか。セフィリア様に連絡は入れた合流しよう」
「はい…、すみません……ふぅ…ふぅ…」
俺はようやく一息つく
呼吸がきつい
恐怖に駆られてメチャクチャなペースで走って来てしまった
俺たちはモンスターを避けるため、急いで本隊に合流した
・・・・・・
「あぁ、よかったわ。ラーズ、ごめんなさい。私のミスよ」
「い、いや、違うよ。俺が不用意に巻き込まれちゃったから」
セフィ姉が俺を抱きしめる
いや、ちょっ、恥ずかしいからやめて!
「セフィリア様、ラーズは大したものです。自力で簡単に崖を登って来ていましたよ」
「ラーズのドラゴンエッグ、便利だもんね」
「うちのパーティの要だったからな」
ミィとヤマトが言う
「全然だろ…」
「もう少し遅かったら、二次捜索隊を出そうと思っていたのよ」
「そ、そうだったんだ」
振り返ると、弓使いの騎士フィロメナやフィーナが準備していた
「フィーナも?」
「ええ。テレパスで探してもらおうと思ったの」
セフィ姉が言う
テレパスとは、サイキック技能の一つ
精神の力である精力で情報を読み取る技能のこと
相手の考えていることを読み取ったり、物体に残った記憶を読み込むサイコメトリーなどがある
対して、精力を物体を動かす力に変換する技能をテレキネシスという
実はフィーナもサイキッカーで、テレパスが得意
サイキッカーは、テレパスかテレキネシスで得意な技能が別れる傾向にある
精力は三大基本作用力の一つであるが、霊力や氣力を単品で使う霊能力者や氣功師に比べるとサイキッカーの数は少なく稀有な能力だ
「フィーナ、テレパスで探すなんてできるんだ」
「あまり使ったことはなかったんだけど、コリントさんもテレパスを使った索敵が得意だから教えてくれるって。でも、先に行ったコリントさんがすぐに見つけちゃったけどね」
「そっかぁ」
テレパスって凄いんだな
俺が使えたとしても、カンニングくらいにしか使い処が思いつかなかったけど
「さぁ、ラーズも見つかったし、帰る準備をしましょう。ズメイとドラウグの素材回収を二班に分けます」
セフィ姉がテキパキと指示を出す
モンスターとは、人類の脅威であると同時に資源
モンスターの素材は様々な製品に使われているし、騎士や兵士の装備にも利用されている
モンスターの体内で生成される魔石や魔玉はエネルギー源や工業製品、霊子部品や魔導回路に使われているし、肉などは珍味として加工される
騎士団の重要な収入源でもあるため、素材回収は軽んじられない
今回も、ヘリと大型の魔法のじゅうたんを要請して、専門の回収職人が作業を行うのだ
プロの騎士とのモンスターハント体験はこれで終わり
俺たちは、モンスター素材の回収作業を見つめる
「セフィリアさん。ズメイを倒した、最後の水属性の攻撃って何だったんですか?」
ヤマトが尋ねる
セフィ姉は、ズメイの最後の死を賭した攻撃を予想し、強力な攻撃を繰り出した
その一撃で、ズメイは体中から血を噴出させて絶命したのだ
「あれは水属性の奥義・彩色噴泉。体内に入ることで、存在する液体の全てに圧力をかけて噴出させる技よ」
「な、何その当たったら絶対に死んじゃう攻撃…!」
奥義とは、同じ属性の魔法と特技を一つにする技能
属性値を跳ね上げることで、大ダメージを与える
セフィ姉の水属性奥義・彩色噴泉は、モンスターが持つ液体に干渉して体内から破壊する
通常、身体には魔力が存在しているため、それらの魔力を押し退けて体内の物質に干渉することは難しい
奥義の跳びぬけて高い属性値の出来る技
さすがセフィ姉だ…
「ラーズの重属剣は破壊力があるな。プロの騎士でもないのに、ズメイの頭の一つが完全に吹き飛んでいる」
ロケットランチャーを使う騎士、イディが言う
ズメイはドラゴンであり、素材にできる部位が多い
しかし、俺が重属剣で頭蓋骨を完全に吹き飛ばしてしまった
首の辺りを狙わなくちゃダメだったか…
「ドラゴンブレイドのドラゴンキラー効果もあったものね」
セフィ姉が首を竦める
俺が使っている愛刀、ドラゴンブレイド
セフィ姉が昔使っていたお古で、俺にプレゼントしてくれた
ドラゴンキラーの霊的構造を持ち、ドラゴンに対しての特攻効果がある
「さっきのドラゴンエッグもよかった。君なら、いい斥候や遊撃になれるぜ」
斥候のコリントさんが言う
「いや、そんな…」
「ラーズ、あなたならプロの騎士として通用する。今からでも思い直さない?」
セフィ姉が俺を見つめる
その眼は、左右で濃さの違う青色
この右目は龍眼と呼ばれる珍しい青色だ
そして、実は
この超絶美人で完璧超人のセフィ姉と俺の共通点でもある
俺も目が青色なのだが、左目が少しだけ濃い
俺の左目は竜眼と呼ばれる青色なのだ
別に、特別な効果があるわけではないが、俺の憧れのセフィ姉との共通点
俺の密かな誇りだったりする
だが、この話題の時は、セフィ姉の眼を見られない
俺には、プロの騎士の人たちのような力が無い
そして、フィーナやミィ、ヤマト達のような、才能がないのだ
俺には…
俺は…
個人プロフィール
氏名:ラーズ・オーティル
人種:竜人
性別:男
学年:騎士学園卒業生(受験生)
バックボーン:なし(あえて言うならドルグネル流剣術)
得意技:ドラゴンエッグ、重属剣、風属性魔法と特技、闘氣
スタイル:
騎士学園では、攻撃、防御、補助と状況によって役割を変える遊撃役を担当。
パーティの潤滑油役であり、ドラゴンエッグで動き回りながらフィーナの高火力魔法、ヤマトの鉄壁の壁と近接攻撃を支えた。
また、強敵には重属剣を叩きつけて貢献したが、一発で動けなくなるため使い所が難しい。
特記事項:
オールラウンダーだが専門職には勝てない、器用貧乏で万能タイプ。
パーティに大きく貢献したが、本人は力不足だと思っている。
チャクラ封印練を行う事で、闘氣、魔法、特技という騎士の全ての力を失うが、それでも将来に向けて騎士の力を向上させる賭けを選んだ。