三章 第二十七話 オーギュスト教授
用語説明w
ミィ
魚人の女子。騎士学園時代にラーズとパーティを組んでいた。金勘定が上手く、戦闘よりもアイテム調達で貢献、騎士団の運営に興味を持ち、龍神皇国立騎士大学へと進学した。ひょんな事から、瑠璃色のスライムと仲良くなった。
フィーナ
ノーマンで黒髪、赤目の女子。ラーズの義理の妹で、飛び級でハナノミヤ聖女子大学に進学。クレハナの王族であり、内戦から逃れるために王位を辞退して一般家庭に下った。騎士の卵でもあり、複数の魔法を使える。最近はラーズの怪我の治療によって回復魔法の腕が上がっている
オーギュスト教授
トウデン大学人文学部の教授、文化人類学が専門。フィールドワークを重視しており、興奮するとお姉言葉になる。研究に熱く、ちょっとぶっ飛んでいる性格。文化人類学の単位は、人文学部の鬼門と呼ばれるほどに難関
四百年前の金庫に残っていた金貨
たった一枚とはいえ、お宝なのは間違いないのだろう
「あー…、洞窟が崩れていなかったら、この金庫いっぱいの金貨が手に入っていたのに」
ミィが大げさに嘆く
「いいじゃないか。そのスライムが中から見つけてくれなかったら、残っていたことにも気が付かなかったんだぜ?」
ミィに懐いている…ように見える瑠璃色のスライム
小さく、軟体なため、どこにでも潜り込めて便利だ
「まぁ、それはそうだけど」
「キュイー」
ミィが頬ずりすると、スライムがプルプルと震える
「ミィ姉、その子どうするの?」
フィーナが尋ねる
「お金好きに悪い子はいないわ。私の所に来る?」
「キュイ」
またスライムがプルプルと震える
そして、ミィに寄り添うようにピトッとくっついた
「ミィさん、スライムに懐かれるなんて凄いね」
「うん。モンスター使いでも、基本は哺乳類や鳥類、爬虫類型くらいまでが使役対象で、魚とかスライムとか昆虫型とかの知能が低いものは使役できないって聞いたよ」
ピンクとソロンが言う
騎士学園には、ゴンサロ先生という使役対象の世話に詳しい先生がいる
俺もフォウルの健康診断などで、よくお世話になった
ピンクたちも説明を受けているのだろう
「この子が使役対象…。まぁ、何ができるのかは分からないけど、狭い所に入れるのは便利ね。代わりに、私の水属性魔力を提供してあげるわ。それでいい?」
「キュイ」
分かっているのかいないのか
瑠璃色のスライムは、またプルプルと震えた
「よーし、それじゃあ、これをあんたに預けるわ」
「え?」
ミィが俺に金貨を渡してくる
「大学の先生に調査してもらってよ。その後、この洞窟も発掘なりすればいいでしょ。四百年前の金庫や槍が見つかって大発見なんだから。それと、これも」
「いいのかよ?」
俺は、羊皮紙の地図も受け取る
「お宝が見つかったから充分よ。調査結果は気になるけど、それはラーズの大学側でやって」
そう言いながら、ミィが後ろの川を振り返る
「おい、帰ろうぜ」
「…もしかしたら」
「どうしたの、ミィ姉」
「川の中をさらったら、まだ金貨が落ちているかも」
「や、やめとけって。数百年の間にとっくに流されてるに決まってるだろ!」
「流れが強いって、ミィ姉がいってたんだよ!」
俺とフィーナは、ゴルド色に染まった目で川に戻ろうとするミィを必死に止めるのだった
・・・・・・
「それじゃあ、ここで」
「ラー兄、またね」
「楽しかった!」
ピンクとソロンが言う
二人はこのままミィが騎士学園まで送っていく
龍神皇国の中央区にある国際飛行場から、宇宙飛行機に搭乗
軌道エレベーターで大気圏外に出て、ロケットエンジンで惑星ギアへ
その後は、特急や船でブリトンという国の騎士学園に戻るのだ
「フィーナ、次に騎士団に訓練に来るときは教えてね」
「分かったよ、ミィ姉」
「ラーズ、その金貨の結果が分かったら教えなさいよね」
「分かったよ。龍神皇帝国成立前の物だったら、面白いよな」
俺達は、お互いに手を振って別れる
「あーあ、明日が休みだったら家で一泊できたのに」
「仕方ないって」
休みの関係で、俺達はそのままシグノイアへと戻る
俺もフィーナも学生、講義があるのだからしかたがない
「ご飯はどうする?」
「俺、ちょっとバイト先に寄りたいんだけど」
「今から行くの?」
「これを持ち歩くわけにはいかないからさ」
俺は、背中の細長い袋に入れたドラゴンブレイドを示す
ドラゴンブレイドは霊剣
だが、当然ながら物理的な刃物でもある
しっかりとした殺傷能力のある剣であるため、このままでは銃刀法違反となってしまうのだ
この霊剣は、バイト先で役立つかもと思って持って来ただけなので、そのままクサナギ霊障警備に保管しようと思っている
「そっか、剣って持ち歩いちゃいけないんだっけ」
フィーナが思い出したように言う
「騎士学園だと、剣だの槍だの斧だの、弓やボウガン、杖みたいな武器を平然と持ち歩いているからマヒしてるけどな」
「そうだね。ラーズ、初等部の頃からその剣を持ち歩いてたから、全然違和感なかったよ」
セフィ姉から貰ったドラゴンブレイド
今のソロンと同じ、初等部の頃に貰ったもので、最初は素振りをするのも大変だったっけ
「それじゃあ、その会社に行った後でご飯食べに行こうよ」
フィーナがPITでお店を探し始める
うむ、食欲に素直なのはいいことだ
「あ、ちょっと待って。その次は大学だよ。この金貨を持ち込まなきゃ」
「今日、すぐに持ち込むの?」
「教授に連絡したら、すぐに持って来いって」
「それなら、私も行く。ラーズの大学見てみたい」
「別にいいけど、ちょっと遅くなるかもよ?」
俺達は電車を乗り継いで、マチデニ駅というシグノイアとの国境にある駅へ
そこでシグノイアに入国し、俺のバイト先であるエクイフ駅までやって来た
「へー、このビルがバイト先なんだ。ゴーストハンターの」
「そうだよ。ちょっと待ってて」
俺が中に入ろうとすると、ちょうど誰かが出てきた
「お、ラーズじゃないか。今日はバイトだったのか?」
「あ、ビアンカさん。お疲れ様です。今日はバイトじゃないんですけど、ちょっと倉庫を借りようと思って」
「倉庫? そちらは……彼女か?」
ビアンカさんがフィーナに目をやる
「は? いや、違いますよ! フィーナは俺の妹です」
「妹…、そうか。ラーズの同僚でビアンカです」
「あ、フィーナです。ご丁寧に…、ラーズがいつもお世話になっています」
フィーナがぺこりとお辞儀をする
「ビアンカ、誰と話しているでござる…、うわっ、ラーズが三次元の女を! 女をぉぉぉっ!」
「ピッキ、うるさい。何よ、あら、ラーズ。んま、本当に女連れ」
「だから、妹ですってば! ピッキさん、プリヤさん」
「あ、その、フィーナです」
フィーナが二度目の自己紹介
「プリヤさん、俺が持っていた霊剣を持って来たんですけど、会社で保管してもいいですか?」
「ああ、前に言ってたやつね。いいわよ、二階の倉庫に置いておいて。業務での使用許可は申請してあげるから」
「ありがとうございます」
「みんな、外でなにしてる………、ラーズが、女連れ!?」
「レイコ社長、って、もういいって、この流れ!」
ホフマンさんが出て来て、もう一回やるかと思ったが、残念ながら休みだった
そこは期待を裏切らないでほしかった…
・・・・・・
「楽しいバイト先だね」
「うるさいんだよね、あの人たち。悪乗りするし」
俺とフィーナは、今度は俺の大学のあるイサグ駅へ
ロータリーからバスに乗って大学へと向かう
今日は休みなのだが、研究室や部活のためにキャンパスへと向かう学生は意外に多い
「へー、ここがトウデン大学かぁ。始めて来たけど、思ったより綺麗だね」
「そうなのかな? 俺もハナノミヤ女子大に行ってみたい」
「いいけど、目立つよ。男の人は講師と職員、守衛さんとかしかいないから」
「それは緊張しそうだなぁ」
やっぱり女子大は高嶺の花だ
俺は、あまり行ったことの無い研究室のある棟へと向かう
案内図を見ながら、文化人類学の担当であるオーギュスト教授の研究室を探す
この文化人類学は人文学部の必修科目
試験とは別に、実施研修を行わなければ単位がもらえない科目だ
しかも、実施研修にただ参加すればいいだけでなく、オーギュスト教授を納得させなければならない
コンコン
「こんにちはー」
「入りなさい」
ノックして中に入ると、オーギュスト教授が座っていた
「連絡させていただきました、ラーズです」
「おお、待っていた。それで、発見した物は?」
「これです」
俺は、川底から見つけた金貨を渡す
「こっ、これは…!」
「どうでしょうか?」
「龍神皇帝国成立以前の金貨で間違いなさそうだ。サンプルがあるから比較ができる。ラーズ」
「はい?」
「明日までにレポートを提出しなさい。発見状況や地図の入手経緯も書き忘れないようにね」
「あ、明日までですか!?」
「今しないでいつするの! 私はすぐに調査発掘隊の編成に入るわ! 理事長を説得するためにも、あなたのレポートは必須よ! さぁ、行った行った!」
「は、はいっ!」
とんでもない勢いで俺は部屋を追い出される
「あ、早かったね、ラーズ。ここ、おいしそうだよ」
フィーナが、のんきにご飯屋さんを調べている
「フィーナ、お願いがあるんだけど」
「え、何?」
「レポート作るの手伝って…! ご飯は今度驕るから!」
「え、今から? ご飯は?」
「コンビニになりそう」
「えぇっ!?」
俺はフィーナに頼み込んでアパートへダッシュ、すぐにレポートに取りかかった
文化人類学 二章 第十八話 稽古1
オーギュスト教授 二章 第二十六話 カフェ
序章 第七話 奥義の最後に個人プロフィールを追加しました(なぜか忘れてました汗)




