三章 第二十六話 宝探し3
用語説明w
フィーナ
ノーマンで黒髪、赤目の女子。ラーズの義理の妹で、飛び級でハナノミヤ聖女子大学に進学。クレハナの王族であり、内戦から逃れるために王位を辞退して一般家庭に下った。騎士の卵でもあり、複数の魔法を使える。最近はラーズの怪我の治療によって回復魔法の腕が上がっている
ミィ
魚人の女子。騎士学園時代にラーズとパーティを組んでいた。金勘定が上手く、戦闘よりもアイテム調達で貢献、騎士団の運営に興味を持ち、龍神皇国立騎士大学へと進学した。
ピンク、ソロン
騎士学園に通う学生で、騎士の卵。二人とも貴族の家系であり、セフィ姉に匹敵するほどの才能を持ち、普通に闘氣を使える。ピンクはラーズの五歳下、ソロンはピンクの五歳下。
宝の地図を見ながら、ミィが先導していく
その肩には、小さな瑠璃色のスライムがちょこんと乗っている
「いやぁ、一度やってみたかったんだぁ。ラーズのフォウルみたいなこと」
ミィはまんざらではなさそうだ
「使役対象、可愛いもんね」
ピンクが言う
「そうなのよ。でも、簡単に手に入るものじゃないしね」
「僕の学年にも一人、使役対象がいる子がいるよ。鳥みたいなモンスターなんだ」
「私の学年はネクロマンサーがいる。骸骨がカタカタ動くんだ」
「ピンクとソロンの学年は少ないね。私たちの学年は四人いたよ」
フィーナが言う
「そうそう。ゴーレムと蛇のモンスター、それと妖怪」
「懐かしい」
しばらくすると、ミィが足を止める
目の前の道は岩山に繋がっている
「地図ではここら辺に入口があるみたいだよ」
「入口ってことは建物か?」
「違う違う。洞窟だよ」
俺達は手分けをして周囲を探し始める
「ピンクとソロンはあまり離れないでね。モンスターが出るかもしれないから」
フィーナが二人に声をかける
「ラーズもだよ。もう闘氣が無いんだから」
「分かってるって」
「そうだ。この辺りの遺跡のこと、調べたんでしょ。何か分かったの?」
ミィが足を止める
俺は、オーギュスト教授に単位の話をしに行った際に、ここアレタリル草原のある龍神皇国南区のことを教えて貰った
そして、図書館で調べて来たのだ
約四百年前の龍神皇国は、魔王の出現によって国々が疲弊
魔王討伐後に資源を奪い合う戦乱の時代、始原戦争が始まった
当時はこの地域に小国が乱立しており、統一国家は存在していなかった
それが、覇者を決めるべく争ったのだ
小国の中でも一番の力を持っていたのが南の国
現在の竜神皇国の南区の中央辺りにあった国であり、今、俺達がいるアレタリル草原の西側の辺りだ
始源戦争末期、この南の国と中の国が、それぞれ南方と北方を統一
最後にぶつかり合った
国力を持っていたのは南の国
だが、勝ったのは中の国だった
中の国は、魔王を倒した英雄を王とした
そして、その勇者と呼ばれた英雄に力を貸した龍の力で南の国を平定したのだ
この中の国が、始原戦争を勝ち抜き戦乱を平定後、龍神皇帝国を打ち立てた
余談だが、その三百年後、今から百年前に龍神皇帝国は分裂し、龍神皇国とシグノイアなどの七つの国に別れて今に至る
「へー、そうだったんだ」
ミィが感心する
「ふふっ、歴史を学ぶ俺からしたら当たり前の話だけどな」
「ラーズ、図書館から借りて来た本を読んでたもんね」
「フィーナ、ばらすなって。詰め込んだのがバレるだろ」
「自分でばらしてるじゃない。でも、信憑性が出て来たかも」
ミィが笑う
「どういうこと?」
「この地図が伝わっていた家はね、四百年前に南の国の貴族の家柄だったんだって。でも、南の国が負けて中の国が迫る中、国外へと逃げ出して東区の方に移り住んだの」
「歴史的には、その言い伝えも矛盾はないな」
「そうでしょ。逃げる途中に宝を隠したと考えれば…」
「ミィさん、ここ見てー!」
ピンクの声が聞こえ、俺達は振り向く
すると、岩と岩の間の入れそうな隙間が見える
「入れそう?」
「うん、深そうだよ」
ソロンが隙間の中を覗く
「よーし、入ってみましょ。フィーナ、お願い」
「はーい」
フィーナが杖に光を灯す
雷属性蛍光魔法だ
「モンスターがいるから慎重にね」
俺達はぞろぞろと岩の隙間から中へと入っていく
中は洞窟のようになっていて、奥へと続いていた
「この洞窟って、人工物じゃなくない?」
「ちょっと判断つかないな。自然の洞窟を利用した可能性もあるし」
フィーナを先頭に、俺達は進んでいく
騎士の卵であるフィーナは闘氣も魔法も使えるため、そこらのモンスターなら充分戦える
ザァーーー…
ザァーーーッ
遠くから川の流れる音がする
先には天井が崩落したのか、太陽の光が差し込んでいる
俺達が歩いてきた洞窟のような通路は、崖のような場所に突き当たった
少し下には流れる川に突き当たった
「あれ、行き止まりじゃない。どうなってるのよ」
「俺に言うなって」
ミィと俺は川を見下ろす
この川の先は小さい滝になっているようで、水が落ちる音が響いている
「ここ、崩れちゃってる。本当に宝の地図の場所がここなの?」
フィーナも川を見下ろす
「うーん。川があるってことは岩石も侵食されるだろうし…」
「四百年あったら洞窟も壊れるし、道も変わっちゃうのかも」
ピンクがソロンと一緒に周囲を見回す
「あ、これ見て」
ソロンが洞窟の壁際で何かを見つける
それは槍だった
錆びついているが、明らかに人工物
かなりの年季が入っている
もしかしたら、四百年前の始源戦争時代のものなのかもしれない
「…やっぱり、地図の場所はこの洞窟かもしれない」
俺は錆びた槍を見て言う
周囲を探すと、他にも壺の欠片のようなものが落ちていた
人間がここにいた証拠だろう
「…つまり、やっぱりここが宝の隠し場所。でも、四百年の間に大部分が崩れて川に落ちた。そういうこと?」
「その可能性が高いかな。残念だけど」
「くー…、そんなことってー! 無駄足させられた!」
「そんな簡単に宝が見つかるかって。でも、ここら辺が四百年前の南の国の人間の集落の跡地なら、発掘する価値はあるんじゃないか?」
「それはラーズにとってはいいかもしれないけど、私には意味ないよ…」
「まぁまぁ、ミィ姉。みんなで来れて楽しかったよ?」
フィーナが言う
「そうだよ、ミィさん。私も楽しかった」
「僕もー! それに、四百年前の槍が見つかったし」
「そんなの、一文の値打ちも…。まぁ、愚痴っても仕方ないから帰りましょ」
ミィが頭を振る
「おい、待てって。あの川の中は見ないのかよ?」
「え?」
ミィが足を止める
「だって、川に落ちたのなら引っかかってるかもしれないだろ。流されてなきゃだけど、一応」
「ミィ姉、水除の魔法が使えるから見れるもんね」
フィーナが言う
ミィは水属性魔法が得意
水属性水除の魔法とは、周囲の液体を操作して、自分を逸れるように流すことができる
そのため、水に入っても濡れないで歩くことができるのだ
俺達はロープを岩に結び、フィーナが持つ
それをミィが腰に結び、数メートル下の川に降りて行く
「そこまで流れが激しくないから…もしかしたら…」
ミィのお宝に対する執念は計り知れない
水除の魔法を使いながら、どんどん川に入っていく
水に隠れて姿は見えなくなったが、ロープの動きから、川底をあっちこっち動いているようだ
「…あ、上がって来た」
ピンクが言う
ミィが川から上がる
その周囲十センチくらいに、水除の魔法効果で空気の層が出来ている
「どうだ?」
「あ、あ、あ…」
「は?」
「あったのよ! ロープ! 取って! 早く!」
「マジで? ほらっ」
俺がロープを落とすと、ミィがそれを掴んでまた川底へ
しばらくして、また上がってくる
「ミィ姉、どうだったの?」
「結んだから引っ張って。川底だと、流れがあってうまく持てないのよ」
「分かった。ピンク、ソロン、一緒に引っ張ろ」
「はい!」「よし!」
フィーナ達三人で闘氣を発動
その身体強化作用で、一気にロープを引く
「うんしょ」「こらしょ」「どっこいしょ!」
「さすが…」
ロープが引かれ、重そうな金属製の箱が引き上げられていく
「マジか、かなりの年代物じゃないか。しかも大きいし」
「でしょ、この中身って…、お宝よ、絶対!」
ミィが肩で息をしながら、箱に駆け寄る
さっきまで川底で作業してたのに元気だな…
その箱は、現代で言う金庫のように見えた
鍵穴があり、頑丈そうな作りだ
「装飾があるね。この模様が四百年前のものなのかな」
「錆びちゃっててよく分からないね」
ピンクとソロンが珍しそうに観察する
もしかしたら、本当に始源戦争時代の遺物かもしれない
そうなら大発見だ
「よし、扉を壊して…」
「待てって、ミィ。この箱自体も価値があるぞ、四百年前のものなら」
「でも、中身が…」
「キュイ!」
「へ?」
その時、箱の裏側で変な声がした
俺達が裏に回ると…
「これ、ミィのスライムじゃないか」
「あ、穴が開いてる」
箱の裏側の角が欠けており、穴が空いている
おそらく、落ちた時に壊れたのだろう
中は、どうやら空っぽのようだ
「下から中身が零れ落ちて川で流されたみたいだな」
「…結局、儲け無しってこと!?」
「俺に言われても…」
「キュイ!」
その時、箱の中からスライムが出てきた
その口? には、丸い金貨を加えている
「え、あなた持って来てくれたの?」
「キュイ」
「…これ、本物の金貨じゃない? 変な文様が彫ってあるし」
「ほ、本当だ。まさか、南の国で使われていた金貨なのか?」
「そうだったら、大発見かも!」
フィーナが金貨を覗き込む
「わー、ミィさん凄い!」
「やったね!」
ソロンとピンクも、金貨を咥えたスライムを覗き込んだ
始源戦争 一章 第七話 受験本番
★魔法




