三章 第二十三話 セリア・ドルグネル
用語説明w
セフィリア
竜人の女性で龍神皇国の貴族ドルグネル家の若き当主。ドルグネル流武器術を修め、騎士としても活躍中。その長く美しい金髪から、金髪の龍神王と呼ばれているドラゴンエリート
ミィ
魚人の女子。騎士学園時代にラーズとパーティを組んでいた。金勘定が上手く、戦闘よりもアイテム調達で貢献、騎士団の運営に興味を持ち、龍神皇国立騎士大学へと進学した
龍神皇国 中央区
龍神皇国立騎士大学
「セフィ姉ー!」
ミィは、長い金髪を輝かせる美女に駆け寄る
「ミィ、授業は?」
「もう終わり」
「それなら、お昼に行かない?」
「行く行く!」
ミィとセフィリアは、一緒に町へと向かう
騎士大学は、龍神皇国騎士団の幹部候補生を養成する大学だ
騎士としての訓練も行われるが、それ以外にも様々な専門分野を学ぶことができる
ミィの専門は経済学だ
「大学には慣れた?」
「もちろん。ここで知り合いをたくさん作って、将来に繋げないとね」
ミィが拳を握る
騎士大学は、大きな組織である騎士団以外にも、様々な国の要職へと進む者がいる
つまり、将来騎士団に入るミィにとって、そのコネクションは力となるのだ
「相変わらず、要領がいいわね」
「それはそうだよ。ヤマトやフィーナみたいに、私は戦闘力には恵まれなかったからね」
ミィは、ヤマト、フィーナ
そして、ラーズと共に騎士学園時代はパーティを組んでいた
そのパーティはダンジョン踏破数が騎士学園の学年トップ
更に、セフィリアの叩き出した学園記録にまで到達して見せた
ミィの職業は商人
ダンジョン内で得たアイテムや素材の売却、ダンジョンで使うアイテムの仕入れに特化した能力だ
その恩恵は、パーティにとっては計り知れない
アイテムの大量消費によって、神童セフィリアの記録に、半ば強引に並んで見せたほど
だが反面、ミィの戦闘力は並み
搦め手や補助的な動きで大きく貢献はするものの、火力という点では近接攻撃特化のヤマト、魔法攻撃特化のフィーナには大きく劣る
その点を、ミィはしっかりと理解していた
「ヤマトは訓練を頑張ってるわよ。騎士団でも注目されてるわ」
「戦闘バカだもんね」
「フィーナも、騎士団に何度か訓練に来たのよ。モンスター狩りに何度か行ったわ」
「一緒にご飯食べたよ。狩りの後に」
ミィとセフィリアは、近くのレストランに入る
「セフィ姉、今日はどうして騎士大学に来たの?」
「雑用よ。大学の理事長に話が、ね」
セフィリアは騎士団に所属
騎士団と騎士大学は密接な関係があるため、セフィリアも頻繁に騎士大学に顔を出している
「そう言えば、ヤマト。騎士団に入ったら勉強が無いと思ってたのにって怒ってたよ」
ミィが笑いながら言う
騎士団では、法律の知識が必要になる
法治国家である龍神皇国内で武力を使う以上、それは仕方のないことだ
更に、モンスターの特性やその分布、地域、フィールド、環境とその対処方法
魔法、特技の知識も必要であり、意外と勉強することは多い
「勉強は嫌いだったものね」
セフィリアも微笑む
「あいつ、要領が悪いのよ。ほどほどに勉強しとけばいいのに、全力で訓練して疲れ果てて寝ちゃうんだから」
「ヤマトらしいわ」
「でも…。結局、一番要領が悪かったのはラーズかもしれないよね」
「ラーズが?」
「だって、騎士を諦めちゃったから」
「…」
ラーズは、自分で騎士にはなれないと諦めた
チャクラ封印練という封印術を使って、自分の力を失った
十年という長い年月、霊力と氣力を封印することで、その総量を上げられる可能性がある鍛錬
その代償として、騎士として必要な技能である魔法や特技、闘氣という超常的な技能を失ったのだ
「ラーズ、自分で力が無いって思い込んじゃってさ。無理に封印練なんてやっちゃって。真面目過ぎるんだよ」
「真面目?」
「だって、セフィ姉をずっと見てたから実力が無いなんて言ってたんでしょ。ラーズ、私なんかより全然、騎士としての実力はあったと思うのに」
「…」
「それなのに、セフィ姉を基準に考えちゃうから、自分は無力だなんて思い込んじゃうのよ」
「…騎士は適材適所よ。ミィだって、騎士として大きく伸びるわ。火力だけでパーティは回らない、火力は出せる人が出せばいいのよ」
セフィリアは、ふと窓の外の空を見上げる
本当は、ラーズを騎士団に入れたかった
そして、ラーズを育てたかった
でも、ラーズはいつの間にか自立していた
自分でチャクラ封印練を、そして大学進学を決めてしまった
初等部のころは、ずっと私の後をついて来ていたのに…
それがちょっとだけ寂しかった
「ラーズ、チャクラ封印練が終わったら私の所に来てくれるかしら…」
「セフィ姉、本当にラーズのことが好きだよね」
「ふふっ、そうね」
「意外と、大学が終わったら来るかもよ? 就職活動もあるし、コネが欲しいって」
「それもいいかも。騎士団に…」
「冗談で言ったのに」
ミィとセフィリアは、運ばれてきた料理に目を向ける
お昼時で込み始めた店内は、料理のいい香りが広がっている
「そう言えば、もう少ししたらラーズと宝探しに行くんだ」
「宝の地図だっけ?」
「そうそう。お宝が出てくれば…」
「ラーズは、もう闘氣が使えないのよ。気を付けてね」
「まっかせてよー!」
瞳がゴルド色に染まったミィを見て、セフィリアはこれ以上の注意を諦めたのだった
・・・・・・
龍神皇国 中央区
ドルグネル家の屋敷
龍神皇国の貴族の一つであるドルグネル家は、多忙を極めている
その理由は、再興のためだ
前当主であり、セフィリアの実父であるジュリアノ・ドルグネルは、現在の貴族界の体制に対して反対を表明していた
異端の貴族だったのだ
そのため、貴族界からは逆風に晒され、そんな中で飛行機の墜落事故が発生、帰らぬ人となった
その後、当主代行を務めたのが、ジュリアノの妻でありセフィリアの実母であるセリア・ドルグネルだった
「お母さま、今日は久しぶりにミィに会ってきましたよ」
セフィリアは、セリアに話しかける
セフィリアは、自らの正義のために信念を貫いたジュリアノ
そして、博愛の精神を持ち続けたセリアを尊敬している
セリアは、ドルグネル家とセフィリアを守るために一生懸命に働いた
文字通り、昼夜を問わずにだ
その理由は、貴族界からの村八分と結託
ジュリアノが亡くなってから、ドルグネル家の利権を狙って他の貴族が一斉に動いたからだ
ドルグネル家が行政権を持つ領地運営や、ドルグネル流という剣術と槍術の流派の運営
更には、各種法人の運営などがあっという間に危機に陥った
しかも、貴族特有の税金を支払う義務もある
その税金が支払えなければ、他の貴族がそれを名目としてドルグネル家の利権を奪うこととなる
「ヤマトとフィーナも、訓練を頑張っています。将来はいい騎士になりそうですね」
セリアが眠る部屋には、紅茶のいい香りが漂っている
………そんな中、ドルグネル家はあるトラブルに巻き込まれた
ある大口の依頼を受けることとなったのだ
だが、それは罠だった
その依頼は犯罪集団からの依頼であり、その依頼を貴族であるドルグネル家が受けてしまった
犯罪の片棒を担いでしまったのだ
これにより、ドルグネル家は糾弾された
社会的な信用を失ってしまったのだ
そんな心労がたたってか、セリアはついに倒れてしまった
「ラーズも、大学生活を楽しんでいるでしょうか」
セフィリアは、空になったティーカップとポットをお盆に戻す
この部屋にはメイドも入れていないため、セフィリアは自分で片付ける
セリアが倒れてからは、当主代行に叔父、セルジオ・ドルグネルが就いた
ジュリアノの弟だ
だが、その実権をセフィリアが実力で取り戻した
今では、名実ともにセフィリアが当主であり、内外でそれに異を唱える者はいない
セルジオでさえもだ
若き当主、セフィリアはドルグネル家を再興する
社会的信用と地位を取り戻し、貴族の序列を上げる
両親が理想とした、国の在り方を実現するために
この国の不条理を少しでも減らすために
そして、ジュリアノの死の真相、セリアをハメた罠の真相を明らかにするために
「お母さま、そろそろ行きますね。また来ます」
セフィリアは立ち上がる
そして、静かに眠る母に、少しだけ寂しそうな表情を見せた
…セフィリアの母セリアは、大きなカプセルで眠っている
回復溶液を満たした医療用機器であり、医療カプセルと呼ばれるもの
セリアの健康状態を常にモニターでき、眠り続けることで起こる筋肉の減少や血流の悪化を抑える機能がある
セリアが倒れたのは、今から約十年前
その時以来、目を覚ましていない
もちろん、手は尽くした
現代の魔法科学の医療はもちろん、高次元生命体の力を借りる召喚魔法の一種、神聖魔法さえも
だが、起こすことはできなかった
セフィリアは、母への挨拶を済ませると屋敷を後にする
そして、今日も騎士団の仕事とドルグネル家の運営に追われるのだった
ジュリアノ 二章 第二十話 冷遇




