三章 第十八話 メンテナンス
用語説明w
アルバロ
神族の男性で、ラーズの人文学部の同期。女好きで合コン好き。チャラく緩く大学生活を楽しんでいる
ピッキ
クサナギ霊障警備の社員、ノーマンの男性でシステム管理と運転、操縦担当。ゲーム感覚で情報端末や車、MEBを動かす。風貌は古のオタク、運転中以外はござる口調の人見知り
ビアンカ
クサナギ霊障警備の社員、ダークエルフの女性で元軍人、圧縮空気を推進力として利用するホバーブーツという変わった装備を使う。武器はククリナイフとハンドガン
講義 魔導物理学
魔導物理学とは、理論魔導法学の一つ
魔法という現象によって引き起こされる物理現象についての学問だ
例えば、重力属性魔法によって局所的に重力を強くできたとしよう
その場合、その周辺の時間や空間が歪むことになる
この理論は、一般相対性理論という物理学の理論によって説明がつく
つまり、魔法によって引き起こされた物理作用は、物質的な物理作用と変わらない
これを、物理法則の統一性という
物理法則は、魔法によって引き起こされても現実と変わらないという法則だ
しかし、魔導法学においては、この物理法則の統一性が大問題だった
それはなぜか?
魔導法学には属性という概念があるからだ
重力属性は、電磁気力を司る雷属性、小さい核力を司るノクリア属性、大きい核力を司るソラコア属性らと同じ物理属性に属する
だが、重力によって時間や空間が歪むという現象は、物理属性である重力属性が、時空間属性に属する時間属性や空間属性に作用するということになってしまう
魔力が一つの属性に変化した場合、そこから別の属性に変化させるのにはエネルギーがいる
属性エネルギーを、また魔力の状態に戻す必要があるからだ
魔力が属性に変化するのは自然なことだが、属性エネルギーが魔力に戻る場合は自然には起こらない
木が燃えて炭になれば、再び木には戻らない
微生物によって分解され、養分となり、別の木に吸収されて光合成をもって再度成長を繰り返すこととなる
自然界のサイクルによって、つまりはエネルギーを使うことでしか元に戻らないからだ
つまり、魔導法学では、一つの属性エネルギーが別の属性作用のように働くという現象が受け入れられなかったのだ
だが、この物理法則の統一性が提唱されてから、実は一つの属性が引き起こしている現象に複数の物理作用が関わっていることが次々と証明された
火属性の照明は、光という雷属性の作用
逆に、雷属性の照明は、多少の熱エネルギーの放散を行っていることから火属性の作用
更に、水属性と冷属性による氷の生成は、固体を司る土属性の作用
土属性自身魔法は、固体に振動を与える作用だが、これは力学属性による力の伝播と同種
などなど…
属性エネルギーは一つでも、複数の物理属性が関わる
この発見は、正に科学と魔導法学の融合の幕開け、魔法科学文明の狼煙となったのだ
「おい、アルバロ」
「んあ?」
「終わったぞ。出席の紙を集めてるから書けよ」
「おお…、サンキュー。今日の授業も難しかったなぁ」
「物理系が入って来ると難しいよな」
「全部聞いてたのか?」
「まぁ、なんとなくでも意外と面白かったよ」
「優等生め」
教室から、ぞろぞろと学生が出て行っていた
・・・・・・
クサナギ霊障警備
「こんにちはー」
一階の事務所に入ると、応接セットでレイコ社長とプリヤさんが男性客二人と話をしていた
どちらもスーツ、営業だろうか
チラッと見ると、テーブルの上にはお茶が出されていない
奥を見ると、ピッキさんが席に座っていた
「お疲れ様です、ピッキさん」
「おう、でござる」
「お茶、出した方がいいですか?」
「拙者、コミュニケーション系は見ない振りをしているので分からんでござる」
「清々しいですね」
俺は廊下の給湯室へ行き、湯呑と茶托を用意
お盆に二セット乗せてお茶を入れる
「どうぞ」
「あら、ありがとう。ラーズ」
「どうぞ、飲んでください」
資料を読んでいたプリヤさんが、お客さんに勧める
俺はお茶を置いて、席へと戻る
「ピッキさん、今日は依頼は入ってないんですか?」
「そうでござる。今日は、もうやめようでござるよ」
「ゲームしてていいんですか? あ、それってサモナーの杖ですね」
「ラーズ、知ってるでござる?」
サモナーの杖とは、モンスターを育成してパーティを組む対戦ゲーム
多種多様なモンスターに特殊技能を持たせたり、耐性を持たせたりして、個性あるパーティを作り上げる
俺も騎士学園時代、特に初等部の頃にハマっていた
だが、何時間もかけて育成したパーティが、対戦でぼろクズのように叩き潰される絶望感に心が折れてしまったのだ
あの絶望感と勝った時の達成感
この中毒性は、未だにサモナーの杖の新作がリリースされていることからも評価の高さが伺える
ちなみに、レイコ社長もサモナーの一人
かなりハマっていた
「それじゃあ、ラーズもやるでござるよ。今回の新作は、サモナー自身からの防御魔法とトラップ魔法で…」
「あんた、今日中にMEBのメンテナンスを終わらせなさい」
「え?」
振り返ったピッキさんが固まる
その後ろに、視線で人を殺しそうなプリヤさんが立っていた
「人件費とは会社の生産性に当てるべきもの。あんたは、その会社制度に唾を吐いた」
「そ、そんな大げさな。それに、MEBのメンテなんて三日はかか…」
「あんたのゲームの時間を費やせば余裕で終わるわ。リミットは明日の朝まで。出来なければ、営業職を言い渡す」
「ちょっ、拙者に営業なんて殺す気で…」
「嫌ならメンテで成果を上げなさい」
「…!」
ピッキさんが、慌てて地下の駐車場へと降りて行く
「プリヤさん、契約は終わったんですか?」
「今日は仕事の依頼じゃないわ。調査依頼よ」
「調査?」
「今、来ていたのは警察庁の公安よ」
「公安…、警察官だったんですか」
スーツだったから分からなかった
「なんかねー、シグノイア内で霊障が増えてるんだってさ」
レイコ社長がやって来る
「商売繁盛ですね」
「それはそうなんだけど、霊障が増えるのには理由があるでしょ」
「確かに…」
「しかも、警察庁が動くレベルだと、ちょっとの量じゃないと思うんだよね」
「ラーズが来てからも、大物の依頼が多かったものね。邪妖精とか、銛に宿った悪霊とか」
「あんまりないんですか?」
「普通は、人が取り憑かれたとか、呪いを解くとか、物件の地縛霊とかが多いよ。油断はできないけど、今すぐにどうにかしなきゃいけない依頼なんて、あまりないよ」
「そうなんですか」
このバイト、危険度マックスだと思ってたけど、それはたまたまだったのか
「うちみたいな零細企業は、ほどほどの依頼数じゃないと消化なんてしきれない。装備や機材のメンテナンスにだって時間がかかるから」
「零細は余計だ!」
霊障が増える理由か
想像もつかないけど、どうしたらいいんだろ
「お、ラーズ。今日は出勤だったか」
「ビアンカさん、お疲れ様です」
「ちょうどいい、上に来い」
俺は、ビアンカさんに連れられて二階に上がる
「何をするんですか?」
「ホバーブーツのメンテナンスだ。覚えておけ」
そう言うと、エンジンカッターやレスキューアックスなどの工具が置かれている二番目の部屋に入る
この奥には、ホバーブーツのメンテ用に机が置かれていた
「これがバッテリーカートリッジだ」
「はい」
「動力は圧縮空気でも、制御自体は電力だ。使う前には電力量を確認しろ。表示はこのランプを見れば分かる」
「分かりました」
俺はメモを取る
もう一回聞いたら、スイッチが入ったビアンカさんに怒られそうだし
「そして、これが圧縮空気のカートリッジだ」
「こんな小さいのに、あれだけ動けるんですね」
「風魔法を使って封入しているからな。かなり高密度だ」
ホバーブーツのエネルギー源、圧縮空気
これを吹き出すことによって、身体を浮かせて抵抗を失くし、エアジェットで推進力を得る
「万が一、このカートリッジが壊れたとしよう」
「どうなるんですか?」
「爆発の衝撃はもちろんあるが、それだけではない。凍死する」
「と、凍死?」
エアカートリッジ内は、圧縮空気が封入され、凄まじい高圧になっている
その圧力が解放された場合、急激に減圧された圧縮空気の温度は極端に下がる
つまり、巻き込まれた場合は、爆発の衝撃に加えて極低温に晒される
ほぼ確実に死ねるというわけだ
「こ、怖っ!」
「だからこそ、このカートリッジの扱いは慎重にな。ホバーブーツに挿入していれば保護カバーがあるから大丈夫だが、このカートリッジを落としたり放置したりすれば、衝撃や圧力で不具合がでる可能性がある」
「き、気を付けます…」
「それと、カートリッジが小型な分、使用時間はジェットエンジンなどに比べて短い。予備を持ち歩く際も、必ず専用ケースに入れるように」
「はい、絶対に守ります」
「説明はこんな所だ。それじゃあ、訓練に行くぞ」
「は、はい!」
…今日は依頼は無し
「この軟弱者が! 倒れたら二秒以内で立ち上がれ! 」
「ひぃっ、はい!」
ビアンカ師匠に散々怒鳴られながら、俺はまた何度も転び、吹き飛び、痣だらけになるのだった
理論魔導法学 二章 第十話 特訓1
サモナーの杖 三章 第四話 アパートの除霊1




