三章 第十五話 長い夜2
用語説明w
ケイト
茶髪の獣人女性。トウデン大学体育学部の先輩で柔道部。明るい性格、ふくよかな胸でキャンパス内でも人気が高い。したたかな性格のヤワラちゃん
ロン
黒髪ノーマンの男性。トウデン大学体育学部でラーズの同期。形意拳をやっていたが、ゴドー先輩の強さに感化されて総合空手部に入部。熱い性格で、ラーズとよくつるんでいる
ケイト先輩が膝をつき、鼻を押さえる
その手の下から、血がポタポタと落ちていく
「ケ、ケイト先輩!」
俺が叫ぶと、ケイト先輩がふらつきながら立ちあがった
「お、いいね。気の強い女は大好物だよ」
殴った運転手の男が言う
「このっ…!」
「おっと、お前の相手は俺だぜ」
タオが俺の前に立ちふさがる
「ふざけんなぁぁぁっ!!」
ロンがキレるが、今度は助手席座っていたデカい男がロンの前に立つ
「タオは使えないけどさ、この女は当たりだね」
「くっ…」
「お、まだ心が折れてないのかぁ」
ケイト先輩が、運転手の男に掴みかかる
「うおぉぉっ!」
ガッ
俺が走り出すと、タオが拳を振るい、体当たりしてまで止めて来る
「邪魔するなぁ!」
「うるせーな、黙って見とけ!」
俺はタオを引き剥がそうとするが、タオは執拗に俺を離さない
「何だよ、お前の女なの?」
「女を殴ってんじゃねーよ!」
「俺達全員で仲良く中出ししてやるからさ。その後で、まだ惚れてられるか試してみなよ」
「このクソ野郎!」
俺は振り返ると、全力でストレートを打ち込む
ゴッ!
きれいに入り、タオが後退る
だが、タオも引かない
「このっ、お前には俺の屈辱のツケを払わせる! 後悔しろ!」
ガッ
タオの拳が顔に入る
テメーの、その意味の分からねーキレ方は何なんだ!
「ふざけんなぁっ、どけっ!」
思いっきり踏み込んでのワン・ツー!
その勢いに、タオがビビったのが分かる
顔に入れて、止まらずに追撃!
左フック! 右ミドル!
「ごはっ…」
全てがガッツリと入った
タオが尻もちをつく
…ふざけんな!
キレてんのはお前じゃねえ、俺だ!
俺は思いっきり顔を蹴りつけて振り向く
同時刻
ケイトは運転手の服を掴もうと狙う
だが、その手を運転手が手で叩き落とす
これはパーリングという防御技術だ
この男はボクサー
少なくとも打撃系の格闘技経験者だ
「やっ!」
何度目かの組手争いで、ケイトは男のティーシャツの肩口を掴むことに成功した
行ける、崩して投げ………
パパン!
「…っ!!」
カクンと膝が落ちる
近づいて掴みに来た所で、ケイトの腕を避けるようにアッパー、フックを入れられる
予想していなかった、掴んだ状態でのパンチ
瞬間的に意識が飛んだ
効かされた
ドスッ…
「かはっ…」
動きが止まったところでボディ
呼吸ができず、ケイトは座り込むしかない
男は、容赦なくケイトの頭を蹴り飛ばす
そして倒れ込んだケイトの顔面にパンチを落とす
ビリィィッ
そして、ケイトのシャツを力任せに破る
ケイトの下着が露わになり、男はニッコリと笑った
同時刻
ロンは助手席の男と向かい合う
骨格がデカい
そして、喧嘩慣れしてそうな落ち着きぶりだ
「おらぁっ!」
いきなりフルスイングのパンチ
続けて、蹴り
またパンチだ
大振りだが、隙の少ない連携
格闘技という感じではないが、喧嘩で鍛えてきたのは分かる
ドッ!
ロンが男のパンチを受ける
だが、同時に…
ゴッ!
ロンのストレート
左腕で男の腕を掴み、ストレートを打った右拳を引いて即座に振るう
アッパー気味の下から上へのストレート、鑚拳
形意拳の崩拳同様に五行拳一つ
下から、インパクトの瞬間に拳をキリのように返す突きだ
「ちっ…」
男が蹴り込み、ロンを突き放した
一瞬、見合い、すぐにお互いが踏み込む
ゴガッ!
「ぐ…」
ロンの左フックが直撃
男の拳は逸れる
しかし、すぐさま男はロンの服を掴んで押し込む
ロンが腰を落として受け止める
ストレート
フック
右から左へのコンビネーション
更に、ロンは左前の構えから、右足で男の左膝の内側を踏み込む
「うおっ…!」
男が膝を蹴り曲げられ、体勢を崩す
そのまま、ロンが右足を地面に踏み込んで右前の構えに
ズドォッ!
「がふっ…!」
着地と同時に、左の崩拳が男の右脇腹に突き刺さった
「…くそっ、てめぇ、何かやってやがるな。変な動きしやがって」
「形意拳。これは、その中の龍形拳だ」
形意拳とは、五行拳と呼ばれる五つの基本の突き、劈拳・崩拳・鑚拳・炮拳・横拳をベースとした拳法だ
更に、形意拳には五行拳の応用形があり、それぞれが動物を模した十二種類の象形拳であり、十二形拳と呼ばれる
十二形拳には、龍形・虎形・鷹形・熊形・蛇形などがあるが、ロンは名前がかっこいいからと龍形拳の触りだけを練習したのだ
「…」
男は立ち上がる
こいつはガタイがいい
それだけ、タフということだ
格闘技において、骨格の大きさはタフさに比例する
階級性を導入した理由は、デカさは技よりも強いから
この真実は揺るがないからだ
ロンは、チラッとケイト先輩に目をやる
…座り込んで服を破られている
だが、ラーズが運転手の男の前に立っていた
タオを倒して助けに行ってくれた
ここはあいつに任せる
このデカい男は弱くない
俺は、こいつ集中する
………俺が殴りかかろうとすると、運転手の男がケイト先輩から手を放して向き直る
「ちっ、タオの奴、どんだけ使えないんだって。服を破く時間も稼げないのかよー」
「お前、女の顔面を蹴るって…!」
「女ってさ、服を破って脱がしとくだけで逃げられなくなるんだよ」
「こ、このクズ野郎…!」
俺は別に正義の味方じゃない
だが、むかつきすぎて仕方がない
ここまで話が通じない、頭のおかしい奴がいるのか…!
「お前、ボクサーか? お前ごときのパンチ、俺には通じないよ。諦めて俺の下につけよ。そうしたら、この女も抱かせてやるし、他の…」
「…」
俺は無視して間合いを詰める
「ラーズ君、気をつけて! そいつ、ボクサー。多分、プロレベル…!」
「ケイト先輩、大丈夫ですか!?」
ケイト先輩が手をついて上体だけを起こす
だが、その手が震えている
女を殴って蹴って…
しかもボクサーだと?
ボクサーが拳で、女のケイト先輩を殴りやがったのか!
俺は構えたままジャブ
即座にストレート、左フック
ゴッ!
「ぐっ…!」
だが、しっかりと見られていた
左フックにカウンターでストレートを入れられる
「しっ」
ジャブ
パパン!
軽いワン・ツーを返される
ゴッ
ゴッ
ジャブがガードの隙間から飛んでくる
「このっ…」
ゴガッ!
前に出ようとした瞬間に、一発貰う
くそっ、左フックか
ダメだ、こいつはパンチが上手い
それなら…
バシッ
ジャブをガード
ストレートをフェイントにロー!
ドシッ!
「痛ぇー…」
呑気に嫌がるボクサー
スッ…
「な…」
無造作にボクサーが踏み込む
パパパパン!
「…っ!?」
早いコンビネーション
四つのパンチのうち、いくつか被弾
更に、ボディ、フック
畳み掛けられる
ガードから、思いっきりロー!
ストレートで突き放す…
ゴガッ…
「がっ…」
一瞬、ブラックアウト
気がつくと、地面が目の前にあった
うおっ、何を貰った!?
顎が熱い…、アッパーか?
まずい、全然見えなかった
やべぇ、針の穴を通すみたいにカウンターを決められてる
ゴッ!
ボクサーの無造作な蹴りが飛んでくる
慌てて腕で顔を守り、尻餅を付いた状態になる
咄嗟に出たのは、柔術の練習だった
右手を後ろにつき、右手と左足で尻を浮かせる
そして、右足を思いっきり引いて左手を前に突き出す
柔術立ちで、俺は立つ
地味だと思ってたが、柔術立ち、役に立つな!
「お前、見た目よりタフだなぁ。でも、もう諦めろって。俺には勝てねーよ」
ボクサーが構える
「…」
俺も、答えずに構える
…だが、本音はアッパーが効いてるからだ
答える余裕がない
でも、ボクサーだけあって蹴りは下手
顔面キックはガードできた
「何でそんなに本気になるんだよ。楽しく女をヤればいいのに。使い捨てにしてさぁ」
運転手が構える
クソぅ…、俺はなんて弱いんだ!
こいつは俺よりも強い
だが、負けられねぇ
ケイト先輩の姿が許せない
女を簡単に殴って蹴って…、使い捨てにするだと?
…殺してやる
絶対にグチャグチャに殴りつけてやる
俺は、歯を砕くくらい噛み締めながら足を踏み出した




