三章 第九話 工事現場が除霊現場1
用語説明w
MEB
多目的身体拡張機構の略称。二足歩行型乗込み式ロボット
レイコ社長
ゴーストハンター資格を持つ有限会社クサナギ霊障警備の社長、ドワーフの女性で童顔だが年上。クサナギ流除霊術を修めた凄腕だが、社長の割に威厳と権限は少なめ
ビアンカ
クサナギ霊障警備の社員、ダークエルフの女性で元軍人、圧縮空気を推進力として利用するホバーブーツという変わった装備を使う。武器はククリナイフとハンドガン
ピッキ
クサナギ霊障警備の社員、ノーマンの男性でシステム管理と運転、操縦担当。ゲーム感覚で情報端末や車、MEBを動かす。風貌は古のオタク、運転中以外はござる口調の人見知り
クサナギ霊障警備
事務所に入ると、全ての机が埋まっていた
「こんにちはー」
「おう、ラーズ」
「今日は出勤だったのか」
ホフマンさんとビアンカさんが手を挙げる
「はい、ちょっと間が開いちゃいましたけど」
「ラーズ、もう少しバイトに入れないかしら?」
「いや、授業と部活があって、なかなか時間が…」
「部活もやってたの? 何をやってるの」
「一応、空手部です。内容は総合格闘技みたいな感じですけど」
「へぇ、格闘技。あんまり強そうに見えないのに」
「自覚はありますよ…」
俺は自分の机にカバンを置く
「今日は何をすればいいですか?」
「まだ依頼が入ってないから、ゆっくりするでござるよ」
「それなら、ビアンカ。ホバーブーツの訓練をして来たら?」
プリヤさんが言う
「…そうだな。しばらく使ってなかったから、また忘れてるかもしれない。やるか、ラーズ」
「わ、分かりました」
俺は、二階に上がってエンジンカッターなどの機材が置いてある部屋からホバーブーツとプロテクターを持ってくる
「またビル裏の路地で練習しよう」
「分かりました。でも、バイト中に訓練っていいんですか? バイト代貰ってるのに」
俺はプリヤさんを見る
「もちろんよ。ラーズがホバーブーツを本当に使えるようになれば、うちは助かるわ」
「本当にって?」
「ホバーブーツの難しさとビアンカの厳しさで、みんな一日で音を上げたからね」
「…」
「ラーズ、ホバーブーツは本当に万能なの。素早く動けるし、小回りも効くし、囮にもなれるし。頑張ってね!」
「あの、最後に不穏なこと言いませんでした?」
「はい、行ってらっしゃい。お姉さんがジュースをあげるから」
「…ありがとうございます、って子供か!」
うまく言いくるめられ、俺はビアンカさんとの練習に向かった
ブオォォォォォッ!
ドガァッ!
「ぐはっ…!」
立って、進む
ホバーブーツの基本的な行為はこれだけ
しかし、この二つがどちらも死ぬほど難しい
・靴底からのエアの放出で浮き上がる
・踵からのエアジェットで推進力を得る
ホバーブーツの機能はこの二つだけ
機能としては非常にシンプルだが、靴底からのエアによって浮き上がるのがかなり厄介だ
抵抗を失くすことで速度が上がるという利点は理解ができる
だが、そのメリットは滑って立ってられないというデメリットと表裏一体なのだ
「ラーズ、すぐに起きろ! 戦場で寝ていたら、あっという間にハチの巣だぞ!」
「せ、戦場!?」
ゴガッ!
「ひっ!?」
ビアンカさんが全力で石を投げつける
俺のプロテクターのヘルメットを掠めて石が砕け、俺は慌てて立ち上がる
「すぐに走れ!」
「はいっ!」
ドガァッ!
「ぐはっ!」
「クソ虫が、すぐに立て!」
「ひいっ!」
何度も吹き飛びながら、俺はひたすらホバーブーツで道路を往復するのだった
・・・・・・
「お、戻ったか」
「はい…、疲れました…」
「ホバーブーツは一日にして成らずだ」
「分かってます、またお願いします」
そんな俺を、レイコ社長が見つめる
すげー近くで
「…何ですか?」
「ラーズって根性あるよね」
「そうですか?」
「ビアンカの指導を受けてへこたれないんだよ? 凄いよ」
「いや、まぁ、ビアンカ師匠にスイッチが入るとびっくりしますけど、教え方は上手ですよ」
「大したもんだよ、あのパワハラ指導でそんなこと言えるなんてさぁ」
「レイコ社長は五分で逃げたものな」
ビアンカ師匠が言う
「失礼な! 十分は頑張ったよ!」
「大して変わらん」
そんなレイコ社長は、お祓いの棒を取り出してウェットティッシュで拭いている
「レイコ社長、今日は暇なんですか?」
「プロたるもの、道具のメンテナンスは当たり前のことだよ」
「そのお祓いの棒は、どうやって使うんですか?」
レイコ社長の祓い棒は、地下水路で地縛霊が作った閉鎖封印空間を解除する時に使っていた
クサナギ流除霊術の道具なのだろうか
「この棒はご神木の枝を加工したものでね、霊力が通りやすくなっているんだ。だから、霊力を込めることで、強い力を放てるの」
「へー、凄いんですね」
「霊剣とかも同じだけど、霊的構造を持つ武器は霊体に干渉できるからね」
「霊剣ですか」
霊剣とは、霊的構造を持つ剣のこと
俺がセフィ姉から貰ったドラゴンブレイドも、ドラゴンキラーの霊的構造を持つ霊剣の一種だ
「みんな、聞いて! 緊急性のある依頼が来たからすぐに準備して。危険度はMAX、全部の装備を持って行くわ」
電話をしていたプリヤさんが振り返る
「内容とフィールドは?」
ホフマンさんが尋ねる
「フィールドは工事現場。悪霊が暴れているみたいだけど、敵の特徴は不明。ただ、工事用のゴーレムや重機が動いたって話よ」
「それは危険だな」
ビアンカ師匠の表情が変わる
「それじゃ、すぐに準備しよ! ピッキ、MEB持っていくよ!」
レイコ社長が言う
「えー…、めんどくさいでござる」
「よし、ピッキは裸でゴーレムの相手をさせましょう」
「プリヤに賛成」
「俺もだ」
「私も!」
「ちょっと待つでござる! 冗談でござろうが、コンチクショウ!」
「余計な事ばかり言うからだ。さっさと準備をしろ」
ホフマンさんに窘められ、ピッキさんがブツブツ言いながら地下の駐車場へと向かった
ブロロロ…
クサナギ霊障警備の社用車で現場へと向う
「お、重いでござる! 中古のミニバンじゃパワーが足りない、SUVにするでござるよ!」
「それで六人全員分の荷物が乗らなかったらどうするのよ。無理ね」
「傲慢銭ゲババァ」
「よし、繁華街で蹴落としてやる」
「すみませんでしたぁぁぁぁっ!」
いつもよりもゆっくりのスピードでの運転
ピッキさんらしからぬが、これは純粋に荷物が重いからだ
銃に弾薬だけでもかなり重い
そこに小型とはいえMEBを後ろに牽引しているのだ
普通の乗用車では、エンジンが悲鳴を上げるのも無理はない
「プリヤ、次はトラックにしたほうがいいな。ミニバンだと着替えるのも一苦労だ」
「今日は全員出勤だからね」
ビアンカさんにプリヤさんが答える
今日はクサナギのフルメンバーでの除霊
初めてのことだ
ちなみに、座席は運転席と助手席にピッキさんとプリヤさん
二列目のシートに体の大きいホフマンさんとビアンカさんが座る
その間に体のちっちゃいレイコ社長がサンドイッチみたいになってる
ちょっと面白い
そして、俺はというと、三列目のシートを倒して荷物を突っ込み、その隙間に挟まっている
もちろん、ホフマンさんの銃やレイコ社長の除霊道具で後ろはパンパン、本当の意味で隙間に挟まっている感じだ
「着くでござるよ!」
「は、早く…」
「狭いよー!」
俺とレイコ社長はもう限界だ
「た、助かった…」
やっとのことでついた今回の目的地
車を降りて存分に体を伸ばす
圧死するかと思った…
そこは、街から少し離れた田舎の森の中にある工事現場だった
「車が壊されてる」
「横転させられてるって…、やったの絶対にあれじゃん!」
レイコ社長が見つけたもの
それは二メートルほどの体躯を持つ石像だ
「動きませんね」
「でも、霊力は宿ってる。ゴーレムに間違いはないよ。ピッキ、あんたの出番だよ」
ビアンカ師匠が言う
「拙者、一人では嫌でござる」
「私がフォローに入る。あとラーズもな」
「へ?」
「プロテクターも着けてるし、ホバーブーツ訓練の成果を見せてみろ」
「いや、全然走れてませんけど!」
俺達は、佇む石像の包囲のために動きだした
ドラゴンブレイド 一章 第五話 奥義




