序章 第五話 魔法
用語説明w
ヤマト
獣人の男子。騎士学園時代にラーズとパーティを組んでいた。騎士としての実力は高く、龍神皇国騎士団にスカウトされた。元ボクシング部で、ラーズにパンチをを教えたことも。
ミィ
魚人の女子。騎士学園時代にラーズとパーティを組んでいた。金勘定が上手く、戦闘よりもアイテム調達で貢献。騎士団の運営に興味を持ち、龍神皇国立騎士大学へと進学した。
「イディ、講義は終わった?」
「珍しいわね、あなたがルーキーに興味を持つだなんて」
弓使いのドワーフの女性騎士
名をフィロメナという
彼女の持ち味は弓の腕だが、もう一つある
それが、魔法の運搬だ
「黙ってろ、フィロメナ。さっさと仕事をしろ」
「ちょっと、私はあなたを待ってたのよ?」
フィロメナは、ちょっと怒って言い返すと、フィーナを連れて来た魔法使いの騎士に顔を向ける
「イージュン、いい?」
「ええ、もちろん」
イージュンが杖を掲げて魔法を構成する
「…冷属性範囲魔法」
「正解。大きいモンスターにはこっちよね」
イージュンがフィーナに微笑む
魔法とは、精神の力である精力、霊体の力である霊力の合力である魔力を根源とする技能
魔力に一定の法則を持たせることで、属性エネルギーへと変換させることが出来る
この魔法には、二つの放出方法がある
つまり、攻撃魔法には、二種類があるということだ
一つは、投射魔法
杖から設定した方向にエネルギーを放出し、投射する魔法だ
熟練者ともなれば、複数の魔法弾を放射したり、広範囲に放射するなどのアレンジも可能
エネルギーとしてではなく、魔力として発射し、着弾時に属性に変化するものもある
例えば、雷属性は電力のため、空気中では拡散してしまう
そのため、魔力である魔法弾の状態で発射し、一定距離で電力に変化させて迸る
また、弱体化系の魔法もこのタイプだ
そして、もう一つが範囲魔法
この世と重なっている幽界を経由して発動点を設定し、その地点からエネルギーが一定範囲に広がる
そのため、強固な鎧や装甲を持つ対象の内部に発動点を設定できれば、内側から破壊することが可能
更に、盾や障害物の内側で発動することもできるため、銃や砲撃などの兵器と共に、範囲魔法は現代の戦場においての主力兵器となっている
フィロメナが弓を引き絞って射出
強度の高い弓を、特技をによって筋力を増強して使っている
ヒュルルルル………
風を切る音と共に、矢がズメイの中央首の付近に命中
シャキキキーーーーーーーーーン!
甲高い氷のきしむ音が響き渡り、ズメイが超低温で覆われる
「グガ……ガ…ガ………」
ズメイが苦しそうに痙攣、うめき声を上げる
着弾地点から迸った冷属性範囲魔法が、ズメイの表面ではなく体内方向へと浸透
冷気が生体活動を著しく低下させているのだ
バリバリバリッ バチバチバチッ
「グオォォォォーーーーーーーーッ!!」
ズメイが、体内の輪力を集める
肉体を活性化させてブレスの準備に入ることで、代謝を上げて冷気の影響を跳ね除ける
「やっぱり、Bランク以上のドラゴンはタフね」
「まずいっ、こっち、狙われてる!」
イージュンがのんびり言った直後、フィロメナが叫ぶ
ズガガァァーーーーーーーーッ!
閃光のごとき、雷属性のドラゴンブレスが発射
危険な範囲魔法をぶつけられた、イージュンとフィロメナを狙っている
範囲魔法の欠点は、その射程距離にある
攻撃距離においては、銃が圧倒的
対して、魔法はよくても見える範囲にしか発動できない
そのため、射手という技能を媒介させることによって魔法を発動する
射手が使う弓と矢は、魔法を付加するための文様があしらわれており、遠距離に範囲魔法を届けることが出来る
矢は、射手の腕にもよるが、ある程度の軌道制御が出来るため、曲射などの芸当が可能
砲撃よりもはるかに広範囲に広がる範囲魔法を、遠距離の狙った地点に届けることが出来るのだ
そして、それはモンスターにとっても脅威であり、ヘイトを取りやすいポジションとなる
「イージュン!」
「はいはい、人使いが荒いわぁ」
イージュンが杖を構えると、目の前に波が立ち上がる
水属性波浪魔法だ
魔導法学には、属性という概念がある
属性とは、魔力や輪力の性質のことだ
例えば、水属性なら魔力や輪力が物質化し、液体のような性質となる
そして、雷属性にぶつけることで放電を促進、術者への強力な攻撃を散らせる防御魔法となる
他にも、風属性風流の魔法、土属性土壁の魔法、力学属性障壁魔法などが防御魔法として有名
これら防御魔法を使って、敵の強力な攻撃を阻む役割を盾役と呼ぶ
敵の接近を阻む壁役と共に、パーティの生命線だ
「よし、仕留めろ!」
イディが、バズーカ砲の次弾を装填
発射する
ドッガァァァァァン!
爆発の衝撃で、凍っていたズメイの鱗がひび割れる
「うおぉぉぉっ!」
ヤマトとイディ、メイスとタワーシールドを使うアーロンが近接攻撃を繰り出す
三人の総攻撃と位置取りによって、ズメイの動きが抑制、移動が上手く封じられている
「フィーナ、範囲攻撃を」
「はい!」
イージュンとフィーナが杖を構える
イージュンが冷属性範囲魔法(中)を発動
空中に凄まじい冷気が発生し、ズメイの上半身と首が霜に覆われる
これは、足元で戦っている前衛を巻き込まないためだ
ボボォォッ!
フィーナの火属性範囲魔法(小)がズメイの背中側に発動
焼け焦げた匂いが漂う
フィーナは、俺とヤマト、ミィより年下のため、魔力量が少ない
そのため、まだ範囲魔法(中)が発動できていない
騎士学園時代は、その魔力量を補うために、複合魔法を身に付けて爆発的な威力を叩き出した
範囲魔法(中)が使えるかどうかが、プロの魔法使いかどうかの指標となるのだ
とは言っても、フィーナは魔法使いの中では魔力量が少ないだけであって、悔しいが俺よりは上だ
「ミィ、首を狙える? 頭には当てないで」
「やってみます!」
フィロメナが、ボトルに入った液体に矢じりをつけて弓を引き絞る
これは龍喰らいの実から取ったドラゴンキラー用の毒
ドラゴンの体内に撃ち込めば、徐々に生命力を低下させることが出来る
ミィも矢じりを毒につけ、ボウガンを構える
ドシュッ!
ズドッ!
「ギャオォォォーーーー!」
ズメイが悲鳴を上げる
間もなく仕留めるな
俺がそう思った時…
「まったく、気が抜けたわね」
「え?」
セフィ姉が純白の剣を引き抜いた
セフィ姉の美しい真っ白い双剣の一本
柄に魔玉が埋め込まれており、杖の役割である魔法強化機能を持つアイブリッド武器で、国宝級の一品だとか
「グオォォォーーーーーッ!!」
「ぐあっ!」「ぐはっ!」「しまっ…!?」
ズメイが暴れ回り。首と尻尾を振り回した
イディ、ヤマト、アーロンが吹き飛ばされる
「あっ…」
その後ろには、範囲魔法を狙っていたイージュンとフィーナ
後衛が狙われた
ズメイが咢を開き、一直線に跳び込んだのだ
だが、その動作の前からセフィ姉は準備をしていた
水属性の魔力と輪力を練り、剣をズメイに対して一直線に突き出した
スッ……
「・・・・・・・」
一瞬の静寂
ズメイも俺達も、まるで時が止まったかのような
それどころか、森も空も空気でさえもが静止
そして、時が動き出した…
ドッパーーーン!
ズッドォォォォン!
ズメイの身体が破裂
目や傷口から血が吹き出し、飛び出そうとしていた勢いごと地面に落下
痙攣しながら、しかし声を発することも無く地に伏した
「な、何が…」
「セ、セフィリア様の奥義、水属性の境地だ」
ヤマトの問いに、アーロンが答える
「アーロン、イディ。ズメイを追い詰めて気を抜いたわね。手負いの獣の危険性は分かっているはずよ」
「も、申し訳ありません…!」
「フィロメナ、後衛と前衛の間を開けたままなのは感心しないわ」
「は、はい!」
「イージュン、ズメイの攻撃範囲の認識が甘いわ。意識が攻撃によって、身の安全が疎かになっている」
「す、すみません…」
「さぁ、反省は後ね。ズメイの解体と素材回収の手配を」
「了解しました!」
プロの騎士は切り替えも早い
ここは危険な立ち入り制限地区、切り替えは必須と言うことか…
「セ、セフィリア様、別のモンスターが接近して…!」
斥候の騎士が、慌てた声を上げた