三章 第七話 居酒屋
用語説明w
ケイト
茶髪の獣人女性。トウデン大学体育学部の先輩で柔道部。明るい性格、ふくよかな胸でキャンパス内でも人気が高い。したたかな性格のヤワラちゃん
ランディ先輩
ゴドーの同期であり、魚人の男性。柔道部に所属しているが、柔術もするグラップリングエリート
武道館
「やっぱりこっちの道場は綺麗でいいなー」
「うちの道場と偉い違いだよ」
今日は出稽古
柔道…ではなく、グラシアン柔術だ
「ラーズとロン、よく来たな」
「ランディ先輩、よろしくお願いします」
ゴドー先輩は知り合いの道場に練習しに行くと言って、俺達にグラップリングの稽古を言い渡した
「ゴドーは来ないのか?」
「…来ないですよ。いつも逃げるんだから」
ケイト先輩が不機嫌そうに言う
「あの鬼が逃げるって、何かあったんですか?」
「まぁ、あいつとは色々あったからな。別に気にすることじゃないんだが」
ランディ先輩が頭をかく
「何があったのか、聞いても…」
「はいはい、練習しよ。今日は道場を使える時間が限られてるんだから!」
そう言って、ケイト先輩がパンパンと手を叩く
「ケイト先輩、ランディ先輩、よろしくお願いしまーす!」
道着姿の女子が、今日は多いな
「ふふふ、合気道部の子に声をかけて来たの。かわいい子、多いでしょ?」
「俺はケイト先輩が一番かわいいと思います」
ロンが即答
あっ、この野郎!
「ケイト先輩はきれい、だな。子供じゃないんだから」
「おいおい、ラーズ。何言ってくれてんだ?」
「抜け駆けするなって、みっともない」
「ほー、今日はやる気なんだな?」
「ケイト先輩は譲らん」
俺とロンが掴みかかろうとした瞬間
「えいっ!」
「ぐはぁっ!」
「やぁっ!」
「がっはっ!」
ケイト先輩が続けざまに俺とロンをぶん投げる
背負投げと袖釣込腰だ
「もー、二人とも変なことで喧嘩しないで。さ、練習しよ?」
「腰が…」
「受け身取れなかった…」
「何をやってるんだ、お前たちは…」
練習前からフラフラになってる俺達を見て、ランディ先輩が呆れていた
「グラレイド柔術は護身術だ。今日は未経験者もいるから、初歩の護身術を教える」
ランディ先輩が皆の前に立つ
「ランディ先輩は、グラレイド柔術の茶帯なの。上から二番目の色で、大会とかで実績を残さないと取れない帯なんだよ」
ケイト先輩が言う
「ケイト先輩とランディ先輩ってどっちが強いんですか?」
「男女差があるからねー。でも、寝技で私は絶対に勝てないし、投げでも運良ければって感じかなぁ」
「…ランディ先輩って、そんなに強いんですか」
俺達は、投げでも寝技でもケイト先輩に全然勝てない力では俺達のほうが強いのに、だ
そのケイト先輩が言うんだからよっぽどなんだな
「最初は柔術立ちからだ」
「柔術立ち?」
「護身術で一番大切なのは、まず逃げられること。倒れてしまっても、すぐに立ち上がって逃げられるための立ち方だ」
意外だな、寝技のイメージが強い柔術で立ち方を教わるなんて
ランディ先輩が仰向けに倒れる
「ここから上体起こし、右手を後につく。そして、左足の踵と右腕で腰を浮かし、右足を思いっきり後ろに引く」
長座の状態から右足を引いて、ランディ先輩立ち上がる
「これが柔術立ちだ。立つのに使っていない左手は相手に向けて防御に使う。さぁ、やってみよう」
「はい!」
俺達は柔術立ちを繰返し練習する
「これは打撃・寝技ありの総合ルールや道着を着た東玉流ルールでも使える。倒されても、隙を見てすぐに立ち上がるのが基本だ」
「はい」
確かに、地味だが使える技術だ
俺とロンは、何度も繰り返した
その後は寝技の基本などの練習
今日は穏やかな練習でいいな
「それじゃあ、ここまで。体験の人は、よかったらまた来て下さい」
「ありがとうございました!」
合気道の女子たちや、何人かが帰っていく
「それじゃあ、ここからは試合を想定した稽古だ。頑張ろう」
「はい!」
…え?
俺とロンは顔を見合わせる
そこからが稽古の本番
補強という筋力トレーニング
前に習った三角絞めや腕十字の寝技の打ち込み
繰り返される寝技のみのスパーリング
「じ、時間が経たない…」
「一ラウンド三分が長い…」
「寝技、疲れるでしょ?」
「キツイっす…」
「あはは。それじゃあ、次は私とやろ」
その後、ケイト先輩にもバキバキに極められた
・・・・・・
「お疲れ!」
「うい」
俺とロンはビールジョッキで乾杯
ここは、イサグ駅側の居酒屋チェーン店「魚々」だ
パリパリ
「軟骨うまいわー」
「居酒屋って油もんばかりだな」
「理由は単純だろ。食べないの?」
「油…、アスリートとして…。理由って何だ?」
「美味しいから」
「…」
納得したのか、ロンもパリパリと軟骨を食べ始める
ゴクゴク…
「ふぅ、今日も疲れたな」
グビグビ
「寝技の疲れは打撃と違う」
「ケイト先輩、強いよなぁ。女なのに」
「悔しいし情けねーよ。手も足も出ない」
そう言って、ロンがビールを飲み干す
ゴクッゴクッ
「ロンは打撃ができるからいいだろ」
「ラーズも上手くなってきただろ。ビールお願いします」
「あ、もう一杯! そう? でも、自覚はあまりないんだよな」
「タオを完封してただろ。あれは上達したからだ。ビールありがとうございます」
俺達はビールを受け取る
「いやぁ、この苦いビールが旨く感じる」
「これも訓練の成果だよなぁ」
俺達はもう一度乾杯
グビグビ
「そういや、あのブラックマンバもあれ以来静かだよな」
グイグイグイ
「確かに。俺達にやられて懲りたんじゃないか?」
プフッ…
「だといいな。うちの大学の奴もやられてたとか言ってたし。ボディビルパイセンとか」
「脅されて金をゆするっって悪い奴らだ。ああいう奴らはしっかりとやってやらないとな」
「ロンのその正義感は何なんだよ」
「だって腹立つだろ」
「そりゃそうだけどさ、変に俺達でやらないで、お巡りさんにお願いした方がいいって」
ゴクゴク
「分かってるっての。ただ、眼の前でやられてたら、くらいだよ」
グピグピ
「…それで俺は巻き込まれたんだけどな」
「そうだったか?」
「毎回そうです。訴えたいです」
「みみっちいこと言うな。男だろ」
「俺は喧嘩は苦手なの。性別関係あるか!」
………
……
…
「飲みすぎた…」
「大丈夫かよ」
「ロン、酒強いんだな…」
帰り道
ロンと同じ量を飲んだはずなのに俺だけがフラフラ
理不尽だ…
「そう言えばさ」
ロンが言う
「何だよ?」
「ゴドー先輩とランディ先輩ってなにかあるのかな」
「…確かに、言葉を濁してたよな」
「ケイト先輩も、いつも逃げるって言ってたし」
「ランディ先輩もいろいろあったって」
「…」
「…」
「気にならないか?」
「めっちゃなる」
俺とロンは頷き合う
あの鬼のゴドーの弱みが見られるだと?
興味あるじゃないか!
「それじゃあ、ロンが聞いて」
「何で俺だけなんだよ」
「だってパンチが飛んできそうじゃん」
「俺はミドルキックに一票」
「…」
「…」
本人に聞くのはダメだ
自殺行為だ
「そうだ、ケイト先輩に聞けばいいだろ」
ロンが振り返る
「でもさ、ケイト先輩も言い淀んでなかった? 教えてくれるかな」
「だからさ、飲みに誘って聞いてみるんだよ」
「…それ、いい。ロン、天才かも」
「だろ? ここだよ、ここ」
ロンが頭を指差す
「イラッとするけど、一人で決行しなかったから許す」
「まぁ、ゴドー先輩の関係で俺だけで誘うのも変だからな」
「そうだな、持つべきものは戦友だ。抜け駆け無しね」
俺とロンは、駅で別れる
たまには飲みに行くというのもいいもんだ
「…酒臭っ!」
「そうなの?」
そして、帰るなりフィーナに鼻を抓まれてちょっと傷付く俺
自分の臭いは自分では分からないもの
気を付けよう…
ランディ先輩 二章 第二十五話 武部会3




