二章 第三十二話 UDF
用語説明w
ロン
黒髪ノーマンの男性。トウデン大学体育学部でラーズの同期。形意拳をやっていたが、ゴドー先輩の強さに感化されて総合空手部に入部。熱い性格で、ラーズとよくつるんでいる
ゴドー
鬼のゴドーの異名を持つ獣人男性で空手部の先輩。ケイト先輩の一年先輩だったが、留年して同期になった。好戦的な性格で、体格とセンスにも優れる。その実力はプロの格闘家を並み
ケイト
茶髪の獣人女性。トウデン大学体育学部の先輩で柔道部。明るい性格、ふくよかな胸でキャンパス内でも人気が高い。したたかな性格のヤワラちゃん
「お疲れ様でーす」
俺とロンは、久々に道場に顔を出す
「おう、戻ったか」
「はい。何とか卒検をクリアしました」
「後は、平日に試験場に行って免許を取るだけっす」
俺とロンは、卒検を一発クリア
合宿の延長はせずに済んだ
「ゴドー先輩、見て下さいよ」
ロンが俺の右手を持ち上げる
「痛っ、おいっ、ロン!」
「何で怪我なんかしてるんだ? 免許の合宿だったんだろ」
「絡まれたんですよ」
「ロンが喧嘩を買うからだろ、俺は嫌だったのに。おかげで、ハンドル握るとすげー痛かったんだぞ」
「ちゃんと勝ったな?」
「そっち!? 喧嘩したことを止めて下さいよ! 他流試合なんですよ!」
「東玉流は、好きにやれ。そして、ちゃんと勝てが教えだ」
「それ、武道じゃなく喧嘩の理論でしょ!」
そんなこんなで、俺達はフルコン空手のユースフが言っていたことをゴドー先輩に話す
「UDFだと?」
ゴドー先輩の表情が変わる
「し、知ってるんですか?」
ゴドー先輩、怒ってない?
怖いんだけど!
「…まぁな」
「ラーズにUDFに出ろとか言って誘われてたんですよ」
「結局、それって何なんですか?」
「…地下格闘技ってやつだ」
ドゴー先輩は、めんどくさそうに説明をしてくれた
UDF
アンダー・ドッグ・ファイトの略
負け犬の意味であるアンダードッグと、戦闘機同士の戦いであるドッグファイトから取った名称
表の格闘技からドロップアウトしたもの、そもそもスタイルが表にそぐわないもの、そんな負け犬たちを集めて行われるストリートファイトの団体だ
「そ、そんな団体があるんですか」
「不良共や腕自慢が小遣い稼ぎや腕試しで出ている。上位陣にはプロの格闘家とかもいたな。…当時は」
「当時はって…」
「俺も、少しだけ出てたんだよ」
「へぇ…」
「ランキングの上位は報酬も良くなる。だから、それレベルも相応に上がる。中には武芸者なんて奴も出ていたな」
「武芸者ってなんですか?」
「剣とか槍とかの武器の腕に全てを捧げたって連中だ。噂じゃ、用心棒やって人を切ったり、果し合いで命を懸けた勝負をするって話だ」
「な、何ですか、そのヤベー連中。UDFって、武器もありなんですか?」
「いや、素手のみだ。だが、武芸の一環として素手での戦いをするためにUDFに出てるんだとよ」
「ほへー。人を簡単に殺しちゃうようなの、相手にしたくないですね」
「やべーぞ。普通に目突きとか噛みつきをしてくるからな」
「…!」
とりあえず、UDFがヤベー地下格闘技ってことは分かった
あのフルコン三人衆、そんな場所で試合に出てんのかよ…
関わるのはやめとこう、うん
今日の稽古も、柔道部との合同訓練
俺達は、武道館へと向かう
「お、ラーズ君、ロン君、いらっしゃーい。そして、お帰りなさい」
「ケイト先輩、合宿から戻りました」
「今日もよろしくお願いします」
今日は、春の大型連休の最終日
休日のため、武道館は空いている
しかし、柔道部の人数は多い
「今日はね、うちの流派の先生が来てくれているの」
「凄い先生なんですか?」
「凄いよ。警察官や護衛官、防衛軍にも武術指導に言ってるの」
「す、凄そう…」
防衛軍とは、シグノイア防衛軍のこと
国軍であり、国土防衛やモンスターの討伐を行うための組織だ
「今日は、ゴドー先輩も柔道やるんですね」
「偉い先生とやらを見てみようと思ってな」
やって来たのは、柔道着を着た初老のノーマンの男性
体格は普通で、別に大きくはない
「よし、それじゃあ回転運動から、打ち込みやるよー!」
ケイト先輩が声をかけて、一斉に動き出す
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「やっぱ、柔道の稽古もきつい…」
俺とロンは、息を整える
「それじゃあ、学習をやるよ。みんな、集まって」
ケイト先輩の声で、道場の中心に集合
あれ、ケイト先輩って二年だよね
何でさっきから仕切ってるんだろう
「よーし、それじゃあ、出足払いからだなぁ」
のんびりと先生が言う
出足払い
相手が踏み込んだ瞬間、その前足を足裏で払って倒す足技
体重の乗った瞬間を狙うことが理想だが、これで一本を取れるのは稀
通常は連絡技の一つに使われる
「そこの大きいの、ちょっと手伝ってくれ」
「はい」
柔道部の、一番背の高い先輩が前に出る
でかいな、身長が百八十センチメートル以上ある
身長や体格ならゴドー先輩にも負けてない
「ほい、行くぞー。一、二…」
スパン!
キレよく、でっかい先輩が倒れる
「こういう風に、相手の体重の動きを見極めれば、効率よく人は倒れる。だが、試合中にそんなことは簡単にはできん」
先生の言葉に、皆が頷く
「だから、力で無理やり投げることも時に必要になる」
先生がでっかい先輩の柔道着を持つ
「ほい…」
ドッパン!
「…っ!?」
先生がでっかい先輩の襟を引っ張った瞬間、足を払う
その勢いが凄すぎて、百八十以上ある先輩の身長が浮き上がる
まるで重力がないかの如く、その勢いのまま、でっかい先輩の身体が先生の肩の高さまで浮き上がる
しかもだ、ただ浮き上がるだけでなく、水平に真横になった状態でだ
「…!!」
飛んだ先輩の顔に驚愕の表情が浮かぶ
ドタァッ!
先輩はそのまま畳に落下
「なんじゃ、受け身をとらんと危ないぞ?」
先生が声をかける
受け身を取り損ね、でっかい先輩が衝撃で呼吸困難になっている
「す、すげぇ…」
「力もあるんだろうけど、力だけじゃ、あの体格差で浮かせられないよ」
ケイト先輩が驚いている
「払う足の速度、体幹の安定、身体操作の効率化。全てを極めると、ただの足払いがああなるんだな」
ゴドー先輩が頷く
セフィ姉も凄かったけど…
達人って、こういう所にもいるんだなぁ…
「ケイト先輩、ありがとうございました」
「また、稽古しようね」
「じゃあな」
稽古が終わり、俺とゴドー先輩は旧道場へと戻る
ちなみに、ロンはロッカーに忘れものを取りに行った
「そういや、どうだったよ。フルコンとの喧嘩は」
ゴドー先輩が尋ねる
「いや、怖かったですよ。でも、ゴドー先輩が言った通り、最初にぶん殴ろうと思って動きました」
「そうか。人間ってのは、あれやろうとか、負けたらどうしようとか考えだしたらキリがねぇ。だから、やることを一つに集中するのがいいんだ」
「確かに。なんとか体が動きました」
「これで、またブラックマンバの奴らに襲われても喧嘩できるな」
「いや、したくないです! ただ、一応、稽古の成果は出てるなって思いましたけど」
「ほー、言うじゃねーか」
「だって、KO勝ちですよ。凄くないですか?」
「バカ、それはたまたまだろ。左フックは当てやすいし、しかも、顔面パンチ無しの流派には最適だったんだ」
「え…」
「お前は、たまたまいい選択をして、たまたまタイミングが合っただけだ。服を脱いでみろよ」
「…」
俺は、柔道着の上を脱ぐ
俺の胴には、痣が複数
更に、黄色くなっている場所もある
これは、内臓のダメージかもしれない
めちゃくちゃ痛いのだ
「やっぱりな。フルコンタクト空手は近距離、ボディへの連打とローだ。あと一回か二回、殴り合ってたら、立てなくなってたのはお前だろ?」
「はい…」
その通り、腹は痛いし、足は引きずりかけていた
数発で、めちゃくちゃ効いていたのだ
「ギリギリの逆転勝ちだな。その左フックが当たってなければ、負けてたのはお前だ。運がよかったな」
「うぅ…」
しばらくすると、道場が見えてきた
「ゴドー先輩。ロンの奴、凄いんですよ」
「ん?」
「フルコンの奴を二人も倒したんです」
「まぁ、ロンには拳法の土台があるからな。打ち負けない体幹と、崩れないフットワークがある。それは大きいな」
「俺も、そういう土台、作れますかね」
「しばらくは無理だな」
「えぇっ!?」
「アホ、一朝一夕で身に付くわけねーだろ。それこそ、毎日サンドバッグを蹴って、乱捕りして、補強してだ」
「そ、そうですよね…」
「秋にはお前らの出る大会もある。それまでに、いろいろ仕上げないとな」
「は、はい」
「おーい!」
振り返ると、ようやくロンが走って来た
「よし、今日は飯でも行くか。お前らの免許習得記念だ」
「ありがとうございます!」
「ごちそうさまです!」
俺達は、着替えて飯屋に向った




