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十章 第二十話 最後のけじめ

用語説明w


ロン

黒髪ノーマンの男性。トウデン大学体育学部でラーズの同期。形意拳をやっていたが、ゴドー先輩の強さに感化されて東玉流総合空手部に入部。熱い性格で、ラーズとよくつるんでいる。龍形拳の名が知れ渡り黒髪龍と呼ばれている。


ゴドー

鬼のゴドーの異名を持つ獣人男性で空手部の先輩。ケイト先輩の一年先輩だったが、留年して同期になった。好戦的な性格で、体格とセンスにも優れる。ついにプロデビューを果たしたが、訳有って電撃引退した


ケイト

茶髪の獣人女性。トウデン大学体育学部の先輩で柔道部。明るい性格、ふくよかな胸でキャンパス内でも人気が高い。柔道はシグノイア指定強化選手なるほどで、したたかな性格のヤワラちゃん


大学の最寄り、イサグ駅の近くにある倉庫

そこに、人が集まっていた


この倉庫は、数日前に警察の特殊部隊が突入

ミタテ組というマフィアが壊滅するという騒動があった



「何、この人だかりは?」

ケイトがゴドーに尋ねる


「ラーズとロンがやるっていう噂が広まっていたらしいな」



この人混みは、白髪竜と黒髪龍…

双竜対決を見に来た観客だ


このタイマンを広めた者、それはUDFや地下格闘技も食い散らかしている格闘技ファン

観戦者タフマンだ


たまたま聞きつけた双竜対決

二度と見られない二人の名勝負を、伝説とするために広めた男だ



「…どうして、道場じゃダメだったの?」


「本気になれないんだろ、いつもの環境じゃ」


「あんたが喧嘩をやらせすぎたからでしょ」


「あいつらが勝手に…」


言いかけて、ゴドーは口を閉じる



昨日、旧道場での最後の稽古


「ゴドー先輩。俺とラーズ、勝った方の相手をしてください。…全力で」


「ふん、いい顔になったじゃねーか。ボコられて、道場に逃げてきてた奴がな」


「…」


「…お前らの喧嘩の内容を見て考えてやるよ」


ゴドーはそう答えた




「来たぞ!」


ロンとラーズが、ほぼ同時に入って来る



そして、対峙


「…二人だけの東斗杯だ」


「遠慮は無し。全力で、だ」


短い言葉を交わす



「ケイト」


「はいはい…」



ケイト先輩が俺とロンの間に立つ



「………始め!」


少しだけ、俺達二人の顔を見た後、よく通る声で発声した




集中


ロンに、全力をぶち込む


俺の四年間を、だ



ボッッ!


全力の、出し惜しみのないロンのストレート



俺の耳の横の空気が吹き飛ばされる


その勢いに、俺は体が流れた


カウンターが打てない



「…」


集中しているロンの目

俺を壊すためと思うと、ゾクリとする



ロンの殺気…

こんなに怖かったのか


これが、本気のロンと対峙してきた奴が感じていたこと



間合いを詰められ、腕を一瞬掴まれる

意識を散らされた


足への踏みつけ蹴り

龍形拳の腿法への入りだ



「おぉぉっ!」


バックハンドブローを振り切り、回転しながら距離を取る



危なかった…

気が付いたら、ロンの距離にされていた

これがロンのうまさだ


空手部に入った頃…


ロンの技に驚いた

練度というものを分からされた


今は?

俺の練度は、ロンに届いたか?



「おぉぉぉぉっ!」


ロンに憧れた

だが、俺達はただの親友だ!


本当の憧れは、そこにいる鬼だ

お互いの目標は、俺達なんかじゃねぇ!


ロンにビビるだと!?

そんなことは、俺が許せないんだよ!



力の入ったコンビネーション


速さじゃない、ガードをさせて押し込んでいく



「ラーズ君、またキレた?」


「いや…」


ケイトとゴドーが見守る



ラーズの表情には、気迫と歓喜が浮かんでいる


今までは、恐怖に呑まれた、立ち向かえない自分への羞恥が生みだす狂気


だが、今は…

あのカリスマに挑んだ時の恍惚感がある

強敵にビビり、それでも戦えている自分が嬉しくて仕方がないのだ



ゴッ!


「うぉぉっ、クロスをかぶせた!」



歓声が上がる


ロンのジャブに右をかぶせた

スイッチからの右フック、ラーズの得意技だ



「…ラーズ君、冷静だね」


「カリスマに、気迫と勢いだけで突っ込んで負けた。それを、本人が一番分かっている」


格闘技における思考は重要だ


勢いで突っ込んで勝つ

それは実力差が大きかったり、相手を畏怖させることでしか成立しない


喧嘩において、ブチキレることに一定以上の効果はある

だが、格闘技の場合は全員が鍛えてきている


特に、相方であるロンに通じるわけはない

それは、ロンの強さへの信頼だ



………高速での打撃の応酬


蹴り、突き、肘、膝、頭突き

ラーズの打撃がロンを徐々に押していく



「均衡が崩れてきた…」


「手数と有効打はラーズの方が上だな」


「本当の東斗杯で、二人を見たかったね」


「…」



ラーズは、怯えを怒りで塗りつぶす癖があった

だが、やっと克服した


ラーズのスタイルは、何をするかわからない

左右の基本技を高レベルで繰り出す


高速戦闘に向いている




ドゴォッ!


「…っ!?」



ロンの、ローからの全力の跳歩崩拳

ガード上から、思いっきり仰け反らされる


ガード越しに頭を討ち抜かれた

頭がボーっとする



左右で構えを変え、どっちも変わらずに使うラーズ

左右で構えを変え、武術と格闘を切り替えるロン


左右の差異をとことん無くす VS 左右で完全に切り替える

ゴドーが考えた、二人の真反対のスタイルが完全に噛み合っている



「な、なんだよ、この試合…」

「あいつら、あんな凄い殴り合いの中で笑ってるぞ」


観客は、二人から殴り合いから目が離せない


「ゾーン…」

ケイトが呟く


アスリートの究極の境地

精神的なリラックスと緊張のバランスが噛み合った、最大のパフォーマンスを出せる状態


訓練をしてきた者が、ごく稀に入ることができる状態だ



ゴッ!


ズドッ…!



ロンに引っ張られる

被弾が増えてきた


関係ねぇ、押し負けるな

壊れるなよ、俺!



…ロン


四年間、楽しかった!


自分を持っていて、曲げない信念

悔しかった!


そして、嬉しかった!

俺は、こうなりたいんだって思えたからな!




…ラーズ


俺はお前に助けられた

喧嘩でも、稽古でも、お前は最後まで俺を見捨てなかった


喧嘩もできないくせに、弱かったくせに

俺を助けに来やがった


どんなにヤバい状況でも、機転を利かせた


見捨てない

絶対に、なんとかしてくれる

時に、ブチ切れてもだ


お前の安いプライドを、尊敬していた!



「うおぉぉぉっ!」


「がぁぁっ!」



拳で思いが伝わる

そんなことがあるのだろうか


だが、関係ない

だって、満足できちまうから



…ゴドーとケイトは悟った

二人が同時に勝負に出たことを


乱戦の中での、必殺の一撃


全てのリスクを内包し、それでも繰り出した集大成だ




一瞬のタックルのフェイント、ラーズが飛び出した


ロンが迎え撃つ



正面から、ラーズが右ストレート


いや、伝統派空手のような飛び込みの逆突きだ



ズドォッ!



ラーズの腹に、ロンの腰を落とした崩拳が突き刺さる


そのままラーズの身体が硬直、横に倒れる



「黒髪龍の勝ち……あっ!?」


観客が騒ごうとした瞬間、ロンがトサッ…と倒れた


「え…?」


ケイトがゴドーを見る




ラーズは、逆突きに出た


だが、()()()()()()


そのまま正面には行かず、横にすれ違うように着地


真横から、ロンの顎を右で打ち抜いた



ロンはラーズの位置に集中していた


ラーズの勢いを、拳から肘、身体、下半身と一直線で受け止めるつっかえ棒とする


浸透するボディ突きだ



「顔面と思いきや、真横から顎を引っかけられて脳を揺らされたロン君。予想以上の貫通力でボディを打ち抜かれたラーズ君。どちらも、予想を裏切った一撃ってことかぁ…」


ケイトが見つめる


相変わらず、腹を抑えて動けないラーズ

意識を飛ばされたロン


ダブルKOも納得だ



「それだけじゃない。ラーズは、拳を捻って手を広げ、柔らかい掌底部分に顎に引っ掛けた。脳を揺らして意識を刈り取ることに特化した突きだ」


「拳だと、骨が当たる分、顎の骨に威力が逃げちゃうもんね」


「ロンは相打ちを狙っていた。それを察知して、ラーズは真横に逸れて打ち抜いたんだ」


「…だけど、ロン君はラーズ君の動きに反応した」


「そうだ。ラーズが飛び込むのを見越し、絶対に避けられないボディを打ち抜いた」


相手の勢いを地面と下半身で受け止める

発勁の基本だ



ラーズが正面から行っていたら、突進の勢いを利用されて負けていた

ロンの反応が一瞬でも遅れていたら、先に意識を飛ばされていた


完全に同時の奇跡

気合、戦術、技、力…、全てが拮抗したぶつかり合い


…青臭いプライドをかけた、青春の終着点だ




「………!」


い、痛ぇ…



腹を貫かれた


完全に腹筋を貫通された


体が痙攣して、息を吐くこともできない



ロンを見る


ピクリとも動かない



「…」


ロン立てよ…



お前が向かって来ないと立てない


俺を焦らせろ


痛すぎて、苦しすぎて頑張れない


休んでんじゃねーよ、この野郎…



「ぅ…」


ロンがピクッと動く



そして、ガバッと起きようとして、身体が動かずに横たわる


足がガクガクしている


完全に効いている



「…何やってんだ、眠いのか?」


ロンが、立てないくせに何か言って来る


「………バーカ。ロンが起きるの待っててやってんだよ」


「…あぁ? お前、動けなかったんだから俺の勝ちだろうが」


「それでいいんだー。おねんねしてて、そんなんで勝ちなんだー。よかったねー」


「ざけんな! おら、来いよ!」


「ロンこそ来いよ、ほら!」



お互い、足が全然いうことを聞かない


こんなこと、初めてだ


意識はあるのに、立つことができないのだ



「二人共、楽しそう」


「ようやく、納得のいく試合が出来たのかもな」



ゴドーが動く


「満足したか?」


「あ…」

「まぁ…その…」


未だに立てない

それが、急に恥ずかしくなる



「これで、双竜コンビはストリートファイトを卒業だ。そうだな?」


「…はい」

「そうっすね」


「それぞれ、就職して新しい場所へ行く。喧嘩はこれで最後」



「そうかー、双竜コンビも卒業か」

「ストリートにも来なくなるのか」

「俺、ファンだったんだけどな」

「しかたねーよ。いつかは、な」



ゴドー先輩とケイト先輩が、双竜コンビのストリートファイトの卒業を宣言してくれた

これで、本当の意味で卒業だ


「さ、帰るぞ」


「ぐっ…」

「………!」


俺とロンは、互いに支えながら、震える足でなんとか立ち上がったのだった




タフマン 九章 第三十八話 B-1 その11


明日、閑話を投稿して十章完結

終章へと続きます、序章と同じくらいの話数の予定です


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