十章 第十八話 けじめ2
用語説明w
UDF :アンダードッグファイトの略。マフィアが開催する裏格闘技でありストリートファイト興行。賭けの対象にもなっており、強い選手はファイトマネーもかなりのもの
ロン
黒髪ノーマンの男性。トウデン大学体育学部でラーズの同期。形意拳をやっていたが、ゴドー先輩の強さに感化されて東玉流総合空手部に入部。熱い性格で、ラーズとよくつるんでいる。龍形拳の名が知れ渡り黒髪龍と呼ばれている
「…ミタテ組だと?」
ゴドー先輩の眉間にしわが寄る
「アルバロが拉致られるって…、俺とロンを呼び出すためにって!」
「ラーズ君、落ち着いて。ミタテ組って、ツカサ・ファミリーの傘下のマフィアでしょ? 警察に捕まったんじゃなかったの?」
ケイト先輩が俺の肩に手を置いく
「ミタテ組は、傘下とはいえ別の組だ。上層部がやられたときに、トカゲの尻尾になって逃げだしたのかもな」
「ふざけやがって。ゴドー先輩、ラーズと行ってきます」
「ダメだよ、人数揃えて待ち構えてるに決まってるんだから!」
ケイト先輩が、今度はロンを止める
ピピピピピ…
「あ、電話です。また、アルバロから」
俺は、電話に出る
「…白髪竜か、久しぶりだな」
「誰だよ、お前」
「ふん、ミタテだ。ツカサ・ファミリーの借りを返させてもらう」
「…」
「てめーの連れを拉致った。UDFの倉庫に来い、黒髪龍と二人でな」
「アルバロは無事なのか?」
「今のところはな。…マフィアを警察に潰させておいて、楽しく大学を卒業できると思ったのか? 言っておくが、逃げたらこいつだけじゃねぇ。テメーの大学にもカチこんでやるからな」
そう言って、ミタテが電話を切った
「ラーズ、さっさと行くぞ」
「分かってる」
「お前らは、先に行ってろ」
「ちょっと、ゴドー!」
「俺とケイトで、準備して行く。無理はするなよ」
「え?」
意味が分かっていないケイト先輩を、ゴドー先輩が引っ張って行った
…俺とロンは、二人で前を見据える
やって来たのは、イサグ駅近くの貸倉庫
何度となくUDFで戦ってきた、マフィア御用達の場所だ
「おう、来たか」
倉庫の周囲には、柄の悪い男達
派手な服を来た不良がたむろしていた
「アルバロはどこだ?」
「中だ。わざわざクソ真面目に来るとは、自殺志願者かよ」
不良がにやける
ゴキャッ!
「ぶぁっ!?」
思いっきり、前蹴りをぶち込んでやる
不意をつかれた不良がズルズルと壁に寄りかかって倒れる
「て、てめー!」
「騒ぐな、クソ共が。ちゃんと来てやったんだ、さっさと案内しろ」
ロンが睨む
「それとも、ここで俺達とやり合うって言うのか?」
「…」
俺が言ってやると、不良共が黙って道を開ける
通れと言う意味だろう
俺とロンはその中を進み、倉庫の中へと入る
「…」
中には十数人の不良共が待っていた
外と合わせて、三十人くらいはいる
多いな
「来たか」
奥に、木箱を椅子にして座っている男がいた
「どうも、ミタテ組長」
「約束通り来たんで、アルバロを返してやってくださいよ」
俺とロンが軽口を叩くと、ミタテの目がつり上がった
「…どうやったのか知らねーが、ツカサ・ファミリーは壊滅だ。それもこれも、お前らがルチアノをやったからだ」
「あいつは、自業自得でやられただけだ」
「ルチアノに使われなくなってよかったすね」
「クソガキが。自分の親父をやられて、黙ってるマフィアがいると思うか?」
ミタテが組を持てたのは、ツカサ・ファミリーのトップのおかげ
だからこその、ツカサの傘下ってことか
「だったら、警察に戦いを挑んで来ればいいだろ。パクったのは警察なんだから」
「俺達一般人に、いちいち構って来るんじゃねーよ」
「ちっ、口の減らねーガキどもが。おい」
「…」
「あっ…!」
「お前!」
ミタテ組と子分共の後ろから出て来たのは…
入学前に俺をぶん殴って、ケイト先輩と出会うきっかけとなった
そして、入学式の日に俺をボコり、ゴドー先輩と合うきっかけとなった
タオだった
「…今日こそ、お前らをやってやる」
「ルチアノの舎弟になったって言うのに、雑魚過ぎて見逃されたのか?」
「よかったな、タオ。いつも逃げ回っててよ」
「ふざけやがって、状況がわかってんのか!」
タオがナイフを取り出す
それを合図に、奥の不良がアルバロを引っ張って来た
「ラーズ…」
アルバロの顔面が腫れている
一、二発ぶん殴られたようだ
「…何で、そこまで俺達に構うんだ?」
十人以上の集団に囲まれて、人質を取られている
おまけに、タオの手にはナイフ
最悪な状況だ
「てめえらが俺を舐めてるからだ!」
「それはお前が悪いだろ。タイマンも張らないで、逃げ続けやがって」
「ああ。自分で喧嘩する度胸もない腰抜けなんて、舐めて当然だろ」
「だから、舐めんじゃなぇ! やってやるって言ってるんだ!」
「武器使ってかよ、クソだな」
「それより、そいつの治療だけさせろ。関係ない奴にケガさせやがって」
「うるせぇっ、誰が死のうが関係ないんだよ!」
「ひっ…」
ナイフを突きつけられて、アルバロが悲鳴を上げる
「あんた、組のボスなんだろ? なんでこんな茶番に付き合ってるんだ?」
ロンが、今度はミタテに言う
タオが興奮していて、話にならないと判断したようだ
「ファミリーがやられたのに黙っている。マフィアとして、そんなことをすれば世間から舐められる。商売あがったりだ」
「…まさか、ツカサ・ファミリーの壊滅を俺達のせいにして、ボコって復讐したってことにするつもりか?」
「実際、世間じゃお前ら双竜コンビが動いてツカサが壊滅したってなってる。だから、タオの手助けをしてやってるんだ」
「…」
「ククク…。お前らは今日、俺達に消される。そして、ミタテ組はツカサの親父の仇を取り、ファミリーの後継として名乗りを上げる」
「町のかわいそうな大学生をボコって仇を取っただ? ずいぶん安上がりだな」
「こんな簡単に、敵討ちができるんだ。コスパがよくて助かるぜ」
ミタテがニヤつく
ツカサ・ファミリーが壊滅したことによって、この町の利権は宙に浮いている
それらを手中に収めるには、大義名分と恐怖が必要だ
ツカサ・ファミリーの傘下であるミタテ組が、敵討ちをすることによる大義名分
そして、仇を消すという暴力と凶悪性
この二つがすぐに実行できるってわけだ
俺達二人を消すことなんて、こいつらにとっては簡単なことだ
「…さぁ、お楽しみの時間だ」
タオがナイフを構える
「心配しなくてもいい。お前らはここで処理して、行方不明になる」
控えている不良達が、鉈などを見せて来る
ここで、身体をばらして海にでも捨てる気かよ
「抵抗はしていいのか?」
「ダメだ。動けば、アイツはどうなるか分からないぜ」
タオが、アルバロをチラッと見る
「結局、タイマンもできない、と…」
「ナイフ持ってるくせにな。ホント、クソだよな」
俺とロンは肩をすくめる
「言っておくが、この倉庫の周囲はミタテ組の舎弟が囲んでいる。逃げられると思うなよ」
「…」
倉庫内外には、合計三十人以上の組員と不良
ナイフを持ったタオ
人質のアルバロの
抵抗が出来ない
したとしても、この人数差じゃ勝てない
どうしようもない
「さ、やれ。タオ」
ミタテが、有無を言わせない凄みで命令する
「…」
「男を見せろ。初めての殺しで二人、名が上がるぜ」
「…はい」
タオがナイフを構える
「万が一、発覚したら、タオ。お前が一人で背負え。だが、心配するな。お前にはミタテ組の幹部としての席を用意しておく」
「…」
「ま、そうそう発覚なんてしねぇ、心配すんな。今まで何度も処理してるんだ。今後はお前にもやってもらうからな」
「わ、分かりました」
「よし、やれ。因縁にカタをつけて、この世界でのし上がるぞ」
「…!」
ミタテに言われて、タオがナイフを握りしめる
その手が震えている
人を殺せと言われているのだ
そりゃそうだ
「…」「…」
俺とロンが構える
「無駄だ、抵抗するな!」
アルバロの横にいる男が言う
その手にもナイフだ
「タオが失敗しても、次は俺達に殺されるだけだ。諦めろ」
「ノコノコやって来るってのが平和ボケだ」
「いつでもお巡りさんが助けてくれると思ってたんだろうな」
「来なかったら、家と大学にかち込むだけだがな」
「ちげぇねぇ、マフィアと揉めたのが運の尽きだぜ」
「ぎゃはは」と、クソみたいな笑い声をあげるミタテ組の組員
にじり寄るタオ
後退る俺とロン
ガララララ…
「…っ!?」
はっと振り返ると、倉庫のドアが開いた
「おーい」
振り返ると、ケイト先輩がドアから顔を出していた




